【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。
「レティシア、今朝は……その、ドルイユになにかされなかった?」
「からかわれてしまったわ。礼儀を教えないといけないわね」
「そうか……うん、困った子だね」
ノエルはどこかホッとしたような表情になっている。
もしかして、私がオルソンになにかされるんじゃないかと、心配してくれているのかもしれない。
ねえ、ノエル。
心配するくらいなら、どうしてオルソンをゲーム通りにノックスに入国させてしまったの?
ロアエク先生の呪いが無事に解けたから復讐に燃えることもないのに。
……でも、私がもしノエルの立場なら、幼い頃から自分を虐げてきた人たちへの恨みは、そう簡単に消えはしないし。
ノエルは、やはりいつか、仕返しをしようと思ってるの、かな?
それとも、この世界がシナリオ通りに運命を動かそうとしているのかもしれない。
どちらかといえば、後者であって欲しいと、思ってしまう。
「まずは言葉遣いを直させないといけないわね」
「まあ、ドルイユの担任になるグーディメル先生は厳しいからちょうどいいだろう」
礼儀作法にうるさいグーディメル先生がオルソンを受け持つことになっている。
先生ならオルソンの素性とかうんぬんをは知らないからビシッと言ってくれそう。
知らないってことも大事よね。つくづくそう思うわ。
そんなことを考えていると、ノエルの手がピクリと動いた。
少しだけ、痛みをこらえているような顔になる。
「ノエル、手、痛いんでしょう?」
「いや、大丈夫だよ」
「嘘つかないで。痛そうにしてるのが見えたわよ」
「……なんとも、ないから」
心配して聞いてるのに、どうして隠そうとするのかしら。
彼の隠し事は増えてきているわね。
サラやフレデリクに見張り役をお願いしていたことも、私に知られないように進めていたもの。
闇堕ちを防ごうとしている身としては、どうにか打開したい状況だわ。
うっかりポロッと言ってくれたらいいんだけど……ノエルに限ってそんなヘマはしないはず。
それならこっちから攻めるしかないわね。
いい作戦を思いついたわ。
その名も、【スパッと言っちゃってブレイクスルー☆作戦】!
様子見なんてしないで、あえて単刀直入に切り込んでノエルの考えを知ってやろうじゃないの!
「ノエル、私に隠してること、他にもあるでしょう?」
「ゴホッ」
あろうことか、ノエルは盛大にむせてしまった。
まさか黒幕ノエルがこんなにも動揺するとは予想もしていなかったから、正直いって面食らった。
ノエルが紅茶を飲んでるときに言うべきではなかったのね。
うん、ごめん。
「だ、大丈夫?」
「……大丈夫じゃ、ない」
弱々しい声で言われてしまうと、良心が働いてしまって、これ以上は追及できない。
嫌な思いをさせてまで言わせたくないもの。
作戦は……一時中断にするわ。
「ほら、手を出して。薬を塗るから」
「ありがとう」
目の前に出されたノエルの手は、大きくて、綺麗な指をしていて、その指には、私が贈った指輪がつけられている。
彼もまた肌身離さずつけてくれているのが、嬉しくてくすぐったい。
薬を準備していると、ノエルがポツリと呟いた。
「ごめん……仕事のことだから、言えないんだ」
「え? 仕事?」
生徒たちを見張りにつけるのは、仕事とは関係なくない?
自分でもわかるくらいポカンとした顔になってしまうと。
「……忘れてくれ。そんなことより、実は知り合いから舞踏会に招待されているんだ」
「いや、気になるんですけど?!」
先ほどの発言はなかったことにされた。
しかも、強制的に話を変えられた。
抗議しようにも、ノエルは笑顔を浮かべてガードしてくる。
「レティシアも一緒に来て欲しいんだ」
「まじ、ですか?」
社交キタァァァァ!
恐れていた展開になってしまい、先ほどまでの話の内容が全部吹っ飛びそうになった。
いつかはノエルの婚約者として舞踏会に出席する日がくるとはわかっていたけど、わかっていたのと覚悟ができているのとは違う。
そんな私の反応が不服だったようで、ノエルは眉根を寄せた。
「僕と一緒には行きたくないと?」
「そそそ、そんなことないわよ。最近は疎遠だったから緊張するというか、なんというか」
身の危険を感じるからですよ(本音)!
魔性の黒幕の婚約者として出るんだから、どんな目に遭うか想像できるわよ。
これまで学園にいたから平穏無事だったけど、いざ年の近い令嬢たちが集まる舞踏会に行ったらノエルファンから槍が飛んでくると思うのよね。
ノエルとの婚約が決まった時に、ノエルファンからの嫉妬に心配した友人たちから大量のお守りたちが送られてきたんだもの。
「隣で支えるから気を張らなくていい。これからはこういうことも増えてくるし、少しずつ慣れていこう」
「え?! 増えるの?!」
抗議の意味も含めて聞いてみると、ノエルはにっこりと微笑んだ。
「そうだね。ファビウス家の婚約者を世に知らしめたいし」
薬草の研究とかこつけて必要最低限しか舞踏会に出なかった身としては、緊急事態である。
「からかわれてしまったわ。礼儀を教えないといけないわね」
「そうか……うん、困った子だね」
ノエルはどこかホッとしたような表情になっている。
もしかして、私がオルソンになにかされるんじゃないかと、心配してくれているのかもしれない。
ねえ、ノエル。
心配するくらいなら、どうしてオルソンをゲーム通りにノックスに入国させてしまったの?
ロアエク先生の呪いが無事に解けたから復讐に燃えることもないのに。
……でも、私がもしノエルの立場なら、幼い頃から自分を虐げてきた人たちへの恨みは、そう簡単に消えはしないし。
ノエルは、やはりいつか、仕返しをしようと思ってるの、かな?
それとも、この世界がシナリオ通りに運命を動かそうとしているのかもしれない。
どちらかといえば、後者であって欲しいと、思ってしまう。
「まずは言葉遣いを直させないといけないわね」
「まあ、ドルイユの担任になるグーディメル先生は厳しいからちょうどいいだろう」
礼儀作法にうるさいグーディメル先生がオルソンを受け持つことになっている。
先生ならオルソンの素性とかうんぬんをは知らないからビシッと言ってくれそう。
知らないってことも大事よね。つくづくそう思うわ。
そんなことを考えていると、ノエルの手がピクリと動いた。
少しだけ、痛みをこらえているような顔になる。
「ノエル、手、痛いんでしょう?」
「いや、大丈夫だよ」
「嘘つかないで。痛そうにしてるのが見えたわよ」
「……なんとも、ないから」
心配して聞いてるのに、どうして隠そうとするのかしら。
彼の隠し事は増えてきているわね。
サラやフレデリクに見張り役をお願いしていたことも、私に知られないように進めていたもの。
闇堕ちを防ごうとしている身としては、どうにか打開したい状況だわ。
うっかりポロッと言ってくれたらいいんだけど……ノエルに限ってそんなヘマはしないはず。
それならこっちから攻めるしかないわね。
いい作戦を思いついたわ。
その名も、【スパッと言っちゃってブレイクスルー☆作戦】!
様子見なんてしないで、あえて単刀直入に切り込んでノエルの考えを知ってやろうじゃないの!
「ノエル、私に隠してること、他にもあるでしょう?」
「ゴホッ」
あろうことか、ノエルは盛大にむせてしまった。
まさか黒幕ノエルがこんなにも動揺するとは予想もしていなかったから、正直いって面食らった。
ノエルが紅茶を飲んでるときに言うべきではなかったのね。
うん、ごめん。
「だ、大丈夫?」
「……大丈夫じゃ、ない」
弱々しい声で言われてしまうと、良心が働いてしまって、これ以上は追及できない。
嫌な思いをさせてまで言わせたくないもの。
作戦は……一時中断にするわ。
「ほら、手を出して。薬を塗るから」
「ありがとう」
目の前に出されたノエルの手は、大きくて、綺麗な指をしていて、その指には、私が贈った指輪がつけられている。
彼もまた肌身離さずつけてくれているのが、嬉しくてくすぐったい。
薬を準備していると、ノエルがポツリと呟いた。
「ごめん……仕事のことだから、言えないんだ」
「え? 仕事?」
生徒たちを見張りにつけるのは、仕事とは関係なくない?
自分でもわかるくらいポカンとした顔になってしまうと。
「……忘れてくれ。そんなことより、実は知り合いから舞踏会に招待されているんだ」
「いや、気になるんですけど?!」
先ほどの発言はなかったことにされた。
しかも、強制的に話を変えられた。
抗議しようにも、ノエルは笑顔を浮かべてガードしてくる。
「レティシアも一緒に来て欲しいんだ」
「まじ、ですか?」
社交キタァァァァ!
恐れていた展開になってしまい、先ほどまでの話の内容が全部吹っ飛びそうになった。
いつかはノエルの婚約者として舞踏会に出席する日がくるとはわかっていたけど、わかっていたのと覚悟ができているのとは違う。
そんな私の反応が不服だったようで、ノエルは眉根を寄せた。
「僕と一緒には行きたくないと?」
「そそそ、そんなことないわよ。最近は疎遠だったから緊張するというか、なんというか」
身の危険を感じるからですよ(本音)!
魔性の黒幕の婚約者として出るんだから、どんな目に遭うか想像できるわよ。
これまで学園にいたから平穏無事だったけど、いざ年の近い令嬢たちが集まる舞踏会に行ったらノエルファンから槍が飛んでくると思うのよね。
ノエルとの婚約が決まった時に、ノエルファンからの嫉妬に心配した友人たちから大量のお守りたちが送られてきたんだもの。
「隣で支えるから気を張らなくていい。これからはこういうことも増えてくるし、少しずつ慣れていこう」
「え?! 増えるの?!」
抗議の意味も含めて聞いてみると、ノエルはにっこりと微笑んだ。
「そうだね。ファビウス家の婚約者を世に知らしめたいし」
薬草の研究とかこつけて必要最低限しか舞踏会に出なかった身としては、緊急事態である。