【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。
外に出ると真っ黒な雲が低く垂れこめていて、雷鳴は轟き続けている。
そんな状況で回廊から見る校舎は、さながら魔王城のようだ。
「レティシア、」
「ひゃい」
だからだろうか。
隣を歩く婚約者様は、魔王のように見えてしまう。
「どうしてアロイス殿下と話をしていたんだ?」
「調べ物していたら偶然会ったのよ」
ノエルは私とアロイスが話していたのが気になるみたい。
もしかして、裏切って王室側の人間に密告していると思われたのかな。
ここは誤解を解いて、バッドエンドを防がないといけない。アロイスからノエルに危害を加えることはないんですもの。
ノエルがアロイスへの恨みを募らせないようにしないと!
「調べ物?」
「ええ、例の、あなたと約束していた素材のことよ」
契約結婚の条件の一つである、ロアエク先生の解呪の協力。
ノエルが探し回っている薬草を私が見つけることで、王室側の人間に知られずにロアエク先生の呪いを解いてあげたい。
「調べ物していた割には、随分と楽しそうに殿下と話していたよね」
「ほ、ほら、生徒との会話は大切でしょ?」
ううっ、疑り深い。
ロアエク先生はどうやってこんなノエルの心を開いていったのか気になってしまう。
ロアエク先生は、誰に対しても優しくて、みんなのお母さんって感じの人だった。
私もロアエク先生にお世話になってて、不安なことがあって相談しに行くと、いつも手を握って話を聞いてくれていた。
その手の温もりにほっとしたのは、ノエルも一緒だったのかも。
もしかしたら、ロアエク先生のようなお母さんっぽい接し方をすれば、もう少し心を開いてくれるのかしら?
試してみる価値はあるわ。
ノエルの闇堕ちを防ぐには、もっと【なつき度】を上げる作戦を取らなきゃいけないもの。
名付けて、【第二のオ☆カ☆ン作戦】!
ノエルにとって一番はロアエク先生だから、あえてその座は狙わずに、謙虚に第二のオカンとして接することにするわ。
「ノエル、」
「ん?」
「手をつなぎましょ?」
両手を差し出すと、ノエルは豆鉄砲を食らったような顔になる。
「なぜ?」
ロアエク先生の真似をしてみました、なんて言えないから。
「う~んと、ノエルに安心して欲しいから」
と、それらしく言ってみた。
すると、彼が生み出した雷雲が消えて行って、美しい夕暮れの景色が広がってゆく。どうやらノエルの怒りは消えたようで。
「私を第二のお母様と思って甘えてくれたらいいのよ?」
この作戦は上手くいったのかもしれない、と心の中でガッツポーズをしていると。
「っあなたは、なにを言い出すかと思えばっ……!」
ノエルはなぜか耳まで真っ赤にして、わなわなと震えながら怒ってきた。
作戦は成功したかと思いきや、失敗してしまったようだ。
なにが良くなかったか、原因を調べて改善策を練らないといけないわね。
◇
準備室に着いてもまだ、ノエルの不機嫌は継続していた。
手をつなごうって言っただけなのに、そんなに怒らなくてもいいじゃない。
「ノエル、お茶淹れるから待ってて」
「……ありがとう」
ムスっとした顔のままお礼を言ってくれる姿は子どもっぽくて、魔性の黒幕らしからぬ仕草に思わず笑ってしまった。
「やい、小娘! 俺様にはミルクを用意しろよ!」
「はいはい」
ジルにあげるミルクをさっと温めてから、薬棚を開けて乾燥させた薬草を取り出す。
リラックス効果のある薬草をいくつか見繕って、ポットの中に入れた。
「解呪に必要な素材、いまはどれくらい集まっているの?」
「モーリュ以外は全部、手に入れた」
「そう、なら早く見つけなきゃいけないわね」
明日は図書館で調べた後に妖精たちに聞いてみようかしら。
また相談料をとられてしまうけど、お菓子を買いに走るくらいならまあ、それほど痛い出費でもないし。
「明日は僕も図書館に行って一緒に探すよ」
「えっ?! 明日は魔術省の仕事がある日よね?」
「定時で切り上げてここに来るから」
「いやいやいやいや、魔術省からここまでけっこう距離があるのに無理しなくていいのよ。早く見つけられるように頑張って探すから、ノエルは仕事頑張って!」
応援しているというのに、なぜかノエルは悲しそうな顔をしてくる。
いきなりそんな捨てられた犬みたいな顔をされると、どう対応したらいいか全く分からないんですけど。
「どうかしたの?」
「レティシアのことが、気になるんだ」
アロイスと話せて浮かれ過ぎていたから幻聴が聞こえてしまったようで、思わず聞き返す。
「え、な、なんて言ったの?」
すると彼はしごく真面目な顔で。
「僕のかわいい婚約者さんが何をしているか気になって毎日眠れないんだ。責任とって相手してくれ」
なんて言ってきた。
じいっと顔を見ると、確かにあまり眠れてなさそうで、顔色は良くない。
どうやら寝不足で頭がバグってしまったようだ。ノエルがこんなかまってちゃんな台詞を言うなんて、おかしいと思ったわ。
「寝不足は良くないわよ。あ、安眠できる紅茶を用意するから待ってて。寝る前に飲むといいわ」
「いや……うん。こうなるってわかってた」
ノエルはそう言うと、テーブルに突っ伏してしまった。
本当に体調が悪そうね。
そんな状況で回廊から見る校舎は、さながら魔王城のようだ。
「レティシア、」
「ひゃい」
だからだろうか。
隣を歩く婚約者様は、魔王のように見えてしまう。
「どうしてアロイス殿下と話をしていたんだ?」
「調べ物していたら偶然会ったのよ」
ノエルは私とアロイスが話していたのが気になるみたい。
もしかして、裏切って王室側の人間に密告していると思われたのかな。
ここは誤解を解いて、バッドエンドを防がないといけない。アロイスからノエルに危害を加えることはないんですもの。
ノエルがアロイスへの恨みを募らせないようにしないと!
「調べ物?」
「ええ、例の、あなたと約束していた素材のことよ」
契約結婚の条件の一つである、ロアエク先生の解呪の協力。
ノエルが探し回っている薬草を私が見つけることで、王室側の人間に知られずにロアエク先生の呪いを解いてあげたい。
「調べ物していた割には、随分と楽しそうに殿下と話していたよね」
「ほ、ほら、生徒との会話は大切でしょ?」
ううっ、疑り深い。
ロアエク先生はどうやってこんなノエルの心を開いていったのか気になってしまう。
ロアエク先生は、誰に対しても優しくて、みんなのお母さんって感じの人だった。
私もロアエク先生にお世話になってて、不安なことがあって相談しに行くと、いつも手を握って話を聞いてくれていた。
その手の温もりにほっとしたのは、ノエルも一緒だったのかも。
もしかしたら、ロアエク先生のようなお母さんっぽい接し方をすれば、もう少し心を開いてくれるのかしら?
試してみる価値はあるわ。
ノエルの闇堕ちを防ぐには、もっと【なつき度】を上げる作戦を取らなきゃいけないもの。
名付けて、【第二のオ☆カ☆ン作戦】!
ノエルにとって一番はロアエク先生だから、あえてその座は狙わずに、謙虚に第二のオカンとして接することにするわ。
「ノエル、」
「ん?」
「手をつなぎましょ?」
両手を差し出すと、ノエルは豆鉄砲を食らったような顔になる。
「なぜ?」
ロアエク先生の真似をしてみました、なんて言えないから。
「う~んと、ノエルに安心して欲しいから」
と、それらしく言ってみた。
すると、彼が生み出した雷雲が消えて行って、美しい夕暮れの景色が広がってゆく。どうやらノエルの怒りは消えたようで。
「私を第二のお母様と思って甘えてくれたらいいのよ?」
この作戦は上手くいったのかもしれない、と心の中でガッツポーズをしていると。
「っあなたは、なにを言い出すかと思えばっ……!」
ノエルはなぜか耳まで真っ赤にして、わなわなと震えながら怒ってきた。
作戦は成功したかと思いきや、失敗してしまったようだ。
なにが良くなかったか、原因を調べて改善策を練らないといけないわね。
◇
準備室に着いてもまだ、ノエルの不機嫌は継続していた。
手をつなごうって言っただけなのに、そんなに怒らなくてもいいじゃない。
「ノエル、お茶淹れるから待ってて」
「……ありがとう」
ムスっとした顔のままお礼を言ってくれる姿は子どもっぽくて、魔性の黒幕らしからぬ仕草に思わず笑ってしまった。
「やい、小娘! 俺様にはミルクを用意しろよ!」
「はいはい」
ジルにあげるミルクをさっと温めてから、薬棚を開けて乾燥させた薬草を取り出す。
リラックス効果のある薬草をいくつか見繕って、ポットの中に入れた。
「解呪に必要な素材、いまはどれくらい集まっているの?」
「モーリュ以外は全部、手に入れた」
「そう、なら早く見つけなきゃいけないわね」
明日は図書館で調べた後に妖精たちに聞いてみようかしら。
また相談料をとられてしまうけど、お菓子を買いに走るくらいならまあ、それほど痛い出費でもないし。
「明日は僕も図書館に行って一緒に探すよ」
「えっ?! 明日は魔術省の仕事がある日よね?」
「定時で切り上げてここに来るから」
「いやいやいやいや、魔術省からここまでけっこう距離があるのに無理しなくていいのよ。早く見つけられるように頑張って探すから、ノエルは仕事頑張って!」
応援しているというのに、なぜかノエルは悲しそうな顔をしてくる。
いきなりそんな捨てられた犬みたいな顔をされると、どう対応したらいいか全く分からないんですけど。
「どうかしたの?」
「レティシアのことが、気になるんだ」
アロイスと話せて浮かれ過ぎていたから幻聴が聞こえてしまったようで、思わず聞き返す。
「え、な、なんて言ったの?」
すると彼はしごく真面目な顔で。
「僕のかわいい婚約者さんが何をしているか気になって毎日眠れないんだ。責任とって相手してくれ」
なんて言ってきた。
じいっと顔を見ると、確かにあまり眠れてなさそうで、顔色は良くない。
どうやら寝不足で頭がバグってしまったようだ。ノエルがこんなかまってちゃんな台詞を言うなんて、おかしいと思ったわ。
「寝不足は良くないわよ。あ、安眠できる紅茶を用意するから待ってて。寝る前に飲むといいわ」
「いや……うん。こうなるってわかってた」
ノエルはそう言うと、テーブルに突っ伏してしまった。
本当に体調が悪そうね。