《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
カーナが隠し通したかったこと
マーゴットが伝えたカーナの最後の言葉に、納得した顔をしたのは魔術師フリーダヤだ。
「なるほど。神人カーナの神話伝承にはいくつか謎があった。本人が健在にも関わらず、何度周りが聞いても教えてくれなかったんだ」
「どういうことです?」
ハイヒューマンの神人カーナは竜人族の王子だったが、母親が一角獣人族だったため雑種と蔑まれて、厄介払いのように魚人族の王子の嫁に出されている。
女性にも男性にもなれる性質のうち、女性の部分を利用される形で。
「当時のハイヒューマンは今の人間みたいな生殖方法は取らないと聞いている。父母それぞれの魔力を掛け合わせて直接“創る”んだ。そして創られた息子が残念ながら、邪道に落ちてしまったわけだけど」
「………………」
「カーナの息子は父親に叛逆して殺害した後で、父の国だった魚人族の国を奪って滅ぼした。その後、カーナの祖国の竜人族の国に魔手を伸ばしたけどカーナの兄王に返り討ちに遭って、今のカーナ王国がある場所に亡骸が埋められた」
ここまでは、円環大陸の神話として比較的知られている。
「カーナの兄王夫婦には子供ができなくて、跡継ぎはカーナの子供になったんだ。まだ赤ん坊だったからカーナが実の親だと知らせないで兄王夫婦の実子扱いの養子にしたと。……でも、その頃にはカーナの夫の魚人族の王族も、カーナの息子もとっくに死んで存在しない時期だろう? じゃあ、その子供は誰との間に創った子供だったんだ? って謎」
「……それは、でも……。カーナがマーゴットに遺した言葉からすると。……ということは、兄王夫婦の養子になった赤ん坊は、最初の息子との間に創った子ということに」
最初の息子が、『息子であり夫』でもあったというならば。
「そういう経歴は高度な人物鑑定スキルがあれば看破できるけど、カーナは隠蔽して他者に自分のステータスを見せなかったからね。……どれ、死んで本人の意識が失われた今なら鑑定できるだろう。遺体は神殿? 行こうか」
何やらとんでもないことを言い出した。
こうなると、マーゴットたちカレイド王国側も言いなりだ。
王宮の国王の執務室から、神殿へと一同は向かった。
カーナの亡骸は、魔法樹脂という透明な魔力の樹脂の中に死亡直後の姿のまま封入され、棺に収められて祭壇前に安置されていた。
「カーナ。私がお揃いのドレスを着てなんて頼んだばかりに、こんな」
せめて男性形のままだったら、バルカスに迫られ襲われることもなかっただろうか。
棺の中のカーナは、女性形でドレスをまとった姿のままだ。
白い肌は青ざめて黒い髪が頬にかかり、琥珀色の瞳は瞼が閉じている。
顔だけみれば優美ないつものカーナの寝顔なのだが、ドレスの胸部から腹部にかけて鮮血に染め上げられている。バルカス王子が魚切り包丁で刺し、斬りつけた跡だった。
そのドレスの胸元は、包丁で斬られたものとは明らかに違う裂け方をしていた。バルカス王子が文字通り襲おうと手にかけた形跡だ。何とも忌々しい限りだった。
「人物鑑定スキル、発動。ランクは上級。……神人カーナのステータス・オープン」
人物鑑定スキルで確認できるステータス項目のテンプレートは、名前、所属(出自)、称号、そして各能力値の体力、魔力、知力、人間性、人間関係、幸運が基本となる。
魔術師フリーダヤが皆に見えるようカーナのステータスを空中に表示させた。
名前 カーナ(ハイヒューマン・神人)
所属 竜人族、魚人族、カーナ王国
称号 天空の支配者、円環大陸人類の祖、魔力使いの祖、カレイド王国守護者
「能力値は見えないか。まあハイヒューマンだし数値カンストしてバグるのは仕方がない」
「バッドステータスが……」
ステータス画面に、通常なら存在しないはずのバッドステータス欄が発生している。そこに書かれてあったものは。
「『邪悪なる者の妻(元)』って……」
「詳細があるね。……ああ、そういうことか……」
備考欄にバッドステータスの詳細が記載されている。
『実の息子と結ばれ、子を産んだ近親相姦ペナルティ。本来持っていた聖なる魔力が封じられる』
「ふうん。今の円環大陸の国際法でも親子間や兄弟姉妹間の近親婚は禁じられてるけど、カーナの時代もそうだったのか」
「でも、“元”ってことは今は違うってことですよね?」
シルヴィスの確認に、魔術師フリーダヤは頷いて指先でその“元”の表示の場所に触れた。
「『カレイド王国の女勇者伝来の魚切り包丁(聖剣)によってバッドステータス解除。ただし邪悪なる者の関与のため解除は一部に限定される』」
「つまり聖剣の魚切り包丁で斬られたことで、持っていたバッドステータスが解除された。でも邪悪なバルカスの手によるものだから、中途半端だったということか……」
そのバルカス王子の実の父であるダイアン国王が頭を抱えてしまっている。
「こんなことが判明したから、何だというんだ。もうバルカスは終わりだ。カーナ様が何と言おうと国民と永遠の国が許すまい。カレイド王国は私の代で終わりなのだ……!」
「なるほど。神人カーナの神話伝承にはいくつか謎があった。本人が健在にも関わらず、何度周りが聞いても教えてくれなかったんだ」
「どういうことです?」
ハイヒューマンの神人カーナは竜人族の王子だったが、母親が一角獣人族だったため雑種と蔑まれて、厄介払いのように魚人族の王子の嫁に出されている。
女性にも男性にもなれる性質のうち、女性の部分を利用される形で。
「当時のハイヒューマンは今の人間みたいな生殖方法は取らないと聞いている。父母それぞれの魔力を掛け合わせて直接“創る”んだ。そして創られた息子が残念ながら、邪道に落ちてしまったわけだけど」
「………………」
「カーナの息子は父親に叛逆して殺害した後で、父の国だった魚人族の国を奪って滅ぼした。その後、カーナの祖国の竜人族の国に魔手を伸ばしたけどカーナの兄王に返り討ちに遭って、今のカーナ王国がある場所に亡骸が埋められた」
ここまでは、円環大陸の神話として比較的知られている。
「カーナの兄王夫婦には子供ができなくて、跡継ぎはカーナの子供になったんだ。まだ赤ん坊だったからカーナが実の親だと知らせないで兄王夫婦の実子扱いの養子にしたと。……でも、その頃にはカーナの夫の魚人族の王族も、カーナの息子もとっくに死んで存在しない時期だろう? じゃあ、その子供は誰との間に創った子供だったんだ? って謎」
「……それは、でも……。カーナがマーゴットに遺した言葉からすると。……ということは、兄王夫婦の養子になった赤ん坊は、最初の息子との間に創った子ということに」
最初の息子が、『息子であり夫』でもあったというならば。
「そういう経歴は高度な人物鑑定スキルがあれば看破できるけど、カーナは隠蔽して他者に自分のステータスを見せなかったからね。……どれ、死んで本人の意識が失われた今なら鑑定できるだろう。遺体は神殿? 行こうか」
何やらとんでもないことを言い出した。
こうなると、マーゴットたちカレイド王国側も言いなりだ。
王宮の国王の執務室から、神殿へと一同は向かった。
カーナの亡骸は、魔法樹脂という透明な魔力の樹脂の中に死亡直後の姿のまま封入され、棺に収められて祭壇前に安置されていた。
「カーナ。私がお揃いのドレスを着てなんて頼んだばかりに、こんな」
せめて男性形のままだったら、バルカスに迫られ襲われることもなかっただろうか。
棺の中のカーナは、女性形でドレスをまとった姿のままだ。
白い肌は青ざめて黒い髪が頬にかかり、琥珀色の瞳は瞼が閉じている。
顔だけみれば優美ないつものカーナの寝顔なのだが、ドレスの胸部から腹部にかけて鮮血に染め上げられている。バルカス王子が魚切り包丁で刺し、斬りつけた跡だった。
そのドレスの胸元は、包丁で斬られたものとは明らかに違う裂け方をしていた。バルカス王子が文字通り襲おうと手にかけた形跡だ。何とも忌々しい限りだった。
「人物鑑定スキル、発動。ランクは上級。……神人カーナのステータス・オープン」
人物鑑定スキルで確認できるステータス項目のテンプレートは、名前、所属(出自)、称号、そして各能力値の体力、魔力、知力、人間性、人間関係、幸運が基本となる。
魔術師フリーダヤが皆に見えるようカーナのステータスを空中に表示させた。
名前 カーナ(ハイヒューマン・神人)
所属 竜人族、魚人族、カーナ王国
称号 天空の支配者、円環大陸人類の祖、魔力使いの祖、カレイド王国守護者
「能力値は見えないか。まあハイヒューマンだし数値カンストしてバグるのは仕方がない」
「バッドステータスが……」
ステータス画面に、通常なら存在しないはずのバッドステータス欄が発生している。そこに書かれてあったものは。
「『邪悪なる者の妻(元)』って……」
「詳細があるね。……ああ、そういうことか……」
備考欄にバッドステータスの詳細が記載されている。
『実の息子と結ばれ、子を産んだ近親相姦ペナルティ。本来持っていた聖なる魔力が封じられる』
「ふうん。今の円環大陸の国際法でも親子間や兄弟姉妹間の近親婚は禁じられてるけど、カーナの時代もそうだったのか」
「でも、“元”ってことは今は違うってことですよね?」
シルヴィスの確認に、魔術師フリーダヤは頷いて指先でその“元”の表示の場所に触れた。
「『カレイド王国の女勇者伝来の魚切り包丁(聖剣)によってバッドステータス解除。ただし邪悪なる者の関与のため解除は一部に限定される』」
「つまり聖剣の魚切り包丁で斬られたことで、持っていたバッドステータスが解除された。でも邪悪なバルカスの手によるものだから、中途半端だったということか……」
そのバルカス王子の実の父であるダイアン国王が頭を抱えてしまっている。
「こんなことが判明したから、何だというんだ。もうバルカスは終わりだ。カーナ様が何と言おうと国民と永遠の国が許すまい。カレイド王国は私の代で終わりなのだ……!」