《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
制裁は不貞相手の平民女へ
そのホルトラン侯爵令息テオドアは、別件でオズ公爵令嬢マーゴットの調査を進めていた。
王太子の婚約者でありながら、下級貴族のように質素な身だしなみの彼女への違和感。
法務省の役人として、テオドアのこの手の勘は当たることが多かった。
調査の結果、王子バルカスは婚約者マーゴットのオズ公爵家への支援金及び、婚約者への仕度金を着服していた。
彼の取り巻きたちも共犯。
「参ったな。愚弟まで横領と着服に噛んでいるのか」
テオドアにとっては、バルカス王子の側近となっている弟の愚挙も頭が痛かった。
結果、オズ公爵家は今にも没落寸前だった。
このカレイド王国では、高位貴族の婚約者と不貞を犯した平民への処罰は、背中への鞭打ち100回だ。
ただしこの場合、ポルテなる相手はまだ未成年の少女なので回数は半分に減らすのが妥当。
王太子の寵愛を受けていることも加味すると30回。これは被害者のマーゴット自身が鞭打つ場合。
加害者のポルテの身内が家族への罰として自ら行うなら更に20回まで減る。
ただしその場合、見届け人の目から見て手加減していると判断された場合、その回数分は無効となる。
ポルテの家族に通知して呼び出したところ、泡を食って「自分たちで娘に制裁する」との回答。
鞭打ちは実兄が担当するという。
後日、マーゴットのオズ公爵邸にて不貞への処罰の執行となった。
集まったのは被害者のオズ公爵令嬢マーゴット、バルカス王子、不貞相手の平民女ポルテとその兄。
見届け人に国王の秘書、法務省から本件の担当官として宰相令息でホルトラン侯爵令息のテオドア。
「ポルテ!? マーゴット、これはどういうことだ!?」
マーゴットは答えなかった。回答は担当官のテオドアからだ。
「平民ポルテは、オズ公爵令嬢マーゴットの正式な婚約者であるバルカス王子と不貞を犯した。よって貴族法に則り鞭打ち100回の処罰を課す」
「鞭打ちっ!?」
まさかの回答にバルカス王子が目を剥いた。
「平民ポルテは未成年のため鞭打ち回数は半分の50回に減刑。王子の寵愛を受けている事実を考慮して30回まで減刑。鞭打ち刑を平民ポルテの実兄が担当することで更に20回まで減刑」
「そ、そんな鞭で打ったらポルテの柔肌が傷ついてしまうではないか!」
「なお、この処罰については国王夫妻からの許可が下りております。ですね? 秘書殿」
王宮から派遣された国王の秘書も頷いている。
鞭とはいえ、数センチ幅の木の板だ。
最初の数回、兄は本気で妹を殴れなかった。
もちろんノーカウントだ。
頭部や首、背骨は生死に関わるため打ってはならない。首から下の胴体のみ打つことが許されている。
「ーーー! ーーーーー!!!」
大の男の力で5回も打つとポルテのワンピースには血が滲み始めた。
ポルテの口は猿轡が噛まされて、悲鳴を上げることもできない。
「や、やめろ、もういいだろう!?」
「続けるように」
テオドアが促す。
「うおおおおお!」
ポルテの兄は男泣きに泣きながら妹の背を打った。
「ポルテ!」
「寄らないでください!」
血だらけになったポルテに駆け寄ろうとした王子をポルテの兄が睨みつける。
「法務官の方から事情をお聞きしました。妹が……俺たち家族がこんな目に遭っているのはすべて王子殿下、あなたのせいだと!」
そしてもう二度と自分たちの前に現れないでくれと懇願して、兄は傷だらけの妹を抱えて去っていった。
ポルテたち兄妹がオズ公爵家を去ったと報告を受けて、マーゴットはショックで動けないバルカス王子に声をかけた。
「どんな気分なの? ご自分の愚かさによって最愛の女性を傷めつけるって?」
「マーゴット、貴様!」
振り上げられたバルカス王子の拳を、テオドア法務官が連れて来ていた騎士がすかさず止めている。
「殿下、逆恨みはおやめください。この事態を引き起こしたのはオズ公爵令嬢ではありません。公爵令嬢の婚約者がいながら、平民女と不貞を犯し、何も対策を取らなかったあなた様の不手際が原因なのです」
「そ、それは!」
マーゴットが何も言わなかったから、それで許容されていると思い込んでいたバルカス王子のミスだ。
淡々と事実を指摘され、バルカス王子はぐうの音も出ない。
「なお、今回の処罰に対するオズ公爵令嬢マーゴット様への報復は認められておりません。王子殿下におかれましてはご理解のほどを」
そしてバルカス王子には、婚約者のオズ公爵家令嬢マーゴットへの慰謝料の支払い命令が出ている。
「速やかな支払いを。期日までに支払いが確認できない場合、オズ公爵家には王子殿下に対して個人的な制裁措置の行使が認められます」
「なん……なのだ、この金額は!?」
渡された法務省からの命令書を見て、バルカス王子は青目を驚愕に見開いた。
金額が非常に大きい。大金貨の百枚や二百枚では済まない。
この世界で大金貨は一枚当たり20万ほどの価値だ。その大金貨で1200枚の支払いが命じられている。2億4千万円、とんでもない金額だった。
この巨額の慰謝料の金額には理由がある。
カレイド王国の国内でこそ王妃の我儘で王太子で通っているバルカスだが、実際には身分は一王子のまま。
対してマーゴットは王位継承権一位の次期女王が内定している。
次期女王の婚約者でありながら不貞を犯したことへの罰則の適用のため、金額が巨額になっているのだ。
本来ならバルカス王子と王家側の有責で速攻で婚約破棄となる事件だったが、それはマーゴットが望まなかった。
王太子の婚約者でありながら、下級貴族のように質素な身だしなみの彼女への違和感。
法務省の役人として、テオドアのこの手の勘は当たることが多かった。
調査の結果、王子バルカスは婚約者マーゴットのオズ公爵家への支援金及び、婚約者への仕度金を着服していた。
彼の取り巻きたちも共犯。
「参ったな。愚弟まで横領と着服に噛んでいるのか」
テオドアにとっては、バルカス王子の側近となっている弟の愚挙も頭が痛かった。
結果、オズ公爵家は今にも没落寸前だった。
このカレイド王国では、高位貴族の婚約者と不貞を犯した平民への処罰は、背中への鞭打ち100回だ。
ただしこの場合、ポルテなる相手はまだ未成年の少女なので回数は半分に減らすのが妥当。
王太子の寵愛を受けていることも加味すると30回。これは被害者のマーゴット自身が鞭打つ場合。
加害者のポルテの身内が家族への罰として自ら行うなら更に20回まで減る。
ただしその場合、見届け人の目から見て手加減していると判断された場合、その回数分は無効となる。
ポルテの家族に通知して呼び出したところ、泡を食って「自分たちで娘に制裁する」との回答。
鞭打ちは実兄が担当するという。
後日、マーゴットのオズ公爵邸にて不貞への処罰の執行となった。
集まったのは被害者のオズ公爵令嬢マーゴット、バルカス王子、不貞相手の平民女ポルテとその兄。
見届け人に国王の秘書、法務省から本件の担当官として宰相令息でホルトラン侯爵令息のテオドア。
「ポルテ!? マーゴット、これはどういうことだ!?」
マーゴットは答えなかった。回答は担当官のテオドアからだ。
「平民ポルテは、オズ公爵令嬢マーゴットの正式な婚約者であるバルカス王子と不貞を犯した。よって貴族法に則り鞭打ち100回の処罰を課す」
「鞭打ちっ!?」
まさかの回答にバルカス王子が目を剥いた。
「平民ポルテは未成年のため鞭打ち回数は半分の50回に減刑。王子の寵愛を受けている事実を考慮して30回まで減刑。鞭打ち刑を平民ポルテの実兄が担当することで更に20回まで減刑」
「そ、そんな鞭で打ったらポルテの柔肌が傷ついてしまうではないか!」
「なお、この処罰については国王夫妻からの許可が下りております。ですね? 秘書殿」
王宮から派遣された国王の秘書も頷いている。
鞭とはいえ、数センチ幅の木の板だ。
最初の数回、兄は本気で妹を殴れなかった。
もちろんノーカウントだ。
頭部や首、背骨は生死に関わるため打ってはならない。首から下の胴体のみ打つことが許されている。
「ーーー! ーーーーー!!!」
大の男の力で5回も打つとポルテのワンピースには血が滲み始めた。
ポルテの口は猿轡が噛まされて、悲鳴を上げることもできない。
「や、やめろ、もういいだろう!?」
「続けるように」
テオドアが促す。
「うおおおおお!」
ポルテの兄は男泣きに泣きながら妹の背を打った。
「ポルテ!」
「寄らないでください!」
血だらけになったポルテに駆け寄ろうとした王子をポルテの兄が睨みつける。
「法務官の方から事情をお聞きしました。妹が……俺たち家族がこんな目に遭っているのはすべて王子殿下、あなたのせいだと!」
そしてもう二度と自分たちの前に現れないでくれと懇願して、兄は傷だらけの妹を抱えて去っていった。
ポルテたち兄妹がオズ公爵家を去ったと報告を受けて、マーゴットはショックで動けないバルカス王子に声をかけた。
「どんな気分なの? ご自分の愚かさによって最愛の女性を傷めつけるって?」
「マーゴット、貴様!」
振り上げられたバルカス王子の拳を、テオドア法務官が連れて来ていた騎士がすかさず止めている。
「殿下、逆恨みはおやめください。この事態を引き起こしたのはオズ公爵令嬢ではありません。公爵令嬢の婚約者がいながら、平民女と不貞を犯し、何も対策を取らなかったあなた様の不手際が原因なのです」
「そ、それは!」
マーゴットが何も言わなかったから、それで許容されていると思い込んでいたバルカス王子のミスだ。
淡々と事実を指摘され、バルカス王子はぐうの音も出ない。
「なお、今回の処罰に対するオズ公爵令嬢マーゴット様への報復は認められておりません。王子殿下におかれましてはご理解のほどを」
そしてバルカス王子には、婚約者のオズ公爵家令嬢マーゴットへの慰謝料の支払い命令が出ている。
「速やかな支払いを。期日までに支払いが確認できない場合、オズ公爵家には王子殿下に対して個人的な制裁措置の行使が認められます」
「なん……なのだ、この金額は!?」
渡された法務省からの命令書を見て、バルカス王子は青目を驚愕に見開いた。
金額が非常に大きい。大金貨の百枚や二百枚では済まない。
この世界で大金貨は一枚当たり20万ほどの価値だ。その大金貨で1200枚の支払いが命じられている。2億4千万円、とんでもない金額だった。
この巨額の慰謝料の金額には理由がある。
カレイド王国の国内でこそ王妃の我儘で王太子で通っているバルカスだが、実際には身分は一王子のまま。
対してマーゴットは王位継承権一位の次期女王が内定している。
次期女王の婚約者でありながら不貞を犯したことへの罰則の適用のため、金額が巨額になっているのだ。
本来ならバルカス王子と王家側の有責で速攻で婚約破棄となる事件だったが、それはマーゴットが望まなかった。