愛でられて、絆される
オーナー室で、パソコン画面をジッと見つめている那王。
しかし、全く仕事が進んでいない。

一文字も打ち込まれていない画面を見ながら、考えることは“絆奈のこと”

“島山って先輩と相変わらず仲良いみたいだし”

この言葉が、ずっと那王の頭の中でこだましていた。

スマホを掴む。
絆奈にメッセージを打とうとする。

タッ、タッ、タッと、スマホをタップする音が響く。
「………」

途中までメッセージを打って、ピタリと那王の動きが止まった。

「………って…島山さんのことを聞いて、僕はどうしたいの?」

絆奈と島山の間には、色々なことがあったらしい。
あの後、袴田が岸峰に聞いたらしいのだ。
もちろん、内容までは聞いていない。

『それは、私の口からは言えません。
ただ一橋さんにとって島山さんは、辛い時に支えてくれた人なんです』

10年。
10年もあれば、絆奈にだって色んな事があって当たり前だ。

そんなことは、わかっている。

でも言葉にできない思いで、心臓が潰れそうだ。


「━━━━━オーナー、お客様来られましたよ!」
しばらくして、ノックの音がして袴田が那王を呼びに来る。

「あ、うん」
ゆっくり椅子から立ち上がり、ドアに向かおうとする。

「………」

「何?」

「そんな顔で行くんですか?」
いつになく、真剣な表情(かお)の袴田。

「は?」

「“なんかありました”って表情(かお)してますよ。
その顔じゃ、接客できなくないですか?」

「………」

「俺、上手く言っとくんで、その顔を戻してVIPルームに来てください」

那王は、洗面所に向かう。
顔をじゃぶじゃぶと洗い、鏡に映る自分を見た。
「…………確かに…スッゴい、顔…」

両頬をパシンと叩き、気合いを入れる。
「よし!」
そして、VIPルームに向かった。

袴田のおかげで接客も上手くいき、なんとか仕事をこなす。
気づいた時には、ランチの時間をとうに過ぎていた。

「あ!おにぎり!」

絆奈手作りのおにぎり。
それを食べれば、少しは満たされるだろう。

ランチバッグを開け、弁当箱取り出した。
「ん?手紙?」

例のメッセージカードだ。
二つ織りのそのカードを開いた。

【那王くん、仕事お疲れ様!
今日から、お弁当箱にこのメッセージカードを添えたいと思ってます!
今日は、那王くんの婚約者として初めてのお弁当です!
那王くん、私はあなたが大好きです!
私も、那王くんとずっと一緒にいたいです。
これからも、末長くよろしくね!】
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