《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
カレイド王国の弓祓い
「ことの始まりは、バルカス王子の誕生祝いで王宮の親族パーティーに両親と参加したときです。国王夫妻と生まれて少し経った頃のバルカスに挨拶し終わると僕の具合が悪くなってしまって」
王家の親族パーティーには例の雑草会の者たちも来る。
全員ではなかったが、主だった者たちだけでも二百人は来ていたはずだ。
「最初は、たくさんの人がいる場所に酔ったのかなって思ってたんです。でもその後も、王宮に行くたびに調子を崩しました」
「誰に会ったとき?」
「国王一家です。……あるとき、冗談混じりに国王陛下に『陛下たちにお会いすると緊張するのか調子を崩すことがあって』と話すと、目に見えて顔色が変わられて。それ以来、僕はあまり王宮に呼ばれることがなくなりました」
マーゴットとバルカスは同い年に生まれている。
バルカスは他国の平民女を母に持つだけとは思えないほど血筋順位が低く、血筋チェッカーでも千番以内の数字が出なかった。
王妃譲りの金髪青目ではあったが、顔立ちが国王そっくりなので国王の息子であることは間違いない。
だが、血筋順位の欄外では次期国王として認められることはない。
カレイド王国では百番以内でなければ王位を継承できない。事情があっても、必ず千番以内から選ぶと決まっている。
それに、千番にも入れない欄外では、王子であっても国王が代替わりした後は王家に残れないだろう。
そんな規則はなかったが、世論が許さない。
カレイド王国は、始祖のハイエルフと、中興の祖の女勇者の血の濃い末裔がトップだからこそ、国民が信奉し敬意を持つのだ。
そこで、国王は自分が退位した後もバルカスを王家に残すために、新たな血筋順位一位として生まれていた弟の娘、自分の姪であるマーゴットの婚約者候補にバルカス王子を据えた。
ただ、まだ候補とはいえ、あまりにも国王夫妻に都合が良すぎて、打算的すぎる。
そこで二人目の婚約者候補となったのが、マーゴットと歳が比較的近い親族で血筋順位も七位、一桁台のシルヴィスだ。
バルカス王子は母親が他国の平民女が母親で血筋順位は欄外。
シルヴィスは家の爵位こそ伯爵だが、数代前に王家の姫君が降嫁した家で、本人は血筋順位七位。
「カレイド王国では何か決めるとき、本人や関係者の血筋順位の数字が優先されるよね。だからオレはてっきり、君が本命だと思ってたんだ」
「僕も周りもそう思っていました」
「その後もやはり王宮に行くたび具合が悪くなったのですが、あるときマーゴットの父君のラズリス様に相談したら血相を変えて『すぐ神殿に行くように』と言われたんです」
「神殿? でも君は幼い頃から神殿で勉強していただろ?」
元々、シルヴィスのディアーズ伯爵家はカレイド王国では神殿と縁の深い家の一つだった。
シルヴィスも神官に適性があったので、学園を卒業するまでは神殿でも並行して学び、卒業後に本格的に修行に入る予定でいた。
「はい。予定を前倒しして神官の修行をするよう勧められました。そしてオズ公爵家でラズリス様に目の前で弓の弦を鳴らされたのです。そして不調が晴れました」
「弓の……えっ、てことは」
弓は射るのでなく、弦を鳴らすと祓いになる。
それで不調が晴れたというなら、祓われるべき何かの悪影響を受けていたということだ。
カレイド王国のハイエルフの始祖は弓聖と呼ばれる、弓使いだった。
そのため、今でもカレイド王族の得意とする武術は弓である。
この世界で、聖なる魔力持ちには、まず特化型の聖女や聖者。直接、聖なる魔力で癒しや浄化、結界、術者によっては戦闘も行う。
武術家で聖なる魔力持ちなら、剣士なら剣聖、弓使いなら弓聖、徒手空拳の使い手なら拳聖といった具合だ。
扱う獲物を通じて聖なる魔力を行使する。
武術家ではないが、書聖という書いた文字が聖なる護符化する芸術家タイプの術者もいる。
そして弓聖は戦うことより、修祓や祓除、つまり祓いに特化している。
武器としての矢を用いず、弓の弦を鳴らす鳴弦なる儀式を司るのが主だからだ。
「じゃあ君は、弓使いとして冒険者活動をしているってこと?」
「カレイド王国の弓使いが戦えるわけないじゃないですか。魔力特性を活かして暗器使いスキルを覚えて、諜報や斥候メインで活動しています」
「何という才能の無駄遣い……」
カレイド王国の始祖のハイエルフは弓聖だったと伝わっている。
事実は少し違う。彼は聖なる魔力を持っていなかった。
この世界で聖なる魔力持ちは、聖女や聖者らに顕著だが、必ず魔力がネオンカラーに光る。
例えば、ロータスという有名な聖女は鮮やかなネオンピンク。他にはネオングリーンやネオンブルー、ネオンオレンジなどもいる。
カレイド王国の始祖の魔力には色がなかった。無色透明なのだ。
その無色透明な魔力が、弓の弦を通すと邪気祓いになった。
そうして約3千年前、氷の魔物のせいで極寒で人が立ち入れなかった円環大陸の北部を祓いに祓いまくってカレイド王国を建国したのが、カレイド王国の始祖のハイエルフだった。
カーナは椅子に座ったシルヴィスを見る。
銀に近い灰色の髪と瞳で、肌は白く、顔立ちはなかなか綺麗めに整った美男子だ。
全体的に色素が薄く、マーゴットのような始祖の鮮やかなネオングリーンの瞳も、燃える炎の赤毛も持っていない。
顔立ちも始祖や中興の祖の女勇者の面影はない。
ということは、マーゴットやその父親、それに現国王とも似ていないということだ。
それでも彼が血筋順位七位と高位な理由は。
「君は始祖と同じ無色透明な魔力の持ち主だ。本来なら祓いが専門の神官。カレイド王国の異変には気づいているね?」
始祖の瞳も、中興の祖の女勇者の赤毛も受け継がなかった彼だが、カレイド王国の正当な魔力継承者の一人のはずだった。
それが、なぜ祖国カレイド王国を出奔して、他国で冒険者などやっているのか。
カーナが知りたかったのはそこだ。
王家の親族パーティーには例の雑草会の者たちも来る。
全員ではなかったが、主だった者たちだけでも二百人は来ていたはずだ。
「最初は、たくさんの人がいる場所に酔ったのかなって思ってたんです。でもその後も、王宮に行くたびに調子を崩しました」
「誰に会ったとき?」
「国王一家です。……あるとき、冗談混じりに国王陛下に『陛下たちにお会いすると緊張するのか調子を崩すことがあって』と話すと、目に見えて顔色が変わられて。それ以来、僕はあまり王宮に呼ばれることがなくなりました」
マーゴットとバルカスは同い年に生まれている。
バルカスは他国の平民女を母に持つだけとは思えないほど血筋順位が低く、血筋チェッカーでも千番以内の数字が出なかった。
王妃譲りの金髪青目ではあったが、顔立ちが国王そっくりなので国王の息子であることは間違いない。
だが、血筋順位の欄外では次期国王として認められることはない。
カレイド王国では百番以内でなければ王位を継承できない。事情があっても、必ず千番以内から選ぶと決まっている。
それに、千番にも入れない欄外では、王子であっても国王が代替わりした後は王家に残れないだろう。
そんな規則はなかったが、世論が許さない。
カレイド王国は、始祖のハイエルフと、中興の祖の女勇者の血の濃い末裔がトップだからこそ、国民が信奉し敬意を持つのだ。
そこで、国王は自分が退位した後もバルカスを王家に残すために、新たな血筋順位一位として生まれていた弟の娘、自分の姪であるマーゴットの婚約者候補にバルカス王子を据えた。
ただ、まだ候補とはいえ、あまりにも国王夫妻に都合が良すぎて、打算的すぎる。
そこで二人目の婚約者候補となったのが、マーゴットと歳が比較的近い親族で血筋順位も七位、一桁台のシルヴィスだ。
バルカス王子は母親が他国の平民女が母親で血筋順位は欄外。
シルヴィスは家の爵位こそ伯爵だが、数代前に王家の姫君が降嫁した家で、本人は血筋順位七位。
「カレイド王国では何か決めるとき、本人や関係者の血筋順位の数字が優先されるよね。だからオレはてっきり、君が本命だと思ってたんだ」
「僕も周りもそう思っていました」
「その後もやはり王宮に行くたび具合が悪くなったのですが、あるときマーゴットの父君のラズリス様に相談したら血相を変えて『すぐ神殿に行くように』と言われたんです」
「神殿? でも君は幼い頃から神殿で勉強していただろ?」
元々、シルヴィスのディアーズ伯爵家はカレイド王国では神殿と縁の深い家の一つだった。
シルヴィスも神官に適性があったので、学園を卒業するまでは神殿でも並行して学び、卒業後に本格的に修行に入る予定でいた。
「はい。予定を前倒しして神官の修行をするよう勧められました。そしてオズ公爵家でラズリス様に目の前で弓の弦を鳴らされたのです。そして不調が晴れました」
「弓の……えっ、てことは」
弓は射るのでなく、弦を鳴らすと祓いになる。
それで不調が晴れたというなら、祓われるべき何かの悪影響を受けていたということだ。
カレイド王国のハイエルフの始祖は弓聖と呼ばれる、弓使いだった。
そのため、今でもカレイド王族の得意とする武術は弓である。
この世界で、聖なる魔力持ちには、まず特化型の聖女や聖者。直接、聖なる魔力で癒しや浄化、結界、術者によっては戦闘も行う。
武術家で聖なる魔力持ちなら、剣士なら剣聖、弓使いなら弓聖、徒手空拳の使い手なら拳聖といった具合だ。
扱う獲物を通じて聖なる魔力を行使する。
武術家ではないが、書聖という書いた文字が聖なる護符化する芸術家タイプの術者もいる。
そして弓聖は戦うことより、修祓や祓除、つまり祓いに特化している。
武器としての矢を用いず、弓の弦を鳴らす鳴弦なる儀式を司るのが主だからだ。
「じゃあ君は、弓使いとして冒険者活動をしているってこと?」
「カレイド王国の弓使いが戦えるわけないじゃないですか。魔力特性を活かして暗器使いスキルを覚えて、諜報や斥候メインで活動しています」
「何という才能の無駄遣い……」
カレイド王国の始祖のハイエルフは弓聖だったと伝わっている。
事実は少し違う。彼は聖なる魔力を持っていなかった。
この世界で聖なる魔力持ちは、聖女や聖者らに顕著だが、必ず魔力がネオンカラーに光る。
例えば、ロータスという有名な聖女は鮮やかなネオンピンク。他にはネオングリーンやネオンブルー、ネオンオレンジなどもいる。
カレイド王国の始祖の魔力には色がなかった。無色透明なのだ。
その無色透明な魔力が、弓の弦を通すと邪気祓いになった。
そうして約3千年前、氷の魔物のせいで極寒で人が立ち入れなかった円環大陸の北部を祓いに祓いまくってカレイド王国を建国したのが、カレイド王国の始祖のハイエルフだった。
カーナは椅子に座ったシルヴィスを見る。
銀に近い灰色の髪と瞳で、肌は白く、顔立ちはなかなか綺麗めに整った美男子だ。
全体的に色素が薄く、マーゴットのような始祖の鮮やかなネオングリーンの瞳も、燃える炎の赤毛も持っていない。
顔立ちも始祖や中興の祖の女勇者の面影はない。
ということは、マーゴットやその父親、それに現国王とも似ていないということだ。
それでも彼が血筋順位七位と高位な理由は。
「君は始祖と同じ無色透明な魔力の持ち主だ。本来なら祓いが専門の神官。カレイド王国の異変には気づいているね?」
始祖の瞳も、中興の祖の女勇者の赤毛も受け継がなかった彼だが、カレイド王国の正当な魔力継承者の一人のはずだった。
それが、なぜ祖国カレイド王国を出奔して、他国で冒険者などやっているのか。
カーナが知りたかったのはそこだ。