《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます

研石マニアの魔法伯爵

 その後、真っ黒に変色した国王の魚切り包丁にシルヴィスが弓祓いを試みてみたが、元の輝きを取り戻すことはなかった。

 明かり取りの窓から朝陽が差し込み始めている。夜明けだ。

「タイムオーバーか。済まないマーゴット。僕は任務に行かなければ」

 目眩を起こしてカーナに支えられてやっと立っているマーゴットの背中に軽く手を当てて、自分の無色透明の魔力を分け与えた。
 顔色は良くなったが、ショックでまだマーゴットはふらふらしている。

「カーナ様、僕は任務で数日戻れません。その間、マーゴットを頼みましたよ」
「任された」

 そして祭殿の間を出て行こうとしたところでテオドロス国王に呼び止められた。

「待ちなさい。あんなに大量の魔力を渡して、まともな任務がこなせるのかね?」
「後で魔力ポーションを飲みますので」

 そつのない返答に、やれやれと軽く頭を振ってテオドロス国王は傍らの白い騎士服の護衛を見た。
 護衛は懐から小瓶を取り出し、シルヴィスに放って寄越した。
 受け取ったシルヴィスは国王に頭を下げて、そのまま祭殿の間を出て行った。



 その後、王宮に戻って王女や国王と朝食となったのだが、マーゴットはさすがに食欲がない。
 甘いりんごのフレッシュジュースだけ貰って先に客間に戻ってようとしたところでグレイシア王女が声をかけてきた。

「マーゴット。先ほどの聖剣だが、変色はただの黒錆かもしれない。良い研ぎ師を探すから、少し待っててくれ」
「え、ええ……」
「ん? 研ぎといえば……」

 ターンオーバー、しっかり両面焼きの卵を口に運びかけていたテオドロス国王がナイフとフォークを操る手を止めた。
 そして食堂に控えていた白い騎士服の護衛を見た。

「研ぎ。お前、確か得意ではなかったか?」
「恐れながら、研ぎだけなら本職の研ぎ師にも負けぬと自負しております」

 マーゴットは俯いていた顔を上げた。
 テオドロス国王が話しているのは、護衛の騎士だ。背が高く体格の良い初老の男性で、青銀の豊かな髪と、同じ色の口髭を蓄えている。

 あ、と気づいた。
 彼は昨日、練兵場でルシウス少年を迎えに来た人物だ。確か魔道騎士団の団長とかで、まだ紹介を受けたことはない。



 朝食後、サロンに移動してようやく国王の護衛だった人物を紹介された。

「ご紹介にあずかりました魔道騎士団が団長。リースト伯爵メガエリスと申します。昨日は息子ルシウスが大変世話になったようで」

 やはりルシウス少年の父親だ。
 大男というほどではないが背が高く体格の良い男で、何より顔立ちがルシウス少年をそのまま大人にしたような麗しの男前。
 多分、髭がないほうが美形だが、良い年の取り方をした人物だなとマーゴットは感じた。

「メガエリスは私の父の先王の腹心でな。魔法の大家の当主ゆえ呼び寄せておいたのだ」
「それで、研ぎができるというのは?」

 マーゴットの質問には本人が答えた。

「私は魔法剣士ですが、生身の剣を持って居合い術も使うのです。そのための剣と、砥石を集めるのが趣味なのですよ」

 伯爵というなら諸侯の中位だが、リースト伯爵家は領地運営も良好で、国内でも豊かな貴族家の一つだそうだ。

 ちなみに魔法剣士は、魔力で剣を生み出し、その剣で戦う魔法使いと剣士の複合職業である。

「神殿で、変色した聖剣は私も拝見しました。公女様がよろしければ、私の屋敷で研ぎを試させてはもらえませぬか」
「ぜひ、お願いします!」

 食い気味にマーゴットは頷いた。

「聖剣が黒化してるだなんて、縁起が悪いからね」

 カーナも賛成した。

 それでメガエリスが自宅に砥石の準備を連絡している間にマーゴットたちは準備をして、一時間後にリースト伯爵家へと向かうことになった。

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