【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。
◇
強引だとわかっていたが、願い事をかざしてレティに膝の上で眠ってもらった。
膝の上にかかる重みがただ愛おしくて、何度もレティの名前を呼んでしまう。
「はぁ、ご主人様の膝の上で爆睡するなんて緊張感のない奴め」
ジルが呆れきった表情でレティを見つめた。
「いいんだ。レティとの間にある壁を取り払いたかったから強引にさせたことだし、こうやって安心して身を任せてくれると嬉しいよ」
そう、これは僕が願ったのに応えてくれただけ。
レティの方からこうやって甘えてくれたら、どんなに幸せだろうか。
いまは贅沢な願いかもしれないが、こうやって求めていればいつかきっとレティが当たり前のように甘えてくれるかもしれないと、希望を抱いている。
「……むにゃ。ノエル、待って……」
レティが寝言で名前を呼んでくれた。
夢の中で僕とどんな話をしているのか気になるけど、聞いたところでレティは教えてくれないだろう。
顔にかかる髪を梳き流すと、穏やかに眠る顔が現れる。
寝息をたてて無防備に眠っているレティの頬に、そっと唇を落した。
「ノエ、ル」
「ん? どうしたの?」
寝言とわかりつつ、名前を呼んでくれるレティがかわいくて返事をする。
柔らかな髪に触れて、返されることのない言葉を待っていると、レティがいきなり体をすり寄せてきたものだから、心臓が大きく脈を打った。
「寒かったのか……心臓に悪いな。嬉しいけど」
寒そうに身を縮ませるレティのために魔術でブランケットを取り出してかける。
どうやら温まってきたようで、レティの体の強張りが解けてきた。ふにゃりと力を抜いて頭を預けてくれる姿を見ていると、胸の中で気持ちが甘く、重苦しく渦巻く。
「本当は、レティの心が欲しいと強請りたかった」
しかし願い事を叶えるために貰ったところで何の意味も成さない。虚しいだけの、ともすればわだかまりになり得る、一時の安らぎでしかないのだ。
そんなことをすれば、いままでレティと積み上げてきた関係が崩れてしまう。
焦っている。
しかし、レティの心の中に芽生えた感情が育つまで待たなければいけないと言い聞かせて耐えている。
学園の庭園でレティが見せた表情で確信を持っていなければ、いまごろもっと焦っていただろう。
レティはきっと、僕のことを好いてくれている。
その気持ちに気づけていないのか、それとも自覚しないようにしているのか、わからないけど。
だからレティがその気持ちを隠さなくてもいいように誘導しようと試行錯誤を繰り返している。
「早く気持ちを伝えさせて。我慢するのももう辛いんだけど?」
だけど、レティの心が追いついてくれるまで待つよ。
そう決意したのを嘲笑うかのように、レティはいとも簡単に僕の気持ちをひっくり返してくれた。
「ノエル、好き」
自分の耳を疑った。
こんなにも唐突に、何の前触れもなく聞かせて動揺させてくれるなんて、さすがレティだとしか言いようがない。
「好き、なの」
「……じゃあ、なんで泣いているんだ?」
ずっと聞きたかった言葉を聞かせてくれたレティは、泣いている。
なぜ好きと言いながら泣いているのかわからない。思い当たる理由が全くなかった。
「ノエルお願い、避けないで」
「どうして、そんなことを言う? 僕がそんなことすると思っているなんて心外だ」
遠回りをし過ぎて、逆にレティを不安がらせてしまったのかもしれない。
温かな涙が溢れている目元を拭って抱きしめると、レティは泣き止んだ。
「拒絶されるのを恐れるほど愛してくれていると、思っていいんだな?」
泣いているレティには申し訳ないが、そこまで想ってくれているのは正直嬉しい。
芽生えた気持ちはもう十分に育ってくれたようだ。
だから我慢しないで、この想いを伝えるよ。
「レティ、覚悟してくれ」
どうかこの想いを、受け止めてくれ。
強引だとわかっていたが、願い事をかざしてレティに膝の上で眠ってもらった。
膝の上にかかる重みがただ愛おしくて、何度もレティの名前を呼んでしまう。
「はぁ、ご主人様の膝の上で爆睡するなんて緊張感のない奴め」
ジルが呆れきった表情でレティを見つめた。
「いいんだ。レティとの間にある壁を取り払いたかったから強引にさせたことだし、こうやって安心して身を任せてくれると嬉しいよ」
そう、これは僕が願ったのに応えてくれただけ。
レティの方からこうやって甘えてくれたら、どんなに幸せだろうか。
いまは贅沢な願いかもしれないが、こうやって求めていればいつかきっとレティが当たり前のように甘えてくれるかもしれないと、希望を抱いている。
「……むにゃ。ノエル、待って……」
レティが寝言で名前を呼んでくれた。
夢の中で僕とどんな話をしているのか気になるけど、聞いたところでレティは教えてくれないだろう。
顔にかかる髪を梳き流すと、穏やかに眠る顔が現れる。
寝息をたてて無防備に眠っているレティの頬に、そっと唇を落した。
「ノエ、ル」
「ん? どうしたの?」
寝言とわかりつつ、名前を呼んでくれるレティがかわいくて返事をする。
柔らかな髪に触れて、返されることのない言葉を待っていると、レティがいきなり体をすり寄せてきたものだから、心臓が大きく脈を打った。
「寒かったのか……心臓に悪いな。嬉しいけど」
寒そうに身を縮ませるレティのために魔術でブランケットを取り出してかける。
どうやら温まってきたようで、レティの体の強張りが解けてきた。ふにゃりと力を抜いて頭を預けてくれる姿を見ていると、胸の中で気持ちが甘く、重苦しく渦巻く。
「本当は、レティの心が欲しいと強請りたかった」
しかし願い事を叶えるために貰ったところで何の意味も成さない。虚しいだけの、ともすればわだかまりになり得る、一時の安らぎでしかないのだ。
そんなことをすれば、いままでレティと積み上げてきた関係が崩れてしまう。
焦っている。
しかし、レティの心の中に芽生えた感情が育つまで待たなければいけないと言い聞かせて耐えている。
学園の庭園でレティが見せた表情で確信を持っていなければ、いまごろもっと焦っていただろう。
レティはきっと、僕のことを好いてくれている。
その気持ちに気づけていないのか、それとも自覚しないようにしているのか、わからないけど。
だからレティがその気持ちを隠さなくてもいいように誘導しようと試行錯誤を繰り返している。
「早く気持ちを伝えさせて。我慢するのももう辛いんだけど?」
だけど、レティの心が追いついてくれるまで待つよ。
そう決意したのを嘲笑うかのように、レティはいとも簡単に僕の気持ちをひっくり返してくれた。
「ノエル、好き」
自分の耳を疑った。
こんなにも唐突に、何の前触れもなく聞かせて動揺させてくれるなんて、さすがレティだとしか言いようがない。
「好き、なの」
「……じゃあ、なんで泣いているんだ?」
ずっと聞きたかった言葉を聞かせてくれたレティは、泣いている。
なぜ好きと言いながら泣いているのかわからない。思い当たる理由が全くなかった。
「ノエルお願い、避けないで」
「どうして、そんなことを言う? 僕がそんなことすると思っているなんて心外だ」
遠回りをし過ぎて、逆にレティを不安がらせてしまったのかもしれない。
温かな涙が溢れている目元を拭って抱きしめると、レティは泣き止んだ。
「拒絶されるのを恐れるほど愛してくれていると、思っていいんだな?」
泣いているレティには申し訳ないが、そこまで想ってくれているのは正直嬉しい。
芽生えた気持ちはもう十分に育ってくれたようだ。
だから我慢しないで、この想いを伝えるよ。
「レティ、覚悟してくれ」
どうかこの想いを、受け止めてくれ。