【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。

第四章 黒幕さん、聞かせてください

 準備室で課題の採点をしていると、ノエルが部屋に入ってきた。
 この人、最近は我が物顔でここに来るようになって、図々しくなった気がする。
 
「妖精たちがロアエク先生の手紙を届けてくれたわよ」
「ありがとう」

 手紙を渡すと、ノエルはしばらく封筒にかかれた字を見つめた。

「懐かしい。先生の字だ」

 ペーパーナイフを貸してあげると、封を開けて読み始める。

「どう?」
「トレントたちと仲良くやってるみたい」
「よかったわ」

 先生は無事にトレントに呪いを解いてもらって、今はアロイスが手配してくれた場所で保護されているらしい。

 ノエルとアロイスが協力するようになったなんて、ゲームには無い展開だから聞いた時には本当に驚いた。
 いいことだけど、その背景になにがあったのか、すっごく気になる。

 聞いてみても、はぐらかして教えてくれないんだけど。

「レティシア、本当にありがとう」
「どう、いたしまして」

 ノエルは無邪気な微笑みを見せてお礼を言ってくれた。
 唐突にそんな顔されたら調子が狂っちゃう。

 私よりもアロイスやトレントに言うべきのような気がするけど、あんまりにも嬉しそうに言ってくれるものだから、素直に受け取らせてもらった。

「ところで、明日は魔術省の仕事でここには来れそうにないよ」
「なにかあったの?」
「モーリアの家を訪問するんだが、いろいろと厄介でね」

 でた。
 攻略対象の一人、ディディエ・モーリアのことだ。

 幼い頃より魔力が強すぎてうまくコントロールできないから塞ぎこんで家に引き籠っているんだけど、ゲームでもノエルに連れられてオリア学園に来るようになるんだよね。

「ノエルはどうして行くの? 担当する部署が違うわよね?」
「モーリアの魔力が暴走したときに対抗できる人を担当させるということになったんだ」

 他国を相手にする部署にいるノエルが国内の案件を受け持つのはなぜかずっと疑問に思っていたんだけど、なるほど、戦闘要員ということか。
 ノエル、強いもんね。

「モーリアさんはきっと、不安な気持ちでいっぱいだろうから、安心させてあげてね」

 ゲームの中のノエルは、他の生徒たちと馴染めるか不安になっているディディエにつけ込んで彼を暴走させようとするんだけど、それをサラが阻止していた。

 今のノエルなら、なにも心配いらないわよね?

 以前、アロイスに自分の上着をかけてあげていたノエルがそんなことをするようになるとは思えないし、そんなことはしないと、信じたい。

「わかってるよ。で、もう一つ言っておかないといけないことがある」
「なに?」
「母上が、レティシアをお茶会に呼んでいる」

 姑キタァァァァ!

 ノエルを疎んでいるとはいえ、婚約するからには交流は避けられないと思っていましたけどね。
 だけど、心の準備が必要なんですわ。

「あ、あら、急にどうしたの?」

 前に挨拶行った時はガン無視されてたんですけど、今回はお呼ばれするからにはなにか考えがあるのよねきっと。

「レティシアと話してみたいそうだ」
「へ、へぇ。お義母様とお話できるなんて嬉しいわ」

 ゲームには出てこなかった、ノエルを黒幕にした張本人との対峙。
 
 どうなっちゃうんだろ。
 いびられるのか?
 ドキドキするなぁ。

「気を遣わなくていい。嫌なら断っても大丈夫だ」
「そんなわけにはいかないわ。あなたの婚約者役を任せてもらってるもの」
「しかし、母上は少し厄介なお方だ。なにかされるんじゃないかと心配なんだよ」

 ノエルが私のことを心配してくれているなんて、感激してしまう。
 やっぱり作戦が功を奏して【なつき度】が上がっていったのかな。

「大丈夫よ。なにかあったらノエルが助けてくれるでしょ?」
「っ僕の苦労を増やさないでくれ。ただでさえ、」

 言いかけて、口ごもってしまった。

「ただでさえ?」
「なんでもない」

 途中で止めるなんて気になっちゃうじゃない。
 なにを言おうとしていたのやら。

 そんなこんなで、週末にファビウス邸のお茶会に招かれることになった。

「あと、これからはミカにもレティシアの傍にいてもらうことにしたよ」
「見張り増えてる?!」

 【なつき度】が上がって信頼されていると思ったのに、見張りを増やされてしまった。

 なんで?!
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