【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。

第九章 黒幕さん、ファイトです!

   ◇

 またしてもリュフィエの邪魔が入った。
 しかも厄介なことに、力を自在に使えるようになるまで成長している。

 煩わしい。

 しかし彼女はしょせん平民だ。光の力を与えられたとはいえ一代限りの力なら伸ばすのにも扱いにも限界があるに違いない。
 やがて扱いきれなくなって自信を失えばこれ以上の妨げにはならないだろう。  
 いまはその時を待つだけだ。

 一番苦しんでいる時分にとっておきの最期をやろう。

「ファビウス先生、俺と手合わせしてくれませんか?」

 次の計画はもう、進んでいる。
 
「ジラルデ、急に手合わせしたいだなんて、一体どうしたんだ?」 

 名門騎士家の養子、フレデリク・ジラルデ。
 歴代のジラルデ家当主はノックス王室に忠誠を誓い仕えてきた。聖剣の使い手を幾人も輩出してきたこの家門の血筋に当たるなら早めに消しておいた方がいい。

 若いうちに芽を摘んでおけば脅威になることはない。
 まだ弱く迷いのある芽なら、なおのこと好都合だ。

「自分の道を決めたくて、剣に問いかけたいんです」
「なぜ僕に?」
「ファビウス先生は剣の心得があると聞いたので」
「ああ、これでも騎士家で育ってきたからね」

 騎士なんて全員滅びればいい。
 騎士道やら忠誠心やら掲げているが、要は暴れる口実が欲しくて権力に媚びへつらう醜い集団であるだけで。

 弱き者を守れる騎士なんていない。
 本当に助けが必要な人間に手を差し伸べる騎士なんて存在しない。

「お願いします」
「剣に問いかける、ね。それなら相手は騎士がいいだろう。僕みたいな嗜み程度で剣を握るような人間には恐れ多い頼みだ」

 剣を握るなんて考えただけでも反吐が出る。
 あんなもの、誰が触るものか。

 もう見たくもないというのに。

「ラクリマの湖にいるウンディーネなら適任を教えてくれるはずさ。今度の休みに連れて行ってあげるから、彼女に訊いてみなさい」
「っいいんですか?」
「ああ、困っている生徒を助けるのが我われ教師の役目だ。他の先生たちには上手く言っておくよ」 
「感謝します!」

 その感謝が後悔に変わる瞬間を、せいぜい楽しませてもらおう。

 水の精霊ウンディーネは恋が多く気分屋で、感情的になりやすい。
 数多の人間に恋をしては失恋や悲恋を繰り返して気が立っているし、相手が子どもだからといって容赦はしない。

 ちょうど先日も風の噂でウンディーネの失恋を聞いたところだ。上手くいけばジラルデを始末してくれるはず。

 そうすれば、精霊の怒りに触れてしまった悲しい事件の一つとして扱われて、騒がれることはない。

 騎士の誇りが砕け散る瞬間を、見せてくれ。
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