《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます

始祖とカーナの約束

「さすがにショックでした。聖女ロータス様は旅をしながらすべての国に立ち寄ることで有名なのに。その対象からカレイド王国が外されてしまった……」

 本人は『自分の力を高める』利己的な目的のために円環大陸を右回りに巡っているのだが、聖女としての天命にも忠実だった。
 王政国家やそうでない民主主義の国など区別なく、ほとんどすべての国に寄って、人々に浄化や癒しをもたらしている。

 例外は、古い時代に邪悪と化してしまったカーナの息子が眠るカーナ王国と、人倫道徳の乱れたタイアド王国なるアケロニア王国と同じ北西部にある国の二つだけ。
 シルヴィスの言う通りなら、忌むべき三つめにカレイド王国が入ってしまったようだ。

「ロータスか。知らない仲じゃないけど、それだとオレが頼んでも同じ返答になりそうだ。何か助言は貰わなかったの?」

 今日の夕方、騎士団の練兵場で出会ったルシウス少年のように、聖なる魔力持ちの聖女なら絶対直観系のスキルを必ず持っている。

 基本的にこの世界では、聖なる魔力持ちの術者たちは『世界の意思の擬人化存在』と言われていて、彼らからの助言は天の意思の一端を窺い知るものだ。
 助言を受け入れて実行すると良いことが起こりやすく、拒絶すると悪い結果になりやすい。

「『諦めずに時を待ちなさい』と言われました。他の助言はいただけなかったので、それからは旅を続けながら冒険者として日銭を稼ぎつつ退魔の方法を探し続けています」
「そうか……そういう事情だったか……」

 シルヴィスの話を一通り聞いても、わからないことはまだ多い。

 王妃の魔に気づいていながら、なぜ国王が彼女と結婚したのか。

 王弟のマーゴットの父公爵も周りも、なぜそれを認めた?

 そもそも、マーゴットが人生をループする元凶のバルカス王子を、なぜ王妃との間に作った?



「あとは、マーゴットとカレイド王国に戻ってから調べるしかないか。……ん? どうした?」

 気づくと、シルヴィスがその銀に近い灰色の瞳で、じーっとカーナを見つめている。
 無表情だ。ちょっと怖い。

「カーナ様は……カレイド王国を助けてくださるのですよね?」
「もちろん。伊達に守護者を名乗ってないよ?」
「……良かった」

 目に見えてシルヴィスが表情を緩めている。

 彼はこれまで、カーナがなぜカレイド王国の異変やマーゴットの異常を放置していたか訝しく思っていたのだが、先ほど簡単に事情を説明されてようやく納得できたのだ。

 8年前、自分がマーゴットの父に国を出るよう言われたのと同時期に、カーナは国王から生身での降臨を断られていた。

「オレは、……神人カーナは君たちカレイド王国の始祖のハイエルフと契約を交わしている。知ってるだろう? カーナ王国の地下に眠る息子の遺骸を浄化するまではカレイド王国と始祖の子孫たちを助けるんだ」

 約3千年前、カレイド王国を建国してひと段落ついたとき、弓聖だった始祖のハイエルフにカーナは今のカーナ王国がある土地の浄化や祓いを頼んだ。
 正確には自分の息子の亡骸の浄化を。

 すると始祖は、自分はカレイド王国となった地域の浄化で魔力を使い果たしてしまって、余力が残っていないことを告げた。
 仕方ないから、約束は子孫が果たす、それまで守護者を務めて子孫たちを助けて欲しいと言われていた。

「彼の一族は同じような弓聖を輩出しやすい一族だったしね」
「でも。3千年経ってもまだ僕たちはあなたの願いを叶えられていないのに」

 この辺の悩みは、歴代の始祖の子孫たちから常に聞かされてきたカーナだ。

「オレと始祖との契約はそんなに打算的なものじゃないよ。オレにとって君たちは親友の子供たちだし、君たちにはオレの子の血だって入っているんだ」
「えっ!?」

 それは初耳だった。カーナの息子が竜人族の王だった彼の兄に討たれてカーナ王国の地下に埋まっていることは知られていたものの。

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