【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。
それから夕食を終えて、ノエルがお義父様とお義母様と話すのを傍で見守っていると、すっかり夜が更けてしまった。
お義父様とお義母様は、ノエルにこれまでのことを謝ったり、ノエルが起きて良かったと喜びの言葉を口にしたりを延々とループして、最後には言葉にならない言葉を喋っていた。
ノエルは戸惑いつつも嬉しそうだった。
二人に向かって心からの笑顔を見せているノエルを見ていると、私もジルもミカも、ドバッと涙を流してしまって。
混沌とした部屋の中に呼ばれた使用人たちもまた、つられて泣いていた。
◇
お義父様とお義母様が部屋から出て行くと、ノエルはベッドの縁に腰かける。
なにをするのかと見守っていると、両腕を広げて、笑顔で私の名前を呼んだ。
「えっ、そこに座れってこと?」
「うん。支えるから大丈夫」
「病人に支えさせるわけにはいかないわよ」
「じゃあレティにもたれかかってもいい?」
「い、いい、けど」
上目遣いで見られると負けてしまう。
いつもより弱っているノエルにされると威力が割増しになって、どうしても抗えない。
しかたがなくベッドの縁に腰かけるとノエルの両足と両腕に閉じ込められて、肩にはノエルの頭がのしかかる。
「いろんなことがまだ実感わかなくて、嬉しいけど不安なんだ。だからレティを抱きしめてるとホッとする。レティは変わらず僕を大切にしてくれているから」
ノエルはホッとするようだけど、私は心臓が口から飛び出しそうだ。
バクバクと激しく脈打つ音がノエルに伝わっていそうで焦る。
だけどノエルの戸惑いはわかるから、大人しく抱きしめられた。
国王が裁判にかけられていることを、ノエルはお義父様とお義母様から聞かされた。
あれからアロイスが主導になって大々的な捜査が始まると、国王の罪がボロボロと露見してしまい、刑罰は幽閉どころではすまないだろうと言われている。
そんな父親の尻ぬぐいのために、アロイスはいまや週に一度しか学園に来ていない状況だ。
もっと学生時代を謳歌させてあげたかったけど、これが王族の宿命なんだと、グーディメル先生に説き伏せられてしまった。
そんな複雑な事情はあれど、正直なところ、ノエルが国王に苦しめられることはもうないからホッとしている。
自由になって、育ての両親と和解して、ようやくノエルは、普通の幸せを手にしたところだ。
だけど長年の苦しみのせいでノエルはまだ完全には安心できないみたいだから、時間をかけてゆっくりと、ノエルの不安を一緒に取り除いていこうと思う。
「レティ、さっきの言葉をもう一度聞かせて」
ノエルが背後でもぞりと動いた。
「ど、どの言葉?」
「愛してるって言ってくれたこと」
「待って、ちょっと心の準備をさせて」
「待たせているうちにまた僕が眠ってしまったらどうする?」
「くっ……」
それはごめんだ。
ノエルの手に乗るのは癪だけど、もう伝えられないままではいたくない。
熱くなる頬をそのままにして、振り返ってノエルの紫水晶のような瞳を見つめた。優しい眼差しを受けると胸が軋んで、甘くて温かな気持ちが漣のように押し寄せる。
「ノエル、愛しているわ。ノエルがいない毎日がすごく寂しかった。心にぽっかりと穴が開いてしまったようで、喪失感に苦しめられてた」
「……嬉しい」
「ちょっと! こっちは苦しんでいたのに『嬉しい』はないでしょう?!」
「ごめん、それほどレティが想ってくれているのが嬉しくて――もう一度聞かせて?」
甘ったるい声で強請られると胸の奥が疼いてしまう。
むずむずとして、ノエルにその様子を見られるのが耐えられない。
それにノエルの色気駄々洩れの眼差しにただならぬ妖しさを感じて、本能が「逃げろ」と伝えてくるのだ。
「い、いいけど、入れ替わって!」
「入れ替わる?」
呆気にとられたノエルの腕の力が緩んだのを見計らってノエルから逃げる。そのままノエルの隣に座って、今度は私がノエルの背中に手を回して抱きしめた。
一見するとスラッとしているノエルだけど、抱きしめてみるとわりと筋肉がついていて両手は中途半端な場所を掴んでしまう。
それでもありったけの力でノエルを引っ張って自分に引き寄せた。
「ノエル、愛してる」
「僕もレティの事、愛してる」
「ノエルを失うかもしれないと思った時、本当に怖かった」
「少しは僕の気持ちわかってくれた?」
「……ええ、不安にさせて悪かったと思うわ」
今回のことで、「寿命が縮んだ」と言ってきていたノエルの気持ちがなんとなくわかった。
大切な人を失うというのは、自分の体の一部を失う以上に恐ろしいということを、思い知らされたもの。
するとノエルが体の向きを変えて、ベッドが軋む音を立てた。
気づけばノエルの瞳がすぐ目の前にあって、そこには私の顔が映っている。
「レティ。約束通り、最高の結末になったでしょ? だからご褒美を――」
「いいえ、まだ終わってないわ」
「え?」
ノエルはぽかんと口を開けて固まってしまった。
その隙にノエルからちょっと離れて距離を保つ。
「みんなが無事に卒業するところまでがシナリオなのよ。まだまだ気を抜けないわ!」
「ということは、来年になるまでシナリオとやらは終わらないと?」
「ええ、そうよ。最後に卒業パーティーがあるんだけど、そこでセラフィーヌさんが断罪されなければようやくハッピーエンドよ!」
「……遠いな」
ノエルは溜息一つついて、私の膝にずしっと頭を乗せた。
「――っ!!!!」
頭の中が真っ白になって声にならない悲鳴を上げる私なんてお構いなしに、「はぁ……ようやくレティを独り占めできると思ったのに」と呟いたかと思うと、そのままふて寝されてしまった。
「ノエル、起きなさい! このまま寝たら風邪ひくわよ!」
「……」
髪を乱しても頬をつついてみてもノエルは離れてくれなくて。
結局この日は学園に帰らずに、ファビウス邸に泊まることになった。
お義父様とお義母様は、ノエルにこれまでのことを謝ったり、ノエルが起きて良かったと喜びの言葉を口にしたりを延々とループして、最後には言葉にならない言葉を喋っていた。
ノエルは戸惑いつつも嬉しそうだった。
二人に向かって心からの笑顔を見せているノエルを見ていると、私もジルもミカも、ドバッと涙を流してしまって。
混沌とした部屋の中に呼ばれた使用人たちもまた、つられて泣いていた。
◇
お義父様とお義母様が部屋から出て行くと、ノエルはベッドの縁に腰かける。
なにをするのかと見守っていると、両腕を広げて、笑顔で私の名前を呼んだ。
「えっ、そこに座れってこと?」
「うん。支えるから大丈夫」
「病人に支えさせるわけにはいかないわよ」
「じゃあレティにもたれかかってもいい?」
「い、いい、けど」
上目遣いで見られると負けてしまう。
いつもより弱っているノエルにされると威力が割増しになって、どうしても抗えない。
しかたがなくベッドの縁に腰かけるとノエルの両足と両腕に閉じ込められて、肩にはノエルの頭がのしかかる。
「いろんなことがまだ実感わかなくて、嬉しいけど不安なんだ。だからレティを抱きしめてるとホッとする。レティは変わらず僕を大切にしてくれているから」
ノエルはホッとするようだけど、私は心臓が口から飛び出しそうだ。
バクバクと激しく脈打つ音がノエルに伝わっていそうで焦る。
だけどノエルの戸惑いはわかるから、大人しく抱きしめられた。
国王が裁判にかけられていることを、ノエルはお義父様とお義母様から聞かされた。
あれからアロイスが主導になって大々的な捜査が始まると、国王の罪がボロボロと露見してしまい、刑罰は幽閉どころではすまないだろうと言われている。
そんな父親の尻ぬぐいのために、アロイスはいまや週に一度しか学園に来ていない状況だ。
もっと学生時代を謳歌させてあげたかったけど、これが王族の宿命なんだと、グーディメル先生に説き伏せられてしまった。
そんな複雑な事情はあれど、正直なところ、ノエルが国王に苦しめられることはもうないからホッとしている。
自由になって、育ての両親と和解して、ようやくノエルは、普通の幸せを手にしたところだ。
だけど長年の苦しみのせいでノエルはまだ完全には安心できないみたいだから、時間をかけてゆっくりと、ノエルの不安を一緒に取り除いていこうと思う。
「レティ、さっきの言葉をもう一度聞かせて」
ノエルが背後でもぞりと動いた。
「ど、どの言葉?」
「愛してるって言ってくれたこと」
「待って、ちょっと心の準備をさせて」
「待たせているうちにまた僕が眠ってしまったらどうする?」
「くっ……」
それはごめんだ。
ノエルの手に乗るのは癪だけど、もう伝えられないままではいたくない。
熱くなる頬をそのままにして、振り返ってノエルの紫水晶のような瞳を見つめた。優しい眼差しを受けると胸が軋んで、甘くて温かな気持ちが漣のように押し寄せる。
「ノエル、愛しているわ。ノエルがいない毎日がすごく寂しかった。心にぽっかりと穴が開いてしまったようで、喪失感に苦しめられてた」
「……嬉しい」
「ちょっと! こっちは苦しんでいたのに『嬉しい』はないでしょう?!」
「ごめん、それほどレティが想ってくれているのが嬉しくて――もう一度聞かせて?」
甘ったるい声で強請られると胸の奥が疼いてしまう。
むずむずとして、ノエルにその様子を見られるのが耐えられない。
それにノエルの色気駄々洩れの眼差しにただならぬ妖しさを感じて、本能が「逃げろ」と伝えてくるのだ。
「い、いいけど、入れ替わって!」
「入れ替わる?」
呆気にとられたノエルの腕の力が緩んだのを見計らってノエルから逃げる。そのままノエルの隣に座って、今度は私がノエルの背中に手を回して抱きしめた。
一見するとスラッとしているノエルだけど、抱きしめてみるとわりと筋肉がついていて両手は中途半端な場所を掴んでしまう。
それでもありったけの力でノエルを引っ張って自分に引き寄せた。
「ノエル、愛してる」
「僕もレティの事、愛してる」
「ノエルを失うかもしれないと思った時、本当に怖かった」
「少しは僕の気持ちわかってくれた?」
「……ええ、不安にさせて悪かったと思うわ」
今回のことで、「寿命が縮んだ」と言ってきていたノエルの気持ちがなんとなくわかった。
大切な人を失うというのは、自分の体の一部を失う以上に恐ろしいということを、思い知らされたもの。
するとノエルが体の向きを変えて、ベッドが軋む音を立てた。
気づけばノエルの瞳がすぐ目の前にあって、そこには私の顔が映っている。
「レティ。約束通り、最高の結末になったでしょ? だからご褒美を――」
「いいえ、まだ終わってないわ」
「え?」
ノエルはぽかんと口を開けて固まってしまった。
その隙にノエルからちょっと離れて距離を保つ。
「みんなが無事に卒業するところまでがシナリオなのよ。まだまだ気を抜けないわ!」
「ということは、来年になるまでシナリオとやらは終わらないと?」
「ええ、そうよ。最後に卒業パーティーがあるんだけど、そこでセラフィーヌさんが断罪されなければようやくハッピーエンドよ!」
「……遠いな」
ノエルは溜息一つついて、私の膝にずしっと頭を乗せた。
「――っ!!!!」
頭の中が真っ白になって声にならない悲鳴を上げる私なんてお構いなしに、「はぁ……ようやくレティを独り占めできると思ったのに」と呟いたかと思うと、そのままふて寝されてしまった。
「ノエル、起きなさい! このまま寝たら風邪ひくわよ!」
「……」
髪を乱しても頬をつついてみてもノエルは離れてくれなくて。
結局この日は学園に帰らずに、ファビウス邸に泊まることになった。