《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
守護者と立ち向かう新ループ
再びの巻き戻り
「ま、またループしたのね!?」
自宅の自室で目を覚ましたマーゴットはがっくりと項垂れた。
速攻ベッドから起きて、机の上の日記を確認する。
「……学園の最終学年に進学する一ヶ月前、か」
この国の学校機関は4月始まりの3月締め。
まだ3月の春だ。
「まさか、首を絞めてくるなんて」
自分の首元を撫でる。ループの最後でキュッと遠慮なく絞めてくれたものだ。
最後の最後で、自分も良くないことを言ってしまった。その反省があったにせよ。
「どう頑張っても、バルカスは私を好きにはなってはくれないのね」
悲しみを堪えて溜息をついた。
マーゴットと王太子バルカスは従兄妹同士の幼馴染みだ。
それぞれの父親が国王と王弟という関係にある。
本来、とても仲が良かった。
ふたりは同じ人物を好きになり、憧れているという共通点があったため。
それにほとんどずっとオズ公爵家で一緒に育っている。
そんな環境だったから、マーゴットの幼馴染みへの情が恋に変わるのは自然なことだったと思う。
「バルカス、だいすきよ!」
「ぼくもマーゴット、すき!」
「バルカスよりずっとずっとずっと、だあいすき!」
「ええー。じゃあね、ぼくはこの空よりマーゴットだいすき!」
そんな子供らしい好き好きをずっと、飽きることなく言い合って笑っていた頃だってあったのに。
これまで繰り返してきたループの中で、マーゴットによくわからなかったことがある。
仲が良かったはずのバルカスが、マーゴットを嫌い、平気でオズ公爵家の資産を盗むようになる、そのきっかけというのが理解できなかったのだ。
「前回までのループの感じだと、……やはり国王夫妻なのかしら」
彼らが息子のバルカスを溺愛し、無条件で甘やかしていたのはいつものこと。
特に、本来、継承権のないバルカスに王太子を名乗らせてほしいと頼み込み、その事実を忘れてしまった王妃だ。
「……悪い人ではないのだけど」
実際、マーゴットも幼い頃から実の娘のように可愛がってもらっていたし、両親が亡くなった直後には抱き締めて慰めてもらったものだ。
好きか嫌いかでいえば、好きな人だ。
ただ、カレイド王国の現王妃メイは、少々癖のある人物として陰で問題視されることがある。
悪人ではないが、無神経さで他者に害を及ぼすことがある。
王宮で王妃として様々なことに口を出すのだが、無邪気に思いつきを話しているだけで、結果に責任を持たないのだ。
そんな人物だから、息子バルカスが仮の王太子であることも、するりと頭の中から抜けてしまったのだろう。
それでも、それなりに王宮では派閥を作っていて、支える者が多かった。
彼女の派閥には、王妃に感化を受けた無邪気さと無神経さを取り違えた者が結構いる。
「お父様とお母様が生きてらした頃は、バルカスもオズ公爵家に入り浸りで、王妃様の影響を感じることはなかったのよね」
だがマーゴットの両親が流行り病で亡くなった後、慕っていた公爵夫妻がいなくなったことでバルカスの足が遠のく。
王宮にいるとき、王妃は息子のバルカス王子を側から離さないと聞く。
それで王妃の無邪気な毒気にやられてしまったということなのだろうか?
再び時間が巻き戻っても、マーゴットの環境は変わっていなかった。
学園に入学する前に両親は流行り病で相次いで亡くなっている。
バルカスはやはり、王家から公爵家への支援金等を横領し着服して、取り巻きたちと良くない遊びに使っている。
そろそろ、あの平民の女生徒ポルテを寵愛し始める頃だろう。
少し経って、マーゴットに神殿から書状が届いた。
「えっ。カーナが直接この国に来たの!?」
近年は、神殿の護摩の炎の中にぼんやりとした魔力の塊でしか降臨しなかった守護者が、直接生身の身体でカレイド王国を訪れているという。
慌ててすっ飛んでいくと、久し振りに見る黒髪と琥珀の瞳の優美な青年が、神官長と応接間でお茶を飲んでいた。
「カーナ! カーナ、カーナ、会いたかった!」
「マーゴット。相変わらずお転婆だなあ」
身につけたはずの淑女教育の成果が頭から吹っ飛んだマーゴットは、子供の頃のように青年に抱きついた。
彼はいつも甘く瑞々しい桃のような香りがする。
「おっと。婚約者がいる子をよその男が抱き締めるのは良くないね」
「あ」
黒髪の青年はその場で仔馬サイズの一角獣に変わった。
一角獣はすぐにまた人の形になる。
ただし、今度は黒髪と琥珀の瞳の、マーゴットと同い年ぐらいの美しい少女になった。
竜人族と一角獣人族のハーフ、ハイヒューマンのカーナは男女どちらの姿にもなれる。
「女の子の姿、久し振りに見たわ。バルカスが聞いたら悔しがるでしょうね」
幼い頃、マーゴットは青年姿のカーナが好きだった。
従兄弟のバルカスは、少女の姿のカーナに一目惚れした。
マーゴットとバルカスは同じ相手を好きになった同士でもあったのだ。
自宅の自室で目を覚ましたマーゴットはがっくりと項垂れた。
速攻ベッドから起きて、机の上の日記を確認する。
「……学園の最終学年に進学する一ヶ月前、か」
この国の学校機関は4月始まりの3月締め。
まだ3月の春だ。
「まさか、首を絞めてくるなんて」
自分の首元を撫でる。ループの最後でキュッと遠慮なく絞めてくれたものだ。
最後の最後で、自分も良くないことを言ってしまった。その反省があったにせよ。
「どう頑張っても、バルカスは私を好きにはなってはくれないのね」
悲しみを堪えて溜息をついた。
マーゴットと王太子バルカスは従兄妹同士の幼馴染みだ。
それぞれの父親が国王と王弟という関係にある。
本来、とても仲が良かった。
ふたりは同じ人物を好きになり、憧れているという共通点があったため。
それにほとんどずっとオズ公爵家で一緒に育っている。
そんな環境だったから、マーゴットの幼馴染みへの情が恋に変わるのは自然なことだったと思う。
「バルカス、だいすきよ!」
「ぼくもマーゴット、すき!」
「バルカスよりずっとずっとずっと、だあいすき!」
「ええー。じゃあね、ぼくはこの空よりマーゴットだいすき!」
そんな子供らしい好き好きをずっと、飽きることなく言い合って笑っていた頃だってあったのに。
これまで繰り返してきたループの中で、マーゴットによくわからなかったことがある。
仲が良かったはずのバルカスが、マーゴットを嫌い、平気でオズ公爵家の資産を盗むようになる、そのきっかけというのが理解できなかったのだ。
「前回までのループの感じだと、……やはり国王夫妻なのかしら」
彼らが息子のバルカスを溺愛し、無条件で甘やかしていたのはいつものこと。
特に、本来、継承権のないバルカスに王太子を名乗らせてほしいと頼み込み、その事実を忘れてしまった王妃だ。
「……悪い人ではないのだけど」
実際、マーゴットも幼い頃から実の娘のように可愛がってもらっていたし、両親が亡くなった直後には抱き締めて慰めてもらったものだ。
好きか嫌いかでいえば、好きな人だ。
ただ、カレイド王国の現王妃メイは、少々癖のある人物として陰で問題視されることがある。
悪人ではないが、無神経さで他者に害を及ぼすことがある。
王宮で王妃として様々なことに口を出すのだが、無邪気に思いつきを話しているだけで、結果に責任を持たないのだ。
そんな人物だから、息子バルカスが仮の王太子であることも、するりと頭の中から抜けてしまったのだろう。
それでも、それなりに王宮では派閥を作っていて、支える者が多かった。
彼女の派閥には、王妃に感化を受けた無邪気さと無神経さを取り違えた者が結構いる。
「お父様とお母様が生きてらした頃は、バルカスもオズ公爵家に入り浸りで、王妃様の影響を感じることはなかったのよね」
だがマーゴットの両親が流行り病で亡くなった後、慕っていた公爵夫妻がいなくなったことでバルカスの足が遠のく。
王宮にいるとき、王妃は息子のバルカス王子を側から離さないと聞く。
それで王妃の無邪気な毒気にやられてしまったということなのだろうか?
再び時間が巻き戻っても、マーゴットの環境は変わっていなかった。
学園に入学する前に両親は流行り病で相次いで亡くなっている。
バルカスはやはり、王家から公爵家への支援金等を横領し着服して、取り巻きたちと良くない遊びに使っている。
そろそろ、あの平民の女生徒ポルテを寵愛し始める頃だろう。
少し経って、マーゴットに神殿から書状が届いた。
「えっ。カーナが直接この国に来たの!?」
近年は、神殿の護摩の炎の中にぼんやりとした魔力の塊でしか降臨しなかった守護者が、直接生身の身体でカレイド王国を訪れているという。
慌ててすっ飛んでいくと、久し振りに見る黒髪と琥珀の瞳の優美な青年が、神官長と応接間でお茶を飲んでいた。
「カーナ! カーナ、カーナ、会いたかった!」
「マーゴット。相変わらずお転婆だなあ」
身につけたはずの淑女教育の成果が頭から吹っ飛んだマーゴットは、子供の頃のように青年に抱きついた。
彼はいつも甘く瑞々しい桃のような香りがする。
「おっと。婚約者がいる子をよその男が抱き締めるのは良くないね」
「あ」
黒髪の青年はその場で仔馬サイズの一角獣に変わった。
一角獣はすぐにまた人の形になる。
ただし、今度は黒髪と琥珀の瞳の、マーゴットと同い年ぐらいの美しい少女になった。
竜人族と一角獣人族のハーフ、ハイヒューマンのカーナは男女どちらの姿にもなれる。
「女の子の姿、久し振りに見たわ。バルカスが聞いたら悔しがるでしょうね」
幼い頃、マーゴットは青年姿のカーナが好きだった。
従兄弟のバルカスは、少女の姿のカーナに一目惚れした。
マーゴットとバルカスは同じ相手を好きになった同士でもあったのだ。