《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
ヴァシレウス大王の提案
「カウニス……カーナは最近ようやく自分のことを思い出したのです。カーナ、私はもう一から説明する気力がないわ。お任せしてもいい?」
「まかされた」
頷いて、子供はそのまま小さな黄金龍となって会議室の宙に細長い蛇体をうねらせて浮かび上がった。
サミットに参加する各国の首脳陣たちの視線が黄金龍に一斉に向く。
『夢見の女王マーゴットの足跡を明かす』
カレイド王国の守護者カーナは、神人と呼ばれるその力で、これまでマーゴットが奔走してきた厄災の魔との関わり、そしてカーナをバルカス王配が害したことも含めすべてをサミット参加者たちに明かした。
『マーゴットの夢見の主要なタイムラインを現実に統合した。これで皆が理解できるはず』
マーゴット女王が最初に夢見の術を行ったのは、当時王子だったバルカス王配が守護者カーナを害した凶事の後だ。
まずはカーナを取り戻す可能性に賭けて、カレイド王国の中興の祖の女勇者でもあった魔女メルセデスを強引に協力させて夢見を行った。
その甲斐あってカーナは一命を取り留めたが、赤ん坊の姿に戻ってしまい、自分が神人であることもわからなくなってしまった。
ふつうの赤ん坊と同じだったので、マーゴットは彼を自分の子供として育てることにした。
守護者カーナ本人だと明かさず、カーナとの間に産まれた子供だとしたのは、よりによって自国の守護者を王子が殺害しかけた事実を公表などできなかったからだ。
議長の神人ジューアが面白そうに笑っている。
「私は何度もお前に言ったわね、女王。カーナを返せと。でもお前はカーナを手元に置き続けて私をこの国に出入り禁止を言い渡した。生意気よ」
「結局、サミットの議長として入国してるじゃないですか、ジューア様」
そもそも彼女も神人まで進化したハイヒューマンだ。本人が望めば入れない国など、どこにもない。
「夢見の術……厄災の魔……そのようなことが、本当に……?」
サミットの参加者たちは、記憶の中に突如現れた情報の塊に、混乱や困惑する者、納得する者など様々だった。
今回の参加者は円環大陸全土からおよそ50名ほど。
ほとんどは国のトップのみの参加だが、アケロニア王国のように王族やそれに近い立場の者数名で参加する国もあった。
「まず、王妃に入ってしまった魔の対処法について、私マーゴットとバルカスは対立していました」
マーゴットは穏健派。あくまでも封印優先で、王妃だけにすべての責任を負わせることには反対だった。
バルカスは過激派、己の母親でもある王妃の処刑に拘っていた。
幼い頃とはいえ自分が厄災の祠を壊してしまったことが、そもそもの発端だ。その責任を取ると言ってきかなかった。
「いくら何でも、バルカス王配に母親殺しを犯させるわけにはいきません。放っておくと元王妃を殺しかねないから、仕方なく軟禁している……というのが実態です」
各国の首脳たちが騒然とする中、手が挙がった。今回のサミットの最高齢者、アケロニア王国のヴァシレウス大王だ。
黒髪黒目で、髪や顎髭に白髪が混じるものの、2メートル近い巨体で黒の軍服に身を包んだ彼はまさに威厳と貫禄の塊だ。
即座に参加者たちの声が止んだ。
「もしまだ女王と王配の間で結論が出ぬのなら、その夢見の術とやらで双方それぞれの主張通りの選択の結果どうなるか、試したらどうだろうか?」
「試す……ですか?」
「そうだ。先ほどカーナ殿の術で与えられた知識によれば、夢見の術は仮想目的を設定してのシミュレーションが可能だろう?」
「しかし……」
すると会議室の上方に小型の黄金龍のまま浮かんでいたカーナが、賛成の意を示した。
『マーゴット。良い方法だ。試してみる価値はある』
「皆も存じておるように、我がアケロニア王族は先祖に勇者がいる。打ち倒した前王家絡みで魔の情報も持っている」
大王は、魔への関わり方には困難だが正解があると言った。
これ以上は国家の機密に関わることだ。
今日はもうサミットの最終日で、議題の消化も既に終わっている。
各国の参加者たちは深入りを避けて、次々と退場していった。
あとは夜、サミットの閉会式を兼ねたパーティーまで各自、王宮内の客間で待機するようだ。
「皆様には気を遣わせてしまったようです」
「どの国も邪気や魔には神経質だからな。……夢見の中で女王か王配、いずれかが私の求める正解に到達した時点で、アケロニア王国にいる私の元に来る設定をするのだ」
「え!?」
思わず声を上げてしまったのはマーゴットだけではない。
グレイシア王太女と、大王の伴侶セシリアも驚いている。
「まさか、大王陛下も夢見に参加するのですか?」
「その通り。魔の情報や対処方法は夢見の中で、最初に私に辿り着いたほうに教えよう。さあ、女王よ。王配を連れてきて夢見の準備をしたまえ」
隣のセシリアが心配そうに大王の腕に触れていた。
そんな彼らを横目に、小さく溜め息をついてマーゴットは侍従にサロンの準備と、バルカス王配らを連れてくるよう指示を出すのだった。
「まかされた」
頷いて、子供はそのまま小さな黄金龍となって会議室の宙に細長い蛇体をうねらせて浮かび上がった。
サミットに参加する各国の首脳陣たちの視線が黄金龍に一斉に向く。
『夢見の女王マーゴットの足跡を明かす』
カレイド王国の守護者カーナは、神人と呼ばれるその力で、これまでマーゴットが奔走してきた厄災の魔との関わり、そしてカーナをバルカス王配が害したことも含めすべてをサミット参加者たちに明かした。
『マーゴットの夢見の主要なタイムラインを現実に統合した。これで皆が理解できるはず』
マーゴット女王が最初に夢見の術を行ったのは、当時王子だったバルカス王配が守護者カーナを害した凶事の後だ。
まずはカーナを取り戻す可能性に賭けて、カレイド王国の中興の祖の女勇者でもあった魔女メルセデスを強引に協力させて夢見を行った。
その甲斐あってカーナは一命を取り留めたが、赤ん坊の姿に戻ってしまい、自分が神人であることもわからなくなってしまった。
ふつうの赤ん坊と同じだったので、マーゴットは彼を自分の子供として育てることにした。
守護者カーナ本人だと明かさず、カーナとの間に産まれた子供だとしたのは、よりによって自国の守護者を王子が殺害しかけた事実を公表などできなかったからだ。
議長の神人ジューアが面白そうに笑っている。
「私は何度もお前に言ったわね、女王。カーナを返せと。でもお前はカーナを手元に置き続けて私をこの国に出入り禁止を言い渡した。生意気よ」
「結局、サミットの議長として入国してるじゃないですか、ジューア様」
そもそも彼女も神人まで進化したハイヒューマンだ。本人が望めば入れない国など、どこにもない。
「夢見の術……厄災の魔……そのようなことが、本当に……?」
サミットの参加者たちは、記憶の中に突如現れた情報の塊に、混乱や困惑する者、納得する者など様々だった。
今回の参加者は円環大陸全土からおよそ50名ほど。
ほとんどは国のトップのみの参加だが、アケロニア王国のように王族やそれに近い立場の者数名で参加する国もあった。
「まず、王妃に入ってしまった魔の対処法について、私マーゴットとバルカスは対立していました」
マーゴットは穏健派。あくまでも封印優先で、王妃だけにすべての責任を負わせることには反対だった。
バルカスは過激派、己の母親でもある王妃の処刑に拘っていた。
幼い頃とはいえ自分が厄災の祠を壊してしまったことが、そもそもの発端だ。その責任を取ると言ってきかなかった。
「いくら何でも、バルカス王配に母親殺しを犯させるわけにはいきません。放っておくと元王妃を殺しかねないから、仕方なく軟禁している……というのが実態です」
各国の首脳たちが騒然とする中、手が挙がった。今回のサミットの最高齢者、アケロニア王国のヴァシレウス大王だ。
黒髪黒目で、髪や顎髭に白髪が混じるものの、2メートル近い巨体で黒の軍服に身を包んだ彼はまさに威厳と貫禄の塊だ。
即座に参加者たちの声が止んだ。
「もしまだ女王と王配の間で結論が出ぬのなら、その夢見の術とやらで双方それぞれの主張通りの選択の結果どうなるか、試したらどうだろうか?」
「試す……ですか?」
「そうだ。先ほどカーナ殿の術で与えられた知識によれば、夢見の術は仮想目的を設定してのシミュレーションが可能だろう?」
「しかし……」
すると会議室の上方に小型の黄金龍のまま浮かんでいたカーナが、賛成の意を示した。
『マーゴット。良い方法だ。試してみる価値はある』
「皆も存じておるように、我がアケロニア王族は先祖に勇者がいる。打ち倒した前王家絡みで魔の情報も持っている」
大王は、魔への関わり方には困難だが正解があると言った。
これ以上は国家の機密に関わることだ。
今日はもうサミットの最終日で、議題の消化も既に終わっている。
各国の参加者たちは深入りを避けて、次々と退場していった。
あとは夜、サミットの閉会式を兼ねたパーティーまで各自、王宮内の客間で待機するようだ。
「皆様には気を遣わせてしまったようです」
「どの国も邪気や魔には神経質だからな。……夢見の中で女王か王配、いずれかが私の求める正解に到達した時点で、アケロニア王国にいる私の元に来る設定をするのだ」
「え!?」
思わず声を上げてしまったのはマーゴットだけではない。
グレイシア王太女と、大王の伴侶セシリアも驚いている。
「まさか、大王陛下も夢見に参加するのですか?」
「その通り。魔の情報や対処方法は夢見の中で、最初に私に辿り着いたほうに教えよう。さあ、女王よ。王配を連れてきて夢見の準備をしたまえ」
隣のセシリアが心配そうに大王の腕に触れていた。
そんな彼らを横目に、小さく溜め息をついてマーゴットは侍従にサロンの準備と、バルカス王配らを連れてくるよう指示を出すのだった。