【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。
【電子書籍化記念】ファビウス夫妻の肖像画
退勤していつものようにノエルと一緒に馬車に乗って帰っていると、ノエルが週末の予定を聞いてきた。
「特に予定はないけど……どうしたの?」
「よかった。それなら服飾士を家に呼ぶから一緒にドレスを選ぼう」
「ええっ、ドレスならこの前まとめて注文したばかりよ?」
ちょうど先週の週末に服飾士が家に来て、その際にこの夏に着るドレスをたくさん注文したからもう買う必要はないはず。
そこでふと、嫌な予感がした。
新しいドレスが必要な場面と言えばパーティーだ。私の苦手なパーティーに参加しなければならなくなったのかもしれない。
「もしかして、急遽パーティーが開かれることになったから新しくドレスが必要になったの?」
「いや、私たち二人の肖像画を描いてもらおうと思っているんだ。その時に着る服を用意したくてね」
「あら、肖像画ならこの前描いてもらったばかりよ。そんなに頻繁に描かなくてもいいんじゃない?」
私とノエル、そしてお義父様とお義母様とオルソンの五人で描いてもらった大きくて立派な肖像画があるから十分だろう。
それなのにノエルはどうしても新しい肖像画が欲しいようで、私の言葉に小さく唇を尖らせて抗議する。
「レティと私の二人きりの肖像画がないから描いてもらおうと思っているんだ。絵の中でもレティを独り占めさせてほしいからね」
そう宣言したノエルの行動は実に早かった。
あれよあれよと言う間にドレスやら肖像画を描くときの背景セットやらが用意され、今はファビウス侯爵家の一室に用意された場所で画家に絵を描いてもらっている。
私は椅子に座り、ノエルはその椅子の後ろに立って私の肩と腕に手を置いている。
描いてもらっていると、画家が眉尻を下げた顔で手を止めた。
「ファビウス侯爵、どうかお顔をこちらに向けてください」
どうしたものかと思って振り向くと、うっとりとした表情のノエルと視線が交わった。
「すまない。妻のドレス姿に見惚れていたよ」
謝りながらも、ノエルの視線はまだこちらに向いている。
「レティ、よく似合っているよ。レティの気品と柔らかな雰囲気がいっそう際立っていいね」
「あ、ありがとう。ノエルが素敵なドレスを選んでくれたおかげよ」
ドレス選びはノエルと、肖像画を描くという話を聞きつけてやって来たお義母様がこだわって大変だった。
若草色を基調にして、ノエルのジャケットとお揃いのデザインにするところまでは順調にきまったのだけど――ドレスのシルエットはどうするかなど詳細な部分を決めるところで二人が悩んでしまったのだ。
結局、私が座った時にボリュームがある形にした方が絵にした時の見栄えがいいだろうということで、ウエストから裾までボリュームのあるベルラインの形に決まった。
「このまま誰にも邪魔されることなくレティを見つめていたいな」
「なっ、何を言っているの。描いてもらっているのだから、私ではなく前を見ないと……」
「そうだ、構図を変えてもらおう。私はレティを見つめている様子を描いてもらうよ」
ノエルがふざけて言っているのだと思っていたら、その後ノエルは本当にポーズを変えてしまい、ずっと私を見つめているのだった。
じっと見つめられていた私は気恥ずかしさでずっと頬が熱くなっていた。
きっと、画家から見たら顔が真っ赤になっていたと思う。
◇
それから二週間ほど週末の度に描いてもらい、肖像画が完成した。
見せてもらうと、家族全員で描いてもらった時より明るく柔らかな雰囲気で描かれていた。
「以前の肖像画は重厚な雰囲気があって素敵だったけど、今回の柔らかな雰囲気もいいわね」
「そうだね。これからは二人きりの肖像画を描いてもらう時は、ずっとこの雰囲気にしてもらってもいいね」
ノエルは上機嫌な声でそう言うと、私の頬にキスをした。
「これから一年ごとに――いや、半年ごと……記念日ごとに肖像画を残そう」
「そんなにも頻繁に描いてもらうと、屋敷の中が肖像画だらけになってしまうわ。美術館でも作るつもり?」
冗談でそう言うと、ノエルはまるで天啓を受けたかのように顔を輝かせる。
「いいね。私たちの絵だけを飾る美術館を作ろう。そうすれば私がどれだけレティを愛しているか、いろんな人に知らしめることができる」
てっきりノエルもまた冗談でそう言っていると思っていたのに――ノエルは有言実行してしまった。
それから少し先の未来のこと、愛妻家で知られるノエル・ファビウスは妻と自身の肖像画を飾るために領地に小さな美術館をつくり――それが観光名所となるのだった。
「特に予定はないけど……どうしたの?」
「よかった。それなら服飾士を家に呼ぶから一緒にドレスを選ぼう」
「ええっ、ドレスならこの前まとめて注文したばかりよ?」
ちょうど先週の週末に服飾士が家に来て、その際にこの夏に着るドレスをたくさん注文したからもう買う必要はないはず。
そこでふと、嫌な予感がした。
新しいドレスが必要な場面と言えばパーティーだ。私の苦手なパーティーに参加しなければならなくなったのかもしれない。
「もしかして、急遽パーティーが開かれることになったから新しくドレスが必要になったの?」
「いや、私たち二人の肖像画を描いてもらおうと思っているんだ。その時に着る服を用意したくてね」
「あら、肖像画ならこの前描いてもらったばかりよ。そんなに頻繁に描かなくてもいいんじゃない?」
私とノエル、そしてお義父様とお義母様とオルソンの五人で描いてもらった大きくて立派な肖像画があるから十分だろう。
それなのにノエルはどうしても新しい肖像画が欲しいようで、私の言葉に小さく唇を尖らせて抗議する。
「レティと私の二人きりの肖像画がないから描いてもらおうと思っているんだ。絵の中でもレティを独り占めさせてほしいからね」
そう宣言したノエルの行動は実に早かった。
あれよあれよと言う間にドレスやら肖像画を描くときの背景セットやらが用意され、今はファビウス侯爵家の一室に用意された場所で画家に絵を描いてもらっている。
私は椅子に座り、ノエルはその椅子の後ろに立って私の肩と腕に手を置いている。
描いてもらっていると、画家が眉尻を下げた顔で手を止めた。
「ファビウス侯爵、どうかお顔をこちらに向けてください」
どうしたものかと思って振り向くと、うっとりとした表情のノエルと視線が交わった。
「すまない。妻のドレス姿に見惚れていたよ」
謝りながらも、ノエルの視線はまだこちらに向いている。
「レティ、よく似合っているよ。レティの気品と柔らかな雰囲気がいっそう際立っていいね」
「あ、ありがとう。ノエルが素敵なドレスを選んでくれたおかげよ」
ドレス選びはノエルと、肖像画を描くという話を聞きつけてやって来たお義母様がこだわって大変だった。
若草色を基調にして、ノエルのジャケットとお揃いのデザインにするところまでは順調にきまったのだけど――ドレスのシルエットはどうするかなど詳細な部分を決めるところで二人が悩んでしまったのだ。
結局、私が座った時にボリュームがある形にした方が絵にした時の見栄えがいいだろうということで、ウエストから裾までボリュームのあるベルラインの形に決まった。
「このまま誰にも邪魔されることなくレティを見つめていたいな」
「なっ、何を言っているの。描いてもらっているのだから、私ではなく前を見ないと……」
「そうだ、構図を変えてもらおう。私はレティを見つめている様子を描いてもらうよ」
ノエルがふざけて言っているのだと思っていたら、その後ノエルは本当にポーズを変えてしまい、ずっと私を見つめているのだった。
じっと見つめられていた私は気恥ずかしさでずっと頬が熱くなっていた。
きっと、画家から見たら顔が真っ赤になっていたと思う。
◇
それから二週間ほど週末の度に描いてもらい、肖像画が完成した。
見せてもらうと、家族全員で描いてもらった時より明るく柔らかな雰囲気で描かれていた。
「以前の肖像画は重厚な雰囲気があって素敵だったけど、今回の柔らかな雰囲気もいいわね」
「そうだね。これからは二人きりの肖像画を描いてもらう時は、ずっとこの雰囲気にしてもらってもいいね」
ノエルは上機嫌な声でそう言うと、私の頬にキスをした。
「これから一年ごとに――いや、半年ごと……記念日ごとに肖像画を残そう」
「そんなにも頻繁に描いてもらうと、屋敷の中が肖像画だらけになってしまうわ。美術館でも作るつもり?」
冗談でそう言うと、ノエルはまるで天啓を受けたかのように顔を輝かせる。
「いいね。私たちの絵だけを飾る美術館を作ろう。そうすれば私がどれだけレティを愛しているか、いろんな人に知らしめることができる」
てっきりノエルもまた冗談でそう言っていると思っていたのに――ノエルは有言実行してしまった。
それから少し先の未来のこと、愛妻家で知られるノエル・ファビウスは妻と自身の肖像画を飾るために領地に小さな美術館をつくり――それが観光名所となるのだった。