【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。
お父様たちに挨拶をしに行ったことでノエルの素材集めが中断され、ロアエク先生の暗殺は無事に防げた。
これでしばらく彼は闇落ちしないはずである。
「ノエル、」
「先ほどお話したというのに、どうしたんですか?」
初めて名前で呼んでみたんだけど、そこはスルーなのね。
にっこりと微笑みを向けてくれるが、どこか迷惑そうだ。また来たのかって心の声が聞こえてくる。
ノエルは私に興味があるわけではないから会いに来ることはない。
私のことを警戒してるけど、ジルがいるから自分の目で見張りをする必要もないものね。
それでも恋愛結婚という設定を周囲に怪しまれたらいけないから、臨時講師として学園に来ると時には会うことになっているけど、会っても一言二言話すくらいで。しかもそれ以外は全く姿を見せない。
だからなるべく私から彼に会いに行って関心を向けるしかなかった。
「お土産を渡し忘れたので届けに来たんです」
「そう、でしたか」
戸惑っていたが、紙袋を差し出すと意外にもすんなりと受け取ってくれた。
「紅茶を簡単に飲めるものを発明してみたんです。お湯の中に浮かべてみてください」
「あなたが考えたんですか?」
「ええ」
正しく言えば、前世では親しみのあるティーバッグを真似て作ってみただけなんだけど。
綿の布を小さくきって縫い合わせるだけなので意外と簡単だった。
紅茶は私が学園の温室で栽培している薬草を乾燥させて作ったもので、いわゆるハーブティーだ。
ノエルの好みがわからないからいくつか違う種類のものを作った。
彼の胃袋を掴めばなにか変わるかもしれないと、地道な作戦を決行することにしたのだ。
「お口に合わなかったら捨ててください」
「婚約者から貰ったものを捨てたりなんてしませんよ」
「正式にはまだ婚約者ではありませんよ」
「……もう少し、待ってください」
侯爵家の方は彼の説得でクリアしたんだけど、その次の承認、つまり、国王陛下の承認がまだ下りていないのだ。
そりゃあそうですよね。なんせ可能性は低いにせよ王位継承権があるんだもの。
あれ、待って。
この流れだと私もロアエク先生の時のように命を狙われるのでは?
想像してしまって勝手に身震いしている私のことなんて気づきもしないで、ノエルは袋を開けて香りを楽しんでいる。その姿はなんともいえないくらいカッコいい。
いやいやいや、私の推しは前世も今もアロイスだけどね。ちょっと寄り道もしたけど、彼は永遠の推しよ。ノエルはカッコイイかそうじゃないかと言われたらカッコいいけど、アロイスに比べたらどうってことないんだから。
それなのに、ちょっと見惚れてしまったのが憎い。
「そう言えば、明日の校外学習には私も行くことになりました」
「あ、そうなんですね」
「婚約者が王宮に行くのが心配なので僕も行くことにしました」
「王宮と言っても、その中にある植物園に行くだけですよ?」
そう言いつつも、彼の言わんとしていることが分かって肝が冷える。
王室に密告したら殺すぞってことだよね。きっと、私が王室の内通者なんじゃないかって疑っているのよね。
でも、それならゲームの時はどうして植物園に来たんだろ?
疑うべきレティシア・ベルクールがいないはずなのに、アロイスのイベントの時にもノエルは引率していた。
疑問が浮かんでくるけど、いまはそれどころじゃない。
ノエルにこれ以上疑われないようにしておかないといけないわよね。
「なにが起こるかわからないじゃないですか」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ~」
これ、本当にノエルの言う通りなにかが起こっちゃうから笑えないんだけどね。たしかアロイスを狙った襲撃が起こるのよ。みんなが王位継承権争いに巻き込まれてしまうってお話で。
魔物とのバトルが、始まるのよね。ゲームでは文字のみだったけど、明日はリアルにそれを体験するってことなのよね。
胃が痛くなってきたわ。
「大丈夫ですよ。あなたのことはすぐ近くで見守っていますから。なにかあってもすぐに対処します」
それ、見守るじゃなくて見張りの間違いよね。なにかあったらすぐに抹消できるように。
「あ、りがとうございます。頼もしいです。」
それでも顔をひくつかせずに返事できたのを褒めて欲しい。
これでしばらく彼は闇落ちしないはずである。
「ノエル、」
「先ほどお話したというのに、どうしたんですか?」
初めて名前で呼んでみたんだけど、そこはスルーなのね。
にっこりと微笑みを向けてくれるが、どこか迷惑そうだ。また来たのかって心の声が聞こえてくる。
ノエルは私に興味があるわけではないから会いに来ることはない。
私のことを警戒してるけど、ジルがいるから自分の目で見張りをする必要もないものね。
それでも恋愛結婚という設定を周囲に怪しまれたらいけないから、臨時講師として学園に来ると時には会うことになっているけど、会っても一言二言話すくらいで。しかもそれ以外は全く姿を見せない。
だからなるべく私から彼に会いに行って関心を向けるしかなかった。
「お土産を渡し忘れたので届けに来たんです」
「そう、でしたか」
戸惑っていたが、紙袋を差し出すと意外にもすんなりと受け取ってくれた。
「紅茶を簡単に飲めるものを発明してみたんです。お湯の中に浮かべてみてください」
「あなたが考えたんですか?」
「ええ」
正しく言えば、前世では親しみのあるティーバッグを真似て作ってみただけなんだけど。
綿の布を小さくきって縫い合わせるだけなので意外と簡単だった。
紅茶は私が学園の温室で栽培している薬草を乾燥させて作ったもので、いわゆるハーブティーだ。
ノエルの好みがわからないからいくつか違う種類のものを作った。
彼の胃袋を掴めばなにか変わるかもしれないと、地道な作戦を決行することにしたのだ。
「お口に合わなかったら捨ててください」
「婚約者から貰ったものを捨てたりなんてしませんよ」
「正式にはまだ婚約者ではありませんよ」
「……もう少し、待ってください」
侯爵家の方は彼の説得でクリアしたんだけど、その次の承認、つまり、国王陛下の承認がまだ下りていないのだ。
そりゃあそうですよね。なんせ可能性は低いにせよ王位継承権があるんだもの。
あれ、待って。
この流れだと私もロアエク先生の時のように命を狙われるのでは?
想像してしまって勝手に身震いしている私のことなんて気づきもしないで、ノエルは袋を開けて香りを楽しんでいる。その姿はなんともいえないくらいカッコいい。
いやいやいや、私の推しは前世も今もアロイスだけどね。ちょっと寄り道もしたけど、彼は永遠の推しよ。ノエルはカッコイイかそうじゃないかと言われたらカッコいいけど、アロイスに比べたらどうってことないんだから。
それなのに、ちょっと見惚れてしまったのが憎い。
「そう言えば、明日の校外学習には私も行くことになりました」
「あ、そうなんですね」
「婚約者が王宮に行くのが心配なので僕も行くことにしました」
「王宮と言っても、その中にある植物園に行くだけですよ?」
そう言いつつも、彼の言わんとしていることが分かって肝が冷える。
王室に密告したら殺すぞってことだよね。きっと、私が王室の内通者なんじゃないかって疑っているのよね。
でも、それならゲームの時はどうして植物園に来たんだろ?
疑うべきレティシア・ベルクールがいないはずなのに、アロイスのイベントの時にもノエルは引率していた。
疑問が浮かんでくるけど、いまはそれどころじゃない。
ノエルにこれ以上疑われないようにしておかないといけないわよね。
「なにが起こるかわからないじゃないですか」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ~」
これ、本当にノエルの言う通りなにかが起こっちゃうから笑えないんだけどね。たしかアロイスを狙った襲撃が起こるのよ。みんなが王位継承権争いに巻き込まれてしまうってお話で。
魔物とのバトルが、始まるのよね。ゲームでは文字のみだったけど、明日はリアルにそれを体験するってことなのよね。
胃が痛くなってきたわ。
「大丈夫ですよ。あなたのことはすぐ近くで見守っていますから。なにかあってもすぐに対処します」
それ、見守るじゃなくて見張りの間違いよね。なにかあったらすぐに抹消できるように。
「あ、りがとうございます。頼もしいです。」
それでも顔をひくつかせずに返事できたのを褒めて欲しい。