《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
魔祓いクエストクリア……?
「ま、待ってメガエリスさん! す、ストップ、これを見てください!」
「へ?」
とんでもないやらかしをした息子を抱えてお仕置きしようとしたメガエリス伯爵が、ルシウス少年を抱えたまま作業台に戻ってきた。
「こ、これは!」
結論をいえば、魚切り包丁は無事だった。
とはいえ、木製の柄部分は跡形もなく消し飛んでしまっていたのだが。
「ルシウス君……恐ろしい子……」
木材とはいえ、魔力だけで蒸発させるほど高火力を出せるとは、並の術者ではない。
真っ黒になっていた魚切り包丁の長い刀身が、ルシウスの光るネオンブルーの魔力を帯びている。
ネオンカラー、即ち発光色の青色だ。
皆が見ている前で、じわじわとルシウスの魔力が浸透していった最後の最後で、一気に雲が晴れるように刀身は本来の美しい輝きを取り戻した。
「「「おおお……!」」」
恐る恐る、マーゴットは魚切り包丁に手を伸ばした。
柄がなくなってしまったから、本来なら柄に差し込まれていた中子の部分をそーっと持つ。
「間違いないわ。表も裏も黒化が消えてます」
「おねえちゃん! マーゴットさま! 刃! 刃をじぶんにむけるの!」
「刃を?」
ルシウス少年が言うままに、中子を持って刃を自分に向けた。
「!」
すると瞬時に、化学反応が起きたかのようにマーゴットの意識がクリアになった。
それと同時に、マーゴットにまとわりついていた黒い影のようなものも取れた。
黒い影は人の形をして、宙にでろんでろんと浮いている。輪郭が少しずつ崩れていっていた。
「マーゴットさま、はやく!」
ルシウス少年の声に、うっかり影を見ているだけだったマーゴットは我に返った。
魚切り包丁の中子を持ったまま恐る恐る近づいて、影に突き刺す。
だが影は消えない。
いろいろ試してみて、魚切り包丁の本来の切り方である『引いて切る』で少しずつ削いでいってようやく細切りにしながら処理することができた。
そして影を切り終わっても、銀色に鋭く光る刀身はそのままだった。
もう黒化も曇りもない。
「ルシウス君にお仕置きは必要ありません。先祖伝来の宝物を元通りにしてくれた、大切な恩人ですわ」
マーゴットがそう宣言したことで、ようやくルシウス少年はパパの太い腕から解放された。
お尻ぺんぺんされかかって下ろされかけた半ズボンを引き上げながらも誇らしげに胸を張っている。
「でしょ!」
「ええ。後で私からもお礼を贈らせてほしいわ」
「ありがたく頂戴します! ショコラがいいです!」
ちゃっかり要望まで出したルシウス少年に、もうマーゴットは何でも聞きます状態だ。
その後は、ルシウスが消し飛ばした柄の代わりに、メガエリス伯爵が倉庫にあった一般包丁用の木製柄に包丁を差し込んで留めてくれた。
「公女様、愚息が迷惑をかけたお詫びに聖剣に相応しい柄を後日お贈りしましょう。ちょうどホーリーバイソンの角を保有しておりますので、加工が出来上がり次第、ご連絡差し上げます」
「まあ。ありがたく頂戴しますわ」
ほのぼのとマーゴットとメガエリス伯爵が大人の話をしている後ろで、グレイシア王女とカーナは麗しの兄弟相手に雑談していた。
「ルシウス。お前、全然魔法剣が出せないってピーピー泣いてたじゃないか。なんだ聖剣って」
「このあいだ! このあいだ、兄さんと父様と遊んでたときになんかでたの!」
リースト伯爵家の者は生まれた直後から魔法剣を出す者もいると聞いていたが、ハイヒューマンでより能力に優れているはずのこの子供は8歳になる今年になってもまったく魔法剣が出せなかった。
それで父親や兄が自在に金剛石の魔法剣を創り操る様子を、いつも羨ましそうに見ていたものだが。
兄の美少年カイルを見ると苦笑している。
家族も、まさか次男ルシウスが出せる魔法剣が聖剣だとは思いもしなかったようだ。
「ところで、何か忘れてるような気がするのだが……」
「グレイシア先輩もですか。実はオレも」
「何だろうね。こう、喉に魚の小骨が刺さって抜けないような……」
グレイシア王女、カイル、カーナの3人が首を傾げている。思い出せそうで思い出せない。
そんな3人を前に、ルシウス少年が可愛らしく小首を傾げている。
「ねえねえ。なんか変なおとがするー」
「変な音?」
ちょいちょいっと、ルシウス少年がお兄ちゃんカイルのシャツの端っこを引っ張った。
オシリペンペンカイヒー
「へ?」
とんでもないやらかしをした息子を抱えてお仕置きしようとしたメガエリス伯爵が、ルシウス少年を抱えたまま作業台に戻ってきた。
「こ、これは!」
結論をいえば、魚切り包丁は無事だった。
とはいえ、木製の柄部分は跡形もなく消し飛んでしまっていたのだが。
「ルシウス君……恐ろしい子……」
木材とはいえ、魔力だけで蒸発させるほど高火力を出せるとは、並の術者ではない。
真っ黒になっていた魚切り包丁の長い刀身が、ルシウスの光るネオンブルーの魔力を帯びている。
ネオンカラー、即ち発光色の青色だ。
皆が見ている前で、じわじわとルシウスの魔力が浸透していった最後の最後で、一気に雲が晴れるように刀身は本来の美しい輝きを取り戻した。
「「「おおお……!」」」
恐る恐る、マーゴットは魚切り包丁に手を伸ばした。
柄がなくなってしまったから、本来なら柄に差し込まれていた中子の部分をそーっと持つ。
「間違いないわ。表も裏も黒化が消えてます」
「おねえちゃん! マーゴットさま! 刃! 刃をじぶんにむけるの!」
「刃を?」
ルシウス少年が言うままに、中子を持って刃を自分に向けた。
「!」
すると瞬時に、化学反応が起きたかのようにマーゴットの意識がクリアになった。
それと同時に、マーゴットにまとわりついていた黒い影のようなものも取れた。
黒い影は人の形をして、宙にでろんでろんと浮いている。輪郭が少しずつ崩れていっていた。
「マーゴットさま、はやく!」
ルシウス少年の声に、うっかり影を見ているだけだったマーゴットは我に返った。
魚切り包丁の中子を持ったまま恐る恐る近づいて、影に突き刺す。
だが影は消えない。
いろいろ試してみて、魚切り包丁の本来の切り方である『引いて切る』で少しずつ削いでいってようやく細切りにしながら処理することができた。
そして影を切り終わっても、銀色に鋭く光る刀身はそのままだった。
もう黒化も曇りもない。
「ルシウス君にお仕置きは必要ありません。先祖伝来の宝物を元通りにしてくれた、大切な恩人ですわ」
マーゴットがそう宣言したことで、ようやくルシウス少年はパパの太い腕から解放された。
お尻ぺんぺんされかかって下ろされかけた半ズボンを引き上げながらも誇らしげに胸を張っている。
「でしょ!」
「ええ。後で私からもお礼を贈らせてほしいわ」
「ありがたく頂戴します! ショコラがいいです!」
ちゃっかり要望まで出したルシウス少年に、もうマーゴットは何でも聞きます状態だ。
その後は、ルシウスが消し飛ばした柄の代わりに、メガエリス伯爵が倉庫にあった一般包丁用の木製柄に包丁を差し込んで留めてくれた。
「公女様、愚息が迷惑をかけたお詫びに聖剣に相応しい柄を後日お贈りしましょう。ちょうどホーリーバイソンの角を保有しておりますので、加工が出来上がり次第、ご連絡差し上げます」
「まあ。ありがたく頂戴しますわ」
ほのぼのとマーゴットとメガエリス伯爵が大人の話をしている後ろで、グレイシア王女とカーナは麗しの兄弟相手に雑談していた。
「ルシウス。お前、全然魔法剣が出せないってピーピー泣いてたじゃないか。なんだ聖剣って」
「このあいだ! このあいだ、兄さんと父様と遊んでたときになんかでたの!」
リースト伯爵家の者は生まれた直後から魔法剣を出す者もいると聞いていたが、ハイヒューマンでより能力に優れているはずのこの子供は8歳になる今年になってもまったく魔法剣が出せなかった。
それで父親や兄が自在に金剛石の魔法剣を創り操る様子を、いつも羨ましそうに見ていたものだが。
兄の美少年カイルを見ると苦笑している。
家族も、まさか次男ルシウスが出せる魔法剣が聖剣だとは思いもしなかったようだ。
「ところで、何か忘れてるような気がするのだが……」
「グレイシア先輩もですか。実はオレも」
「何だろうね。こう、喉に魚の小骨が刺さって抜けないような……」
グレイシア王女、カイル、カーナの3人が首を傾げている。思い出せそうで思い出せない。
そんな3人を前に、ルシウス少年が可愛らしく小首を傾げている。
「ねえねえ。なんか変なおとがするー」
「変な音?」
ちょいちょいっと、ルシウス少年がお兄ちゃんカイルのシャツの端っこを引っ張った。
オシリペンペンカイヒー