愛でられて、絆される
「疑ってますよ。
だって、島山さんは絆奈が好きでしょ?」

「だからって、一橋の幸せを傷つけるようなことはしません」

「それも、わかってます。
でも絆奈は、島山さんに助けを求めた。
僕じゃなくて、島山さんを………」

「那王くん、それは━━━━━」

「そりゃそうでしょ?
だって、由利原さんは出張中でここにいない。
しかも閉めたはずの鍵が開いてたなんて“あの事”を思い出すに決まってる。
そりゃあ…冷静に考えたら、由利原さんが帰って来てるのかも?とか思えたかもだが、トラウマを持ってる一橋からしたら冷静に考えられるわけがない。
そうでしょ?」

「“あの事”?」

「あの事です」

「………」

「え?由利原さんは“あの事”を知らないんですか!?」

「あ、先輩!那王くんは知らないです!」

「は?
お前等、結婚すんだよな?
なんで!?」

「………」

「あの事は、知っててもらうべきだろ?
まだお前は、克服できてねぇんだから!
これからは、由利原さんと乗り越えていかないとだろ!?
確かに、互いに全部を知り合うべきだなんて言わねぇ。
でも“あの事”は知っててもらわねぇと!」

「………」

「━━━━━━絆奈」
「あ…那王くん…」

「教えて?
岸峰さんも言ってた。
“島山さんは、辛い時に支えてくれた人”って。
その事と関係してるんだよね?」

「………うん…」

「島山さんの言う通りだよ!
僕は、絆奈の婚約者だよ?
できる限り、知っておきたい。
苦しいことも、辛いことも……
言ったよね?
僕に一番に頼ってって!
絶対に、一人で悩まないでって!」

「………」

「一橋」

「………」

「絆奈」

「………」
絆奈は、一度ギュッと目を強く瞑った。

そして目を開け、那王を見据えた。

「話、すね……」

身体が、震える。
でも那王や島山の言う通り、話さなければ……

すると、那王がゆっくり絆奈を包み込んだ。
優しく抱き締め、背中をゆっくりさする。

「ゆっくりでいいよ。
大丈夫……大丈夫だからね……!」

その優しく温かい声色に、スッと震えが止まった。

ゆっくり向き直り、那王が安心させるように頷く。
絆奈も頷き、那王を見据えた。
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