【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。
ノエルとアロイスが話していた内容が気になって、思い切ってアロイスに聞いてみた。
「アロイス殿下、教えて欲しいの。ファビウス先生とはなにの話をしていたの?」
「魔物の話をしていました。ファビウス先生が気配を感じ取って、教えてくれたんです。きっと私を狙って放たれた魔物だから、犯人が近くにいるだろうし、気をつけるようにと」
ノエルはアロイスを守ろうとしていたんだ。
それが分かったとたん肩の力が抜けて、心のどこかで彼を疑っていたのが後ろめたくなる。
私は、ノエルを信じられていなかった。
いまの彼は違うと、ゲームの中のノエルではないんだと、そう思っていたはずなのに、もしかしたらアロイスを陥れるのかもしれないと、猜疑心を持ってしまっていた。
「ベルクール先生、お願いがあるんです。私は、」
「んぎゃぁぁぁぁ! モーリィィィィ! いますぐこの虫を吹き飛ばして!」
「む、無理だよ~。僕も虫は苦手なんだ」
アロイスの言葉はサラの叫び声にかき消された。
声はどんどんと大きくなっていって私たちに近づいてきて、がさがさと草木を分ける音がを立ててサラとディディエとフレデリクが現れた。
サラはディディエにしがみついていて、その背中には大きな虫がついている。
外見は前世にいたあの黒光りのおぞましい虫に似ていて、名前はジーとつけられている。
たぶん、いや、きっと、モデルはあの虫だと思う。
そんな気持ち悪い虫が背中についたものだからサラは助けを求めるのにディディエに縋りつこうとするも逃げられて、追いかけているうちにみんなから離れてしまい、その二人を連れ戻すためにフレデリクがついて来たんだろう。
なんとなく状況はわかる。
「素手じゃないよ! 魔法で! 焼き払ってもいいから早く背中からとって!」
「おいお前ら! いい加減止まってくれ!」
サラとディディエが虫から逃げ回っていると、フレデリクが剣の鞘で虫を払い落して、そのまま仕留めた。
「わーん、ありがとうジーラ! 頼もしい!」
すっかり他の生徒たちから離れてしまっているというのに、「頼もしい!」じゃないぞ、このトラブルメーカーたちめ。
ジロッと睨むと、三人とも申し訳なさそうな顔になる。
「すみません、リュフィエに大きな虫が飛んできてパニックになってしまって……」
「だいたいは察したわ。でも、いいこと? いまは先生や同級生たちがいるからいいけど、もし数人の仲間と森に入りる時にこのような行動をとると、魔物たちの餌食になりかねないんですからね。気をつけなさい」
これは脅しではない。
いまは学校の授業だから私たち大人たちが万全を期して守っているけど、個人で森に入る時は一緒にいる仲間だけが頼りになる。
それなのにバラバラになってしまえば、魔物を始めとする森の生き物たちに狙われてしまうだろう。
そうならないための授業だというのにこの子たちは勝手に離れてしまったのだから、注意をしなければならない。本来学んで欲しいことを知ってもらうためにも。
「はーい、ごめんなさーい」
「ご、ごめんなさい……気をつけます」
「……すみません。自分の不注意です」
三人は口々に謝罪の言葉を口にした。
「よろしい。それじゃあ、みんなの元に戻りましょう」
「ファビウスせんせーはどうするんですか? どうしてここにいないの?」
サラはきょろきょろと辺りを見回して、ノエルの姿を探している。
「ファビウス先生は森の様子を見に行ってくれているのよ。すぐに戻るわ」
「一人は危ないよ。せんせーは、誰にも守られていないんでしょ? みんな、私たち生徒を守っているから」
「そう、ね……」
彼女の言う通り、ノエルはいま、誰にも守られていない状態で、魔物の様子を見に行っている。なにがいるのかもわからない森の中、ひとりで。
ノエルは強いけど、だからと言ってなににでも勝てるわけじゃないから、もしものことを考えると、不安が押し寄せてくる。
「よーっし! 私たちでファビウスせんせーのお手伝いしに行こー!」
「えっ?! ちょっと、リュフィエさん?!」
サラは私の手を引いて、スキップして森の奥へと進もうとする。
慌てて引き留めようとしたその時、地を揺らすような咆哮が、奥から聞こえてきた。
ノエルにもしものことがあったら、どうしよう。
悪い予想ばかりが脳裏をよぎってしまっていると、アロイスが力強い瞳で訴えかけてきた。
「私たちも行きましょう。危ないとわかっていて、ファビウス先生ひとりに任せたくないんです」
そう、たとえノエルが強いとわかっていても、彼一人に背負わせたくなかった。
だから、私もサラの手を握り返す。
「そうね、私も同じ気持ちよ」
こうなったら、するべきことは一つだけだ。
「みんなで助けに行って、後で一緒に怒られましょう。きっとグーディメル先生はもうカンカンになってるわ」
「ふぇーん! グーディメル先生のお説教はもう勘弁だよ~」
「おい、リュフィエ。説教が嫌ならもう少し規則を守ってくれよ。見てる俺らもハラハラするんだからな」
賑やかな一行を連れて、私も森の奥へと足を踏み入れる。
ノエル、待ってて。
今すぐそっちに行くわ。
あなたをひとりで戦わせないから。
「アロイス殿下、教えて欲しいの。ファビウス先生とはなにの話をしていたの?」
「魔物の話をしていました。ファビウス先生が気配を感じ取って、教えてくれたんです。きっと私を狙って放たれた魔物だから、犯人が近くにいるだろうし、気をつけるようにと」
ノエルはアロイスを守ろうとしていたんだ。
それが分かったとたん肩の力が抜けて、心のどこかで彼を疑っていたのが後ろめたくなる。
私は、ノエルを信じられていなかった。
いまの彼は違うと、ゲームの中のノエルではないんだと、そう思っていたはずなのに、もしかしたらアロイスを陥れるのかもしれないと、猜疑心を持ってしまっていた。
「ベルクール先生、お願いがあるんです。私は、」
「んぎゃぁぁぁぁ! モーリィィィィ! いますぐこの虫を吹き飛ばして!」
「む、無理だよ~。僕も虫は苦手なんだ」
アロイスの言葉はサラの叫び声にかき消された。
声はどんどんと大きくなっていって私たちに近づいてきて、がさがさと草木を分ける音がを立ててサラとディディエとフレデリクが現れた。
サラはディディエにしがみついていて、その背中には大きな虫がついている。
外見は前世にいたあの黒光りのおぞましい虫に似ていて、名前はジーとつけられている。
たぶん、いや、きっと、モデルはあの虫だと思う。
そんな気持ち悪い虫が背中についたものだからサラは助けを求めるのにディディエに縋りつこうとするも逃げられて、追いかけているうちにみんなから離れてしまい、その二人を連れ戻すためにフレデリクがついて来たんだろう。
なんとなく状況はわかる。
「素手じゃないよ! 魔法で! 焼き払ってもいいから早く背中からとって!」
「おいお前ら! いい加減止まってくれ!」
サラとディディエが虫から逃げ回っていると、フレデリクが剣の鞘で虫を払い落して、そのまま仕留めた。
「わーん、ありがとうジーラ! 頼もしい!」
すっかり他の生徒たちから離れてしまっているというのに、「頼もしい!」じゃないぞ、このトラブルメーカーたちめ。
ジロッと睨むと、三人とも申し訳なさそうな顔になる。
「すみません、リュフィエに大きな虫が飛んできてパニックになってしまって……」
「だいたいは察したわ。でも、いいこと? いまは先生や同級生たちがいるからいいけど、もし数人の仲間と森に入りる時にこのような行動をとると、魔物たちの餌食になりかねないんですからね。気をつけなさい」
これは脅しではない。
いまは学校の授業だから私たち大人たちが万全を期して守っているけど、個人で森に入る時は一緒にいる仲間だけが頼りになる。
それなのにバラバラになってしまえば、魔物を始めとする森の生き物たちに狙われてしまうだろう。
そうならないための授業だというのにこの子たちは勝手に離れてしまったのだから、注意をしなければならない。本来学んで欲しいことを知ってもらうためにも。
「はーい、ごめんなさーい」
「ご、ごめんなさい……気をつけます」
「……すみません。自分の不注意です」
三人は口々に謝罪の言葉を口にした。
「よろしい。それじゃあ、みんなの元に戻りましょう」
「ファビウスせんせーはどうするんですか? どうしてここにいないの?」
サラはきょろきょろと辺りを見回して、ノエルの姿を探している。
「ファビウス先生は森の様子を見に行ってくれているのよ。すぐに戻るわ」
「一人は危ないよ。せんせーは、誰にも守られていないんでしょ? みんな、私たち生徒を守っているから」
「そう、ね……」
彼女の言う通り、ノエルはいま、誰にも守られていない状態で、魔物の様子を見に行っている。なにがいるのかもわからない森の中、ひとりで。
ノエルは強いけど、だからと言ってなににでも勝てるわけじゃないから、もしものことを考えると、不安が押し寄せてくる。
「よーっし! 私たちでファビウスせんせーのお手伝いしに行こー!」
「えっ?! ちょっと、リュフィエさん?!」
サラは私の手を引いて、スキップして森の奥へと進もうとする。
慌てて引き留めようとしたその時、地を揺らすような咆哮が、奥から聞こえてきた。
ノエルにもしものことがあったら、どうしよう。
悪い予想ばかりが脳裏をよぎってしまっていると、アロイスが力強い瞳で訴えかけてきた。
「私たちも行きましょう。危ないとわかっていて、ファビウス先生ひとりに任せたくないんです」
そう、たとえノエルが強いとわかっていても、彼一人に背負わせたくなかった。
だから、私もサラの手を握り返す。
「そうね、私も同じ気持ちよ」
こうなったら、するべきことは一つだけだ。
「みんなで助けに行って、後で一緒に怒られましょう。きっとグーディメル先生はもうカンカンになってるわ」
「ふぇーん! グーディメル先生のお説教はもう勘弁だよ~」
「おい、リュフィエ。説教が嫌ならもう少し規則を守ってくれよ。見てる俺らもハラハラするんだからな」
賑やかな一行を連れて、私も森の奥へと足を踏み入れる。
ノエル、待ってて。
今すぐそっちに行くわ。
あなたをひとりで戦わせないから。