《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
夢の終わりと新たな現実
「昔、円環大陸の北部の今のカレイド王国の場所にはアドローン王国という国があった。あるときそのアドローンの国王がとても愚かなことをやらかしたの」
何の話が始まるのかと身構えた一同だった。
だが、青銀の髪の麗しの乙女の外見を持ちながらもカーナとは比べ物にならないほど容赦ない神人の彼女だ。誰も口を挟めなかった。
「当時の聖女をさらって、強引に妻にしたの。そして嫌がる聖女と交わり、ありとあらゆる幸運と力を手にした。その後、アドローンは短期間で西部から北部を含む巨大な大国にまで成長したわ」
なるほど、同じように、弱いとはいえ聖なる魔力持ちのポルテと交わったからこそバルカスが神人カーナを傷つけるだけの力を獲得したということだ。
だが魔の悪影響で効果は限定的なものだったように思える。
でもね、と冷えた口調でジューアは続けた。
「アドローンの国王に欲が出たのね。より聖女から力を引き出そうとたくさんの人体実験を繰り返した挙句、孕んだ聖女を腹の中の子供ごと新しく建て直した王宮の基礎に、人柱として使ったの。もちろん生きたままの生贄よ。恐ろしいことやるわよね」
「まさか、それが……」
「そうよ? 人柱にされた聖女が死後、魔に変じたの。普通の人間ですら魔になれば脅威よ。なのに、よりによって聖女を使った」
後はわかるわね? とジューアは言う。
「魔となった聖女はありとあらゆる天災や人災を引き寄せてアドローン王国を崩壊させたわ。これが『アドローンの聖女の悲劇』。アドローンの跡地はその後、何百年も人の入れない穢れ地となってしまった」
「それを浄化したのが、弓聖だった我が国の始祖のハイエルフなんですね……」
だが、魔を完全には浄化しきれず、封印するのがやっとだった。
「22年前……その封印を、何も知らないまま解いてしまったのが俺だ」
ぽつりとバルカスが呟いた。
まだ4歳だったバルカスがだ。
本当なら魔に憑依されるのはバルカスのはずだったが、母親の王妃が庇ったことでバルカスは無事だった。
「そのとき、大半の魔はカーナごと私が封じた。さっきの元王妃とやらに憑いた魔はほんの一部よ」
「え、カーナごとって、でもカーナは」
マーゴットの隣で、マーゴットの手を小さな手で握っている。
思わずその小さな頭のつむじを見下ろすと、カーナはすぐ顔を上げて、またにこっと笑った。
「それは分身。カーナの分身端末みたいなもので、カーナ本人ではないわ」
カーナ本人はジューアが封じたままの姿で神殿にいるという。
マーゴットがサロンにいた面々を見ると、皆頷いてくれた。このまま神殿へ向かうしかなさそうだ。
神殿へ向かう途中、ヴァシレウス大王の伴侶セシリアが、こっそりマーゴットに耳打ちしてきた。
「あたくし、人物鑑定スキルの特級ランク持ちだってお伝えしましたでしょ? 特級になると人の寿命が見えるんですけど、一番素敵なのはね……」
運命の人の名前がステータスから読めるんですよ、と金髪碧眼の甘い顔立ちの美女が言った。
そして教えられた男の名前にマーゴットは赤面した。
「はは、何だマーゴット。顔がイチゴみたいになってるぞ。ドレスはプリンなのにな。さながらイチゴプリンか?」
「もう、グレイシアったら! 揶揄わないでよ!」
何年も仲違いしていたことが嘘のように学生時代さながら軽口を叩き合っているマーゴットとグレイシア王太女。
その後ろでは、ヴァシレウス大王が悪戯好きの少年のような顔で笑っている。
「知っていたか? マーゴット女王。大陸の南部で新たに聖者に覚醒した男が出たんだ。元槍兵のまだ若い教会司祭でな。邪悪を滅する破邪スキルに特化した聖者らしい」
「破邪、ですか」
破邪は破魔や退魔の下位スキルだ。
「彼を連れて、この国に赴任する冒険者ギルドの新米ギルドマスターがそろそろ到着するそうだぞ。名前は確か……ディアーズ氏だったか」
「そ、それって……」
グレイシア王太女も悪戯が成功したとばかりに笑っている。
「お話中、失礼致します、マーゴット女王陛下。冒険者ギルドのカレイド王国王都支部ギルドマスター、シルヴィス・ディアーズ様並びに聖者ビクトリノ様がお越しです。謁見申請を許可なされますか?」
「!」
侍従が伝言を持ってきた。マーゴットへの謁見申請が入ったという。
その名前を聞いて、マーゴットは息を飲み、そしてネオングリーンの目を、こぼれそうになる涙を堪えて閉じた。
無数に繰り返した夢見が結実した。
夢は終わり、現実が動き出す。
何の話が始まるのかと身構えた一同だった。
だが、青銀の髪の麗しの乙女の外見を持ちながらもカーナとは比べ物にならないほど容赦ない神人の彼女だ。誰も口を挟めなかった。
「当時の聖女をさらって、強引に妻にしたの。そして嫌がる聖女と交わり、ありとあらゆる幸運と力を手にした。その後、アドローンは短期間で西部から北部を含む巨大な大国にまで成長したわ」
なるほど、同じように、弱いとはいえ聖なる魔力持ちのポルテと交わったからこそバルカスが神人カーナを傷つけるだけの力を獲得したということだ。
だが魔の悪影響で効果は限定的なものだったように思える。
でもね、と冷えた口調でジューアは続けた。
「アドローンの国王に欲が出たのね。より聖女から力を引き出そうとたくさんの人体実験を繰り返した挙句、孕んだ聖女を腹の中の子供ごと新しく建て直した王宮の基礎に、人柱として使ったの。もちろん生きたままの生贄よ。恐ろしいことやるわよね」
「まさか、それが……」
「そうよ? 人柱にされた聖女が死後、魔に変じたの。普通の人間ですら魔になれば脅威よ。なのに、よりによって聖女を使った」
後はわかるわね? とジューアは言う。
「魔となった聖女はありとあらゆる天災や人災を引き寄せてアドローン王国を崩壊させたわ。これが『アドローンの聖女の悲劇』。アドローンの跡地はその後、何百年も人の入れない穢れ地となってしまった」
「それを浄化したのが、弓聖だった我が国の始祖のハイエルフなんですね……」
だが、魔を完全には浄化しきれず、封印するのがやっとだった。
「22年前……その封印を、何も知らないまま解いてしまったのが俺だ」
ぽつりとバルカスが呟いた。
まだ4歳だったバルカスがだ。
本当なら魔に憑依されるのはバルカスのはずだったが、母親の王妃が庇ったことでバルカスは無事だった。
「そのとき、大半の魔はカーナごと私が封じた。さっきの元王妃とやらに憑いた魔はほんの一部よ」
「え、カーナごとって、でもカーナは」
マーゴットの隣で、マーゴットの手を小さな手で握っている。
思わずその小さな頭のつむじを見下ろすと、カーナはすぐ顔を上げて、またにこっと笑った。
「それは分身。カーナの分身端末みたいなもので、カーナ本人ではないわ」
カーナ本人はジューアが封じたままの姿で神殿にいるという。
マーゴットがサロンにいた面々を見ると、皆頷いてくれた。このまま神殿へ向かうしかなさそうだ。
神殿へ向かう途中、ヴァシレウス大王の伴侶セシリアが、こっそりマーゴットに耳打ちしてきた。
「あたくし、人物鑑定スキルの特級ランク持ちだってお伝えしましたでしょ? 特級になると人の寿命が見えるんですけど、一番素敵なのはね……」
運命の人の名前がステータスから読めるんですよ、と金髪碧眼の甘い顔立ちの美女が言った。
そして教えられた男の名前にマーゴットは赤面した。
「はは、何だマーゴット。顔がイチゴみたいになってるぞ。ドレスはプリンなのにな。さながらイチゴプリンか?」
「もう、グレイシアったら! 揶揄わないでよ!」
何年も仲違いしていたことが嘘のように学生時代さながら軽口を叩き合っているマーゴットとグレイシア王太女。
その後ろでは、ヴァシレウス大王が悪戯好きの少年のような顔で笑っている。
「知っていたか? マーゴット女王。大陸の南部で新たに聖者に覚醒した男が出たんだ。元槍兵のまだ若い教会司祭でな。邪悪を滅する破邪スキルに特化した聖者らしい」
「破邪、ですか」
破邪は破魔や退魔の下位スキルだ。
「彼を連れて、この国に赴任する冒険者ギルドの新米ギルドマスターがそろそろ到着するそうだぞ。名前は確か……ディアーズ氏だったか」
「そ、それって……」
グレイシア王太女も悪戯が成功したとばかりに笑っている。
「お話中、失礼致します、マーゴット女王陛下。冒険者ギルドのカレイド王国王都支部ギルドマスター、シルヴィス・ディアーズ様並びに聖者ビクトリノ様がお越しです。謁見申請を許可なされますか?」
「!」
侍従が伝言を持ってきた。マーゴットへの謁見申請が入ったという。
その名前を聞いて、マーゴットは息を飲み、そしてネオングリーンの目を、こぼれそうになる涙を堪えて閉じた。
無数に繰り返した夢見が結実した。
夢は終わり、現実が動き出す。