【電子書籍化】このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。
明日にはレティシアたちとラクリマの湖に行く。
名目上は隣国カエルムから来たドルイユが周りの生徒たちと馴染めるように魔術省の担当者ダルシアクが企画した親睦会。
言葉にすると響きはいいだろうが、実際のところ、スヴィエート殿下とローランが獲物を探るために設けた機会だろう。
これ以上レティシアをスヴィエート殿下たちに近づけたくないが、止めたところで、レティシアは生徒たちの近くにローランがいるのが不安だからと言ってついて行くはずだ。
こうなることがわかっていたから、生徒には手を出すなと釘を刺していたのに。
◇
準備室に行くために回廊を歩いていると、不意にローランの気配を感じ取った。
振り返ればローランが図書館から出てきて近づいてくる。
「急に騎士の真似事などしてどういうおつもりですか?」
なにを言いに来たのかと思えば、どうやら先日の決闘を聞きつけたらしい。
恐らくはスヴィエート殿下が話したのだろう。
「ただ頼まれたから相手をしただけだ」
「騎士を嫌うあなたがなぜ、そんなことをするのです?」
「婚約者の切な頼み事だからだよ」
「またあの婚約者ですか」
あからさまに顔を顰めるようなことはしないが、レティシアに対する敵意が滲んでいる。
「スヴィエート殿下もあの者に興味を持っておられる。なにかを知っていると仰っていましたが、闇の王もそうお思いなのですか?」
勘がいい王子もやはり気づいていたか。
今でも時おりジルから報告が上がるが、レティシアはまるで未来がわかっているかのような素振りを見せることがある。
どうして知っているのか、なにかしらの力を持っているのか、その理由はまだわからない。レティシアが話したがらないから無理には聞いていなかったが、実のところ、先日のジラルデのことも引っかかっていた。
レティシアはなにかに怯えていた。
初めはジラルデの未来を案じているのだと思っていたが、それにしてはどうも様子がおかしい。まるでジラルデの身に起こる悲劇を知っていて、それが現実になりそうだから打ちひしがれているような、そんな様子だった。
しかしルーセル師団長に密かに調べてもらったが、レティシアに先視の力はなかった。
「さあ? 僕はただ惹かれただけだ」
そう答えるしかない。たとえなにか知っていたとしても、シーアの人間に教えるつもりはない。知られたら最後、その力を狙ってレティシアをシーアに連れて行こうとするだろうから。
「ローラン、お前こそどういうつもりだ。急に子守をすると言い始めたようだな。生徒たちに手を出すなと言ったはずだが?」
「どうって、スヴィエート殿下が周囲に馴染めるように提案しただけです。ここに来るたびに殿下が寂しそうなのが耐え切れませんでしたので」
しらじらしい。頻繁にここに来ては次の標的を探しているではないか。
「リュシアン・グーディメルとよく話しているな」
「ええ、学年主任の彼を押さえておくのに越したことはないでしょう?」
「それだけではないだろう? 国王と繋がっているのか探っているように見えるが、思い違いか?」
僕自身もそれを疑っている。リュシアン・グーディメルはロアエク先生が呪いにかかった日に話した人物のうちの一人だ。それに噂によると、彼は定期的に王宮に向かっている。
ロアエク先生に呪いをかけた張本人であるのなら喜んでローランたちに差し出すが、レティシアがいるこの学園で暴れられては困る。
「少なくとも闇の王の婚約者に危害は及びませんよ。殿下が興味をお持ちの間は安全が保障されるでしょう」
「スヴィエート殿下がレティシアに興味を、ね」
なにかを知っているから。それだけの理由で彼女に近づいているわけではないだろう。彼がレティシアに向ける視線の意味は知っている。
厄介なことになる前にもう一度釘を刺した方が良さそうだ。
名目上は隣国カエルムから来たドルイユが周りの生徒たちと馴染めるように魔術省の担当者ダルシアクが企画した親睦会。
言葉にすると響きはいいだろうが、実際のところ、スヴィエート殿下とローランが獲物を探るために設けた機会だろう。
これ以上レティシアをスヴィエート殿下たちに近づけたくないが、止めたところで、レティシアは生徒たちの近くにローランがいるのが不安だからと言ってついて行くはずだ。
こうなることがわかっていたから、生徒には手を出すなと釘を刺していたのに。
◇
準備室に行くために回廊を歩いていると、不意にローランの気配を感じ取った。
振り返ればローランが図書館から出てきて近づいてくる。
「急に騎士の真似事などしてどういうおつもりですか?」
なにを言いに来たのかと思えば、どうやら先日の決闘を聞きつけたらしい。
恐らくはスヴィエート殿下が話したのだろう。
「ただ頼まれたから相手をしただけだ」
「騎士を嫌うあなたがなぜ、そんなことをするのです?」
「婚約者の切な頼み事だからだよ」
「またあの婚約者ですか」
あからさまに顔を顰めるようなことはしないが、レティシアに対する敵意が滲んでいる。
「スヴィエート殿下もあの者に興味を持っておられる。なにかを知っていると仰っていましたが、闇の王もそうお思いなのですか?」
勘がいい王子もやはり気づいていたか。
今でも時おりジルから報告が上がるが、レティシアはまるで未来がわかっているかのような素振りを見せることがある。
どうして知っているのか、なにかしらの力を持っているのか、その理由はまだわからない。レティシアが話したがらないから無理には聞いていなかったが、実のところ、先日のジラルデのことも引っかかっていた。
レティシアはなにかに怯えていた。
初めはジラルデの未来を案じているのだと思っていたが、それにしてはどうも様子がおかしい。まるでジラルデの身に起こる悲劇を知っていて、それが現実になりそうだから打ちひしがれているような、そんな様子だった。
しかしルーセル師団長に密かに調べてもらったが、レティシアに先視の力はなかった。
「さあ? 僕はただ惹かれただけだ」
そう答えるしかない。たとえなにか知っていたとしても、シーアの人間に教えるつもりはない。知られたら最後、その力を狙ってレティシアをシーアに連れて行こうとするだろうから。
「ローラン、お前こそどういうつもりだ。急に子守をすると言い始めたようだな。生徒たちに手を出すなと言ったはずだが?」
「どうって、スヴィエート殿下が周囲に馴染めるように提案しただけです。ここに来るたびに殿下が寂しそうなのが耐え切れませんでしたので」
しらじらしい。頻繁にここに来ては次の標的を探しているではないか。
「リュシアン・グーディメルとよく話しているな」
「ええ、学年主任の彼を押さえておくのに越したことはないでしょう?」
「それだけではないだろう? 国王と繋がっているのか探っているように見えるが、思い違いか?」
僕自身もそれを疑っている。リュシアン・グーディメルはロアエク先生が呪いにかかった日に話した人物のうちの一人だ。それに噂によると、彼は定期的に王宮に向かっている。
ロアエク先生に呪いをかけた張本人であるのなら喜んでローランたちに差し出すが、レティシアがいるこの学園で暴れられては困る。
「少なくとも闇の王の婚約者に危害は及びませんよ。殿下が興味をお持ちの間は安全が保障されるでしょう」
「スヴィエート殿下がレティシアに興味を、ね」
なにかを知っているから。それだけの理由で彼女に近づいているわけではないだろう。彼がレティシアに向ける視線の意味は知っている。
厄介なことになる前にもう一度釘を刺した方が良さそうだ。