【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。
「今からそちらに行くので持ち堪えてください!」
若い男の人の声だ。聞こえるのと同時に、ガラスの壁が割れる音と共に数人の騎士たちが入ってきた。
王国騎士団だ。
「我われが注意をひきます!」
鳶色の髪を撫でつけた騎士はそう言うと、仲間たちと一斉に魔物に攻撃する。魔物が彼らの方を向いた瞬間に全速力で走ってイザベルの元に駆けつけた。
「セラフィーヌさん!」
「先生っ!」
イザベルは駆けつけるとすぐに抱きついてきた。一人で魔物から逃げるのはとても怖かっただろうに。肩を震わせて泣いている姿はとても痛々しくて。
とにかく安心して欲しくて、彼女を抱きしめた。
「ベルクール先生!」
ノエルの声が聞こえて振り向くと、魔物が口から紫色の煙を吐き出している。猛毒をあたりに振り撒こうとしているんだ。
「守れ!」
魔力を最大限に放出して、私たちと騎士たちを結界で包む。
「くそっ! くたばれ!」
鳶色の髪の騎士が剣に炎を纏わせて斬りかかると、魔物は灰になって消えていった。
植物園の中はしんと、静かになる。
「み、んな無事?」
「ええ、先生のおかげで傷一つありません」
サラは目に涙を浮かべたまま抱きついてきた。
「良かった」
すると、アロイスがいきなり目の前に現れた。
金色の髪に空色の瞳の、絵にかいたようなイケメンの王子様。きちんと整えられている金色の髪は眩くて、思わずくらみそうになる。
アロイスは怜悧な美貌を湛えるご尊顔を歪ませて、私を見つめる。
「先生、ごめんなさい」
「謝らないで。みんなが無事で良かったわ」
アロイス、私は全て知っているから気にしないでね。この魔物の襲撃があなたを狙っていたことはわかっているけど、それを言うとあなたはきっと気にやむだろうから知らないふりをさせてもらうわ。
いちアロイスの女として、あなたのためになれたのが嬉しいんだから気にして欲しくないんだけど。
「……つ先生」
アロイスの空色の瞳が揺れた。
「本当よ」
誰も犠牲にならずにこのイベントを終えられて本当に良かった。
あれ、そう言えば、サラの聖なる乙女の力を発揮できてないぞ?
今後のストーリー的にどうなるんだろうか、不安になるけど。
まあいいか、みんなが無事なら。
ホッとして力が抜けてしまってその場に崩れそうになると、鳶色の髪の騎士が助けてくれた。
「助けていただきありがとうございました」
「こちらこそ、あなたの魔法に助けられました。私の名前はヴィクトル・カスタニエと言います。あなたのお名前を教えていただいても?」
「レティシア・ベルクールで、す」
言い終えぬうちに、くらりと眩暈がして、言葉が上手く出てこなかった。
自分の声が遠くに聞こえるような気がするし、頭はふわふわとしていてちっとも働いてくれない。
どうしよう。みんなを学園まで送り届けなきゃいけないのに。
「魔力と体力を一気に消耗したからでしょう。王宮内で休めるように手配します」
「あ、りがとうございます」
みんなは先に帰してもらおうだなんて考えていると。
「いえ、学園まで連れて帰ります」
ノエルがそう言って私の手を掴んできた。
「学園に、してください」
震える声で訴えてくるものだから、学園に連れて帰ってもらうことにした。カスタニエさんは最初こそ「無理をしてはいけない」と反対していたけれど、生徒たちを送り届けてから休みたいと言えば納得してくれた。
ただ、実際には私は馬車の中で眠ってしまったから、みんなを見届けることはできなかったんだけどね。
◇
学園に着いた私は医務室のベッドでこんこんと眠ってしまった。目を覚ましたらもう外は真っ暗だ。
「うっ……起き上がれない……」
とにかく体がだるいのだ。なにか重いものにのしかかられているのかと思うくらいに体が動かない。
「やい小娘、その歳で魔法の限度をわきまえずに無茶するんじゃない!」
気づくと枕元にジルがいて、ふんふんと鼻息を荒らげて説教してきた。
「だっ、て。みんなを守らなきゃって思ったらそんなの考えている暇なかったんだもの」
「お前ひとりが無茶をしなくったってご主人様がなんとかしてくれただろうに!」
「あの時はとにかく必死だったのよ」
もう一度体に力を入れてみるが、やっぱり動かない。
諦めて伸びていると、医務室に誰か入ってきた。
「レティシア、そっちに行ってもいいですか?」
「どうぞ」
入ってきたノエルの顔は疲れ切っていた。彼ももう休んだ方がいいと思ってしまうくらいだ。
「顔色が悪いですし、もう帰って休んだ方がいいですよ」
「今日は教員寮に泊まることにしたのでまだここにいられます」
「いや、だから休んだ方が――」
「レティシア」
「はい」
改めて名前を呼んでくるノエルは、紫水晶のような目で見つめてくる。
「僕と結婚するということは、命を狙われる可能性があります。それでもこの婚約を続けるのですか?」
「もちろんです」
「やっぱり、何を考えているのかわかりませんね」
容赦なく射抜くような視線を浴びせられるとさすがに居心地が悪い。
「ところで、みんなは無事に帰れましたか?」
「ええ、誰も怪我することなく寮まで帰りましたよ」
「課題は集めてくれましたか?」
「もちろん。ただ、バルテは白紙だったから居残りさせて書かせましたが」
話をそらせると意外にもすんなり話題を変えてくれたので、そのまま生徒たちの話をすることにした。
ゲームの彼は抜け目がなくてこんなことできないキャラに見えたんだけど。
もしかして、病人だから多少は甘めにみてくれているのかな。
若い男の人の声だ。聞こえるのと同時に、ガラスの壁が割れる音と共に数人の騎士たちが入ってきた。
王国騎士団だ。
「我われが注意をひきます!」
鳶色の髪を撫でつけた騎士はそう言うと、仲間たちと一斉に魔物に攻撃する。魔物が彼らの方を向いた瞬間に全速力で走ってイザベルの元に駆けつけた。
「セラフィーヌさん!」
「先生っ!」
イザベルは駆けつけるとすぐに抱きついてきた。一人で魔物から逃げるのはとても怖かっただろうに。肩を震わせて泣いている姿はとても痛々しくて。
とにかく安心して欲しくて、彼女を抱きしめた。
「ベルクール先生!」
ノエルの声が聞こえて振り向くと、魔物が口から紫色の煙を吐き出している。猛毒をあたりに振り撒こうとしているんだ。
「守れ!」
魔力を最大限に放出して、私たちと騎士たちを結界で包む。
「くそっ! くたばれ!」
鳶色の髪の騎士が剣に炎を纏わせて斬りかかると、魔物は灰になって消えていった。
植物園の中はしんと、静かになる。
「み、んな無事?」
「ええ、先生のおかげで傷一つありません」
サラは目に涙を浮かべたまま抱きついてきた。
「良かった」
すると、アロイスがいきなり目の前に現れた。
金色の髪に空色の瞳の、絵にかいたようなイケメンの王子様。きちんと整えられている金色の髪は眩くて、思わずくらみそうになる。
アロイスは怜悧な美貌を湛えるご尊顔を歪ませて、私を見つめる。
「先生、ごめんなさい」
「謝らないで。みんなが無事で良かったわ」
アロイス、私は全て知っているから気にしないでね。この魔物の襲撃があなたを狙っていたことはわかっているけど、それを言うとあなたはきっと気にやむだろうから知らないふりをさせてもらうわ。
いちアロイスの女として、あなたのためになれたのが嬉しいんだから気にして欲しくないんだけど。
「……つ先生」
アロイスの空色の瞳が揺れた。
「本当よ」
誰も犠牲にならずにこのイベントを終えられて本当に良かった。
あれ、そう言えば、サラの聖なる乙女の力を発揮できてないぞ?
今後のストーリー的にどうなるんだろうか、不安になるけど。
まあいいか、みんなが無事なら。
ホッとして力が抜けてしまってその場に崩れそうになると、鳶色の髪の騎士が助けてくれた。
「助けていただきありがとうございました」
「こちらこそ、あなたの魔法に助けられました。私の名前はヴィクトル・カスタニエと言います。あなたのお名前を教えていただいても?」
「レティシア・ベルクールで、す」
言い終えぬうちに、くらりと眩暈がして、言葉が上手く出てこなかった。
自分の声が遠くに聞こえるような気がするし、頭はふわふわとしていてちっとも働いてくれない。
どうしよう。みんなを学園まで送り届けなきゃいけないのに。
「魔力と体力を一気に消耗したからでしょう。王宮内で休めるように手配します」
「あ、りがとうございます」
みんなは先に帰してもらおうだなんて考えていると。
「いえ、学園まで連れて帰ります」
ノエルがそう言って私の手を掴んできた。
「学園に、してください」
震える声で訴えてくるものだから、学園に連れて帰ってもらうことにした。カスタニエさんは最初こそ「無理をしてはいけない」と反対していたけれど、生徒たちを送り届けてから休みたいと言えば納得してくれた。
ただ、実際には私は馬車の中で眠ってしまったから、みんなを見届けることはできなかったんだけどね。
◇
学園に着いた私は医務室のベッドでこんこんと眠ってしまった。目を覚ましたらもう外は真っ暗だ。
「うっ……起き上がれない……」
とにかく体がだるいのだ。なにか重いものにのしかかられているのかと思うくらいに体が動かない。
「やい小娘、その歳で魔法の限度をわきまえずに無茶するんじゃない!」
気づくと枕元にジルがいて、ふんふんと鼻息を荒らげて説教してきた。
「だっ、て。みんなを守らなきゃって思ったらそんなの考えている暇なかったんだもの」
「お前ひとりが無茶をしなくったってご主人様がなんとかしてくれただろうに!」
「あの時はとにかく必死だったのよ」
もう一度体に力を入れてみるが、やっぱり動かない。
諦めて伸びていると、医務室に誰か入ってきた。
「レティシア、そっちに行ってもいいですか?」
「どうぞ」
入ってきたノエルの顔は疲れ切っていた。彼ももう休んだ方がいいと思ってしまうくらいだ。
「顔色が悪いですし、もう帰って休んだ方がいいですよ」
「今日は教員寮に泊まることにしたのでまだここにいられます」
「いや、だから休んだ方が――」
「レティシア」
「はい」
改めて名前を呼んでくるノエルは、紫水晶のような目で見つめてくる。
「僕と結婚するということは、命を狙われる可能性があります。それでもこの婚約を続けるのですか?」
「もちろんです」
「やっぱり、何を考えているのかわかりませんね」
容赦なく射抜くような視線を浴びせられるとさすがに居心地が悪い。
「ところで、みんなは無事に帰れましたか?」
「ええ、誰も怪我することなく寮まで帰りましたよ」
「課題は集めてくれましたか?」
「もちろん。ただ、バルテは白紙だったから居残りさせて書かせましたが」
話をそらせると意外にもすんなり話題を変えてくれたので、そのまま生徒たちの話をすることにした。
ゲームの彼は抜け目がなくてこんなことできないキャラに見えたんだけど。
もしかして、病人だから多少は甘めにみてくれているのかな。