【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。
翌日、久しぶりに、ノエルがいない時間を過ごしている。
以前の自分はどんな風に過ごしていたのか思い出せないくらい、最近は彼といることが多くなったと思う。
昼休みに中庭を歩いていると、サラとイザベルが一緒にいるところを見かけた。
「うげっ! アロイス殿下がいる」
サラが嫌悪感をあらわにした声が聞こえてくる。
視線の先にはアロイスがいて、ベンチに腰かけている。その隣にいるセザールは、彼女の顔を見て、なにやら愉しそうに口元を歪ませている。
「サラったら、そんな言い方するのは淑女らしくないですわよ」
「ううっ、だってアロイス殿下がいたらイザベルを独り占めできないんだもん~!」
イザベルが窘めると、サラは上目遣いで訴えている。
ヒロインなだけあって、そのかわいさには破壊力がある。
おいっ、あなたは悪役令嬢を攻略しようとしてるのかい?!
「まったく、サラは甘えん坊なんだから」
そう言ってサラの頭を撫でるイザベルがイケメンに見えてしまった。
「あれっ? メガネ先生どうしたんですか?」
サラは私に気づいて目をぱちくりさせている。
「ちょっと散歩していたのよ」
「それなら一緒にお話しましょー! 私、メガネ先生のこと大好きー!」
天真爛漫で無邪気なのがサラらしい。
微笑ましい気持ちになっていると、不意にセザールが話しかけてきた。
「先生、モーリアが戻ってくるのは本当ですか?」
「そうよ。みんなで迎えましょうね」
「もちろんですよ。楽しみです」
そう話すセザールは不敵に微笑んでいる。なんだかその笑顔、嫌な予感しかしないんですけど。
おい、鬼畜メガネ。
余計なことはするなよ?
傷心気味のディディエをいじめるとか外道がすることだからね?
弱い者いじめダメ絶対。
セザールの企み顔のせいで胃が痛くなっていると。
「はぁーい! いっぱい話しかけまーす!」
サラが舌足らずな話し方で応えてくれる。
頼んだぞ、ヒロイン。ディディエをゲーム通り助けてあげてね。
◇
午後の授業を終えると、廊下に控えていた事務員さんが教室に入ってきた。
「ベルクール先生、生徒の保護者がお見えです」
「あら、どなたかしら?」
「モーリア家のブレーズ様でございます」
おお、噂をすればモーリア家。
ブレーズ様といえば、ディディエの兄で次期当主だ。
魔法省の人間が家に来るとわかっていながらここに来るなんて、なにかあったのかな?
ひとまず、ブレーズ様が待っている応接室に行くことにした。
「ベルクール先生、ご無沙汰しております。突然押しかけてすみませんが、弟のことで少し話をしたくて」
ブレーズ様は亜麻色の髪を頭の後ろで結わえた美しい人で、歳は三十代。さすが攻略対象の兄弟となると、メインキャラ並みにイケメンだ。
「いいえ、ディディエさんのお力になりたいので、なんでもお話ください」
「ありがとうございます」
柔らかに微笑むその顔は、ゲームの中で見たディディエにそっくり。
ディディエも彼と同じ、亜麻色の髪を持つ中性的で線が細くて綺麗な顔立ちだ。
「もうすぐディディエが生活することになる場所を、見ておきたいんです」
ディディエは入学して間もない頃に上級生に絡まれてしまい、その時に力をコントロールできなくなってしまって怪我を負わせてしまったのよね。
幸い、目撃していた生徒たちの証言で彼の魔法は正当防衛だったことになったんだけど、ディディエは自分を追い詰めてしまって、寮の部屋から出てこれなくなってしまったのよね。
彼の希望もあって実家で休むことになったんだけど、お屋敷に行っても、部屋から出てこなくて話せないまま。
顔を合わせて話したいところだけど、ディディエは人を傷つけたくない一心で閉じこもっているから、無理に会うわけにもいかなくて。
「かしこまりました。案内しましょう」
だからディディエのために力になりたいとは思いつつ、実は気乗りしないこの保護者対応。
なぜなら、ブレーズ様はいささかブラコンが過ぎるから。
「この席の並びでは隣の人との距離が近すぎて、繊細なディディエにはストレスになると思うんですけど?」
「モーリア卿、考えてみてください。自分だけ他の生徒たちと距離があった方がディディエさんは疎外感を感じてショックを受けてしまいませんか?」
心を菩薩モードにして耐え抜くしかない。
前世でも教師をしていて良かったと思う。
モンスターペアレントの扱いに慣れているから。
「む、確かにそうですね」
度重なる家庭訪問でブレーズ様との攻防を繰り広げるうちに扱いのコツは掴んでいる。
ディディエのためと説明して納得してもらう所存だ。
「お次は寮に案内していただけますか?」
「わかりました」
彼の希望通り、学生寮へと向かった。
以前の自分はどんな風に過ごしていたのか思い出せないくらい、最近は彼といることが多くなったと思う。
昼休みに中庭を歩いていると、サラとイザベルが一緒にいるところを見かけた。
「うげっ! アロイス殿下がいる」
サラが嫌悪感をあらわにした声が聞こえてくる。
視線の先にはアロイスがいて、ベンチに腰かけている。その隣にいるセザールは、彼女の顔を見て、なにやら愉しそうに口元を歪ませている。
「サラったら、そんな言い方するのは淑女らしくないですわよ」
「ううっ、だってアロイス殿下がいたらイザベルを独り占めできないんだもん~!」
イザベルが窘めると、サラは上目遣いで訴えている。
ヒロインなだけあって、そのかわいさには破壊力がある。
おいっ、あなたは悪役令嬢を攻略しようとしてるのかい?!
「まったく、サラは甘えん坊なんだから」
そう言ってサラの頭を撫でるイザベルがイケメンに見えてしまった。
「あれっ? メガネ先生どうしたんですか?」
サラは私に気づいて目をぱちくりさせている。
「ちょっと散歩していたのよ」
「それなら一緒にお話しましょー! 私、メガネ先生のこと大好きー!」
天真爛漫で無邪気なのがサラらしい。
微笑ましい気持ちになっていると、不意にセザールが話しかけてきた。
「先生、モーリアが戻ってくるのは本当ですか?」
「そうよ。みんなで迎えましょうね」
「もちろんですよ。楽しみです」
そう話すセザールは不敵に微笑んでいる。なんだかその笑顔、嫌な予感しかしないんですけど。
おい、鬼畜メガネ。
余計なことはするなよ?
傷心気味のディディエをいじめるとか外道がすることだからね?
弱い者いじめダメ絶対。
セザールの企み顔のせいで胃が痛くなっていると。
「はぁーい! いっぱい話しかけまーす!」
サラが舌足らずな話し方で応えてくれる。
頼んだぞ、ヒロイン。ディディエをゲーム通り助けてあげてね。
◇
午後の授業を終えると、廊下に控えていた事務員さんが教室に入ってきた。
「ベルクール先生、生徒の保護者がお見えです」
「あら、どなたかしら?」
「モーリア家のブレーズ様でございます」
おお、噂をすればモーリア家。
ブレーズ様といえば、ディディエの兄で次期当主だ。
魔法省の人間が家に来るとわかっていながらここに来るなんて、なにかあったのかな?
ひとまず、ブレーズ様が待っている応接室に行くことにした。
「ベルクール先生、ご無沙汰しております。突然押しかけてすみませんが、弟のことで少し話をしたくて」
ブレーズ様は亜麻色の髪を頭の後ろで結わえた美しい人で、歳は三十代。さすが攻略対象の兄弟となると、メインキャラ並みにイケメンだ。
「いいえ、ディディエさんのお力になりたいので、なんでもお話ください」
「ありがとうございます」
柔らかに微笑むその顔は、ゲームの中で見たディディエにそっくり。
ディディエも彼と同じ、亜麻色の髪を持つ中性的で線が細くて綺麗な顔立ちだ。
「もうすぐディディエが生活することになる場所を、見ておきたいんです」
ディディエは入学して間もない頃に上級生に絡まれてしまい、その時に力をコントロールできなくなってしまって怪我を負わせてしまったのよね。
幸い、目撃していた生徒たちの証言で彼の魔法は正当防衛だったことになったんだけど、ディディエは自分を追い詰めてしまって、寮の部屋から出てこれなくなってしまったのよね。
彼の希望もあって実家で休むことになったんだけど、お屋敷に行っても、部屋から出てこなくて話せないまま。
顔を合わせて話したいところだけど、ディディエは人を傷つけたくない一心で閉じこもっているから、無理に会うわけにもいかなくて。
「かしこまりました。案内しましょう」
だからディディエのために力になりたいとは思いつつ、実は気乗りしないこの保護者対応。
なぜなら、ブレーズ様はいささかブラコンが過ぎるから。
「この席の並びでは隣の人との距離が近すぎて、繊細なディディエにはストレスになると思うんですけど?」
「モーリア卿、考えてみてください。自分だけ他の生徒たちと距離があった方がディディエさんは疎外感を感じてショックを受けてしまいませんか?」
心を菩薩モードにして耐え抜くしかない。
前世でも教師をしていて良かったと思う。
モンスターペアレントの扱いに慣れているから。
「む、確かにそうですね」
度重なる家庭訪問でブレーズ様との攻防を繰り広げるうちに扱いのコツは掴んでいる。
ディディエのためと説明して納得してもらう所存だ。
「お次は寮に案内していただけますか?」
「わかりました」
彼の希望通り、学生寮へと向かった。