涙は甘いケーキに溶けて
「メリークリスマス、サンタクロースです」
相手も確認せずにドアを開けてしまうなんて、かなり不用心だったと思う。
押し開けたドアの向こうから顔を出したのは、彼のはずはなく。彼と仲の良い職場の同期の高瀬だった。
どこで手に入れてきたのか、頭にはどう見てもサイズの合っていない赤色のサンタ帽子がのっかっている。
「サンタから、ケーキのプレゼントです」
こんな時間に、人の気も知らないで。浮かれた帽子を被ってやってきた高瀬に腹が立つ。
「頼んでません」
冷たい声でそう言ってドアを閉めようとしたら、「ちょ、待って待って」と、高瀬が慌てた様子でドアの隙間に手を差し込んで、無理やり押し開けてきた。
「おれね、今日残業してたんだよ。クリスマスなのに。で、やっと仕事が片付いて、一人寂しく帰ってたら、駅前のケーキ屋さんでホールケーキがひとつ売れ残ってて。一人ぼっちで寂しそうだったから、連れ帰っちゃった。おれ一人で食べきれないから、小野さん一緒に食べてくれない?」
高瀬がホールケーキの入った箱を顔のそばまで持ち上げて、にこっと笑う。
その笑顔と、言っていることの意味不明さと、クリスマス・イヴの夜更けにアポなしで突撃してくる厚かましさに戸惑った。