愛でられて、絆される
「━━━━絆奈、今日泊まってかない?」

那王の腕枕で、頭を撫でられている絆奈。
その心地よさに目を瞑り浸っていると、那王の声が頭の上から降ってきた。

「え?でも明日、仕事だし…」
見上げて、申し訳なさそうに言った。

「やっぱ、ダメ?」

「………」
(泊まりたいのは山々なんだけど……)

「絆奈…離れたくないよ……」
更に抱き締められた。

「うん…」
(私だって…でも━━━━━)
那王の胸に顔を埋め、絆奈は昔のことを思い出していた。



絆奈は大学生の時、恋人に裏切られた過去がある。

大学二年の時、友人に誘われて飲み会に出掛けた絆奈。
いわゆる合コンで、絆奈はその中の一人にお持ち帰りされた。

絆奈は酔っぱらうと控え目さがなくなり、かなり軽い女になる。

少しでも甘い言葉をかけられると、ホイホイついて行ってしまうのだ。

そんなこんなである男にホテルに連れていかれ、一夜を共にした。

その後、その男に告白された絆奈。
それから交際を開始。

その男は、那王にとても似ていた。

容姿だけ見れば、那王に勝るモノはない。
しかし、その男を包む雰囲気が那王そのモノで、絆奈は彼に夢中になった。

一人暮らしをしていた彼の家に泊まることや、朝帰りは日常茶飯事だった絆奈。

彼の予定に合わせるため、大学の講義をサボることも多かった。

とにかく離れたくなくて、半同棲状態だった。

ただひたすら彼に夢中になり、荒れた生活をしていた絆奈。

そんなある日━━━━━━━

それは、大学四年の春。
『絆奈、ごめん、別れてくれ』

何の前触れもなくフラれたのだ。

彼には、婚約者がいた。
大学卒業と同時に、その婚約者と結婚することが“最初から”決まっていたのだ。

絆奈に告白した時には既に婚約者はいて、絆奈はそれまでのただの遊びだったのだ。

“結婚前の最後の戯れ”

そう言われ、一方的に捨てられた。



だから絆奈は、お泊まりや朝帰りに抵抗がある。

あの時━━━彼に盲目になり、思うままに彼にしがみついていた絆奈。

“また、捨てられるのでは?”
“今度は、仕事を蔑ろにしてしまうのでは?”

“もう二度と、同じ間違いを繰り返さない”

そんな思いでけじめをつけるため絆奈は、できる限り仕事日のお泊まりや朝帰りをしないようにしているのだ。
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