【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。
第六章 黒幕さん、白状してください
冬が終わり、色とりどりの花が王国中を彩り始める季節になり、明日にはついに新しい学年が始まる。
新学期の準備のために早朝の学園内を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「すみませーん、職員室はどこですかー?」
振り返れば、オレンジ色の髪をさらさらと靡かせた、華やかな顔立ちの青年が立っている。彼の海のように青い瞳と視線がかち合った。
モデルのようにスラリとしていて、黒の上下にシャツといった簡素な服装をしているのにもかかわらず存在感を放っているこの青年を、私は知っている。
彼の名前はオルソン・ドルイユ、ヒロインのサラが最後に出会う攻略対象だ。
「あら、あなたはもしかして、ドルイユさん?」
「えーっ?! どうしてわかったのー? もしかして予言者ー?」
この軽い口調、既視感があるわ。
たしか、サラが初めてオルソンと出会うシーンの台詞よね。
新学期を翌日に控えたサラが図書館に行くために学園内を歩いていると、転校してきたばかりのオルソンに道を聞かれる。
それはただの口実であって、彼はサラの中にある光使いの魔力に気づいたから、興味を持って話しかけるのよね。
つまり、オルソンは職員室の場所を知ってるはずだけど……。
それにこのイベント、ヒロインが経験するべきなのになんで私に話しかけてるわけ?
「ふふ、あなたはこの学園で見かけない顔なんですもの。ひと目見てわかったわ」
「なるほどー。名推理じゃん」
予備知識がなかったらオルソンはただの軟派なイケメンに見えるけど、実は敵国シーアの王子と知っているだけに、警戒が顔に出てしまってないか心配だ。
ノックスとシーアは長らく小競り合いが続いており、呪術に強いシーアにはたまに陰湿な呪いをかけられて災いが起こることもしばしばある。
「それじゃあ、君のことを当てさせて」
「あら、私のことなんてすぐにわかるんじゃない?」
人懐っこい微笑みを常にたたえていて、かつ冗談めいた話し方をするオルソンはすぐにクラスメイト達と打ち解ける。
だけど、裏ではノックス王国を取り込むために邪魔な存在になる生徒を排除しようとしていた。
ただのモブである私にはそうそう関係ないことだとは思うけど、この出会いで彼に不信感を持たれてはいけない。
心を無にして、地味モブで人畜無害な【魔法薬学の教師】を演じるのに徹するわ。
「んー? ミステリアスで美しい君のことをすぐに当てるのは難しいなー。もう少し、話すのにつき合ってよ」
ゲーム通り、こっぱずかしい台詞を並べ立ててくるわね。
しかもコイツ、相手が教師でもこの口調か。
指導する必要がありそうね。
「見え透いた嘘はよしてちょうだい。職員室に案内するからついて来て」
踵を返して職員室に向かおうとすると、腕を掴まれた。
強くはないけど、身動きが封じられて、心臓がヒヤリとした手で撫でられるような感覚がする。
ゲームでは、サラにこんなこと、しなかったのに。
「まだお話しようよ。ところでベルクールせんせ、顔色が悪いけど大丈夫?」
「あ、あら。私のことも知っていたのね。大丈夫よ、心配してくれてありがとう」
名前を呼ばれるなんて、まさか、知っていただなんて思いもよらなかった。
オルソンは、私のことを知っていながら話しかけてきたんだ。
ノエルが国境付近に行っていたあの時に、彼から聞いたから?
そもそも、どうして知らないふりをして話しかけてきたの?
考えれば考えるほど、怖くなる。
もしかして、ゲームとは違う展開なのかもしれないと思うと、先のわからない不安が押し寄せてくるから。
湧き上がってくる疑問を押しとどめて笑顔を作っていると、ノエルの声が耳に届く。
「レティシア!」
魔術省のローブを羽織ったノエルとダルシアクさんが現れた。
「ノ……ファビウス先生にダルシアクさん! どうしたの?」
「いや……別にたいしたことはない。そこのドルイユを見失ってしまって探していたんだ」
ノエルはいつも通りの表情だけど、仮にも生徒の前だというのに肩を掴んで引き寄せてきた。
「また後で話そう」
「ええ、明日の準備が終わったらね」
彼は黙って頷くと、オルソンとダルシアクさんを連れて職員室まで向かった。
新学期の準備のために早朝の学園内を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「すみませーん、職員室はどこですかー?」
振り返れば、オレンジ色の髪をさらさらと靡かせた、華やかな顔立ちの青年が立っている。彼の海のように青い瞳と視線がかち合った。
モデルのようにスラリとしていて、黒の上下にシャツといった簡素な服装をしているのにもかかわらず存在感を放っているこの青年を、私は知っている。
彼の名前はオルソン・ドルイユ、ヒロインのサラが最後に出会う攻略対象だ。
「あら、あなたはもしかして、ドルイユさん?」
「えーっ?! どうしてわかったのー? もしかして予言者ー?」
この軽い口調、既視感があるわ。
たしか、サラが初めてオルソンと出会うシーンの台詞よね。
新学期を翌日に控えたサラが図書館に行くために学園内を歩いていると、転校してきたばかりのオルソンに道を聞かれる。
それはただの口実であって、彼はサラの中にある光使いの魔力に気づいたから、興味を持って話しかけるのよね。
つまり、オルソンは職員室の場所を知ってるはずだけど……。
それにこのイベント、ヒロインが経験するべきなのになんで私に話しかけてるわけ?
「ふふ、あなたはこの学園で見かけない顔なんですもの。ひと目見てわかったわ」
「なるほどー。名推理じゃん」
予備知識がなかったらオルソンはただの軟派なイケメンに見えるけど、実は敵国シーアの王子と知っているだけに、警戒が顔に出てしまってないか心配だ。
ノックスとシーアは長らく小競り合いが続いており、呪術に強いシーアにはたまに陰湿な呪いをかけられて災いが起こることもしばしばある。
「それじゃあ、君のことを当てさせて」
「あら、私のことなんてすぐにわかるんじゃない?」
人懐っこい微笑みを常にたたえていて、かつ冗談めいた話し方をするオルソンはすぐにクラスメイト達と打ち解ける。
だけど、裏ではノックス王国を取り込むために邪魔な存在になる生徒を排除しようとしていた。
ただのモブである私にはそうそう関係ないことだとは思うけど、この出会いで彼に不信感を持たれてはいけない。
心を無にして、地味モブで人畜無害な【魔法薬学の教師】を演じるのに徹するわ。
「んー? ミステリアスで美しい君のことをすぐに当てるのは難しいなー。もう少し、話すのにつき合ってよ」
ゲーム通り、こっぱずかしい台詞を並べ立ててくるわね。
しかもコイツ、相手が教師でもこの口調か。
指導する必要がありそうね。
「見え透いた嘘はよしてちょうだい。職員室に案内するからついて来て」
踵を返して職員室に向かおうとすると、腕を掴まれた。
強くはないけど、身動きが封じられて、心臓がヒヤリとした手で撫でられるような感覚がする。
ゲームでは、サラにこんなこと、しなかったのに。
「まだお話しようよ。ところでベルクールせんせ、顔色が悪いけど大丈夫?」
「あ、あら。私のことも知っていたのね。大丈夫よ、心配してくれてありがとう」
名前を呼ばれるなんて、まさか、知っていただなんて思いもよらなかった。
オルソンは、私のことを知っていながら話しかけてきたんだ。
ノエルが国境付近に行っていたあの時に、彼から聞いたから?
そもそも、どうして知らないふりをして話しかけてきたの?
考えれば考えるほど、怖くなる。
もしかして、ゲームとは違う展開なのかもしれないと思うと、先のわからない不安が押し寄せてくるから。
湧き上がってくる疑問を押しとどめて笑顔を作っていると、ノエルの声が耳に届く。
「レティシア!」
魔術省のローブを羽織ったノエルとダルシアクさんが現れた。
「ノ……ファビウス先生にダルシアクさん! どうしたの?」
「いや……別にたいしたことはない。そこのドルイユを見失ってしまって探していたんだ」
ノエルはいつも通りの表情だけど、仮にも生徒の前だというのに肩を掴んで引き寄せてきた。
「また後で話そう」
「ええ、明日の準備が終わったらね」
彼は黙って頷くと、オルソンとダルシアクさんを連れて職員室まで向かった。