涙は甘いケーキに溶けて
職場でもプライベートでも、にこにこ笑って普段と代わりなく振る舞って、一度も他の女の影を見せたことなんかなかったくせに。
こんなふうに、突然、後ろから突き落とすみたいな裏切り方をされるとは思わなかった。
それとも、彼を信頼しすぎていた私がバカだったのかな。
うつ向けに寝転んだまま、右手の薬指に嵌めていた指輪を引き抜くと、ベッドの傍にあるゴミ箱に落とす。
ポトリ……。
指輪がゴミ箱のそこにぶつかる音がして、ようやく涙がこぼれた。ポタリ、ポタリと、涙の粒が枕に落ちて沁みていく。
悲しいのか、悔しいのか。それとも淋しいのか。頭が混乱していて、心の整理もつかなくて。
でも、もう二度と彼と笑い合うことはないのだということだけはわかった。
静かに涙をこぼしていると、不意に、部屋にインターホンの音が鳴り響く。
私は、夜遅くの訪問者の音にハッとした。まさか、彼が——……。
数時間前に最悪な裏切り方をされたばかりなのに、慌てて起き上がって玄関に走る私の頭には、彼の顔しか浮かばなかった。