《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます

告白

「でも。ここは夢の中よ。現実のあなたは私のことなんて……」

 マーゴットを今こうして大切にしてくれているシルヴィスは、夢で自分にとって都合の良い作られたイメージではないかという懸念があった。
 そもそも現実では、彼は8年後のマーゴットの側にはいないのだ。

 するとシルヴィスは思わず、といったように笑った。

「8年後の時点でまだ僕は帰国できてないわけだ。けど、どうか諦めずに待っていてほしい」
「今までだってほとんど連絡がなかったじゃない。たまに手紙が届くぐらいで。それに卒業したら結局私はバルカスと婚姻を結ぶのよ」
「それは話を聞くと確かに悔しいけど……」

 かといって、今すぐシルヴィスが戻ってマーゴットの側にいたとしても、あまり役には立たない。

「あなたは途中でカレイド王国を見捨てたんだわ。年下の子供の私のこともどうでもよくなって……」
「と君は周囲に、まあダイアン国王に思い込まされたわけだ」
「え?」
「僕は君宛にずっと定期的に手紙を出していた。返事は来たり来なかったり。……国王は僕よりバルカスを君の伴侶にしたがってた」
「……やっぱりね」

 国王ならばマーゴットへの手紙を堰き止めることは簡単だったろう。

「歓迎会のとき僕が言ったことを覚えてるかい? 僕とバルカスはまだ君の婚約者“候補”に過ぎない。本決定は君が学園を卒業した後なんだ」
「……卒業式の後、あなたが帰国していた記憶がないわ」
「なら、多分僕はそのとき、カレイド王国に入国できないようにされるんだろうね」
「………………」
「僕がその措置を受け入れたってことは、まだその時点で魔への効果的な対策を持ち帰る準備ができてなかった可能性が高い」
「……そんな。でも、私はもう……」

 8年後の現実で、マーゴットとバルカスは夫婦ではあったが非常に仲が悪く、いわゆる白い結婚状態だ。
 それどころか守護者カーナと不貞を犯して彼との庶子を育てていると知られている。

 バルカスと離婚しても再婚の目処は立たず、それどころか魔に振り回されてすっかり意気消沈してしまっている。

 もしすべてが上手くいっていたなら、自分にはシルヴィスを王配として生きていたというのか?



 黙り込んでしまったマーゴットの手を、隣に座っていたシルヴィスは取った。

「ここが君にとっての夢の中だと言うなら、告白しておこう。僕は最初に君に会ったときから、この子をお嫁さんにするって決めてたよ」
「えっ?」

 彼自身は、どんな世界でも自分『シルヴィス』の性格には大きな違いはないと確信していると言った。
 なぜなら、カレイド王国にいたとき国王やマーゴットの父の王弟公爵から魔の概要と現状を聞かされたときも、国を出るよう命じられたときも、その後もすべてシルヴィスには迷いがなかったからだ。

「まだ幼児だった君との顔合わせのとき。自分が女王様になるかもって教えられてすぐ、王宮の王都を見渡せるバルコニーに出て両手を広げて『みんな大好き!』って叫んでた」
「そ、そんなこともあったわね」

 幼い頃の無邪気な言動を他者から聞かされるとちょっと恥ずかしい。
 だがシルヴィスの受け取り方は違ったようだ。

「この小っちゃい女王様を大人になっても支えてあげたいなと思ったのが、君を大切に思う想いの始まりだったな」

 そのときシルヴィスはお行儀良くお茶を飲んでいるだけで、バルカス王子はお菓子に夢中だった。
 大人たちはそんな子供たち三人を、誰が次期国王に相応しいか見ていたはずだ。
 実際、最初こそ保留だったが後にマーゴットの立太子が決定している。

 ただ王妃の余計な横槍があって、国内ではバルカス王子が王太子だと流布されてしまったのは良くないことだった。

「僕はそんな大きな目的を持てる器じゃない。国民(みんな)が大好きだって躊躇いなく言える君が眩しかったよ。だからその燃える炎の赤毛のように輝く君を、影のように支える道を選んだのさ」

 こうしてシルヴィス本人から彼の考えや気持ちを聞かされたのは始めてのことだった。

「そんな。今、夢の中でそんなことを聞かされて、私はどうすればいいの……」

 シルヴィスに握られていた手を引き抜いて、マーゴットは顔を両手で覆って泣いた。

 夢見を解いたら現実では8年後だ。

 既に、夢見の術とは現実を自由に改変するほどの効果はないと理解している。

 この告白は現実に戻っても有効なのだろうか?
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