《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
夢見のための代償
それからも、即位への準備の忙しい間を縫って神殿で夢見の術を続けていた。
だが、成果が芳しくない。むしろ元王妃を収監してから明らかに結果が出なくなった。
「元王妃とやら、魔憑きだったんですって? よくそんなもの身内に飼ってたわね。呆れるにも程があるわ」
青銀の髪の麗しの美少女、神人ジューアは肩を竦めていた。
燃える炎の赤毛とエメラルドの瞳の魔女メルセデスは、話を聞いて表情を引き締めていた。
「邪や魔の影響があると物事に歪みをもたらすと言います。真剣に祓い清めを行う必要があるでしょうね」
「……それなんだけど」
マーゴットは、一緒に夢見の術に参加するため神殿に来ていたダイアン国王を睨んだ。
「メイの魔を祓おうとすると、メイ本人が苦しんでしまう。現状ではメイから魔を祓えない」
「あら、陛下。でもカレイド王国は弓聖の始祖ハイエルフが作った国でしょ? 弓祓いの術士たちはどうしたんです?」
「……彼らはいるだけでメイに影響を与えるので、………………王宮から解雇した」
「は?」
さすがの魔女メルセデスも目を丸くして呆気に取られた。
「一国の王なら、魔がどれほど厄介か知ってたでしょうに」
まさに処置なしだ。それでも譲位までは何とか夢見の術に協力したいと国王は言う。
「各地に散った弓祓いたちを探さないと」
最終的に、マーゴットはカーナの回復、シルヴィスは魔の対策のために夢見の術の目的を設定した。
「陛下、あなたはマーゴットとシルヴィス、両方のサポートをするように」
「……わかっている」
ところが口では協力すると言いながら、ダイアン国王は巧妙に自分の目的を別に設定していたのだ。
即ち元王妃メイの保護を実現する結果を。
マーゴットたちがそのことに気づいたときにはもう手遅れだった。
元王妃の魔は膨れ上がって、もう本人と分離できないところまで癒着が進んでしまった。
この時点で、もはやダイアン国王を夢見に参加させることはできなかったが、異を唱えたのが青銀の髪の神人ジューアだ。
「あら、もったいないじゃない。余計なことができないように私が呪でその男を縛ってあげる。そのまま術の魔力源として使えばいいわ」
魔力が尽きるまで。
これにマーゴットは躊躇いを見せたが、シルヴィスは賛成したし、当の国王本人は贖罪として受け入れた。
以降、夢見の世界の中でダイアン国王はただメイ王妃の側にいてマーゴットたちを見ているだけの傍観者の役割となる。
◇◇◇
ここまでの出来事を整理すると。
マーゴットとバルカス王子の学園卒業式の後。
王宮でのマーゴットとシルヴィスとの婚約の儀の前、儀式の間でバルカス王子に守護者カーナが聖剣の魚切り包丁で害され、即死は免れるが意識不明の重体のまま。
バルカス王子が凶行に及んだのは、ドレス姿の女性形のカーナに関係を迫り、拒否されて激昂したため。
状況や事情を知る者たちの意見、カーナ自身の遺言を照合すると、バルカス自身が持っていた祖先の女勇者から受け継がれた魚人の魔物の因子が魔憑きの王妃の影響で活性化されたためと見て良いと思う。
カーナはかつての息子を彷彿とさせるバルカス王子に抵抗できなかった
カーナはマーゴットに、バルカスの助命嘆願をしている。
カーナはカレイド王国の守護者というだけでなく、円環大陸を支える黄金龍、天空の支配者、真の支配者のひとりだ。失えない。
神人に進化したハイヒューマンの彼が死ぬとしたら、それは本人が心の底から望んだときだけだ。せめてそのときまでは。
夢見の術を用いて、バルカス王子がカーナを害すことがないよう魔法を使うが、なかなか上手くいかない。
バルカスは何度やってもカーナを殺そうとしてしまう。
殺さないよう仕向けると今度は矛先がマーゴットに向かってしまった。
次第に夢見の術を使うための魔力も枯渇してきて、夢の中で『夢を見ている』『夢見の術を使っている』ことの認識を保てなくなってくる。
「マーゴット公女。これ以上はあなたの治世で必要な魔石や宝物まで失いかねません」
何十回かめの夢見を終えて戻ってきたとき、宰相が申し訳なさそうに報告してきた。
夢見の術自体は魔女メルセデスが発動してくれていたが、起爆剤と燃料としての魔力はカレイド王国の秘蔵する魔石や宝物などから調達していた。
「本当ならあなたたちが私の弟子になって、環を使えたらいいんだけどねえ~。さすがに時間がないわ」
円環大陸一有名な魔術師フリーダヤの一番弟子、後継者の魔女メルセデスの腰回りには平たい光の円環が浮いている。
新世代の魔力使いたちが使用している魔力操作と術式発動のためのコントロールパネルだ。
環が使えると自力の魔力以外に、協力者や世界そのもの、外部からの安全な魔力調達が可能になる。
今は夢見の術の発動にメルセデスが自分の環を使ってくれているが、夢の中で動くマーゴットたちは自分たちの肉体が持つ魔力を使っているので限りがあった。
「そろそろ、やめてもいいと思うわよ? これ以上魔力を使うなら自分のステータスを代償にすることになる」
「ここまで来てやめるなんて、そんなの」
始祖のハイエルフと同じネオングリーンの瞳を受け継いだマーゴットの魔力値は高い。
それに次期女王として高度な教育を受けてきただけあって、そこそこ知性値も高かった。あと必要なのは実践の経験値だけだった。
ステータスの能力値は主に、体力、魔力、知力、人間性、人間関係、幸運の7つ。
すべて最大値は10で、平均は5。
だが、マーゴットはここで諦めておくべきだった。
「あと数回も夢見に成功すればカーナが回復しそうだもの。その分のステータスを代償に捧げるわ」
その誤った決断は、マーゴットの過ちだったか、それとも止めなかった周囲が悪いのか。
あるいは魔の影響が既に忍び寄っていたかもしれない。
だが、成果が芳しくない。むしろ元王妃を収監してから明らかに結果が出なくなった。
「元王妃とやら、魔憑きだったんですって? よくそんなもの身内に飼ってたわね。呆れるにも程があるわ」
青銀の髪の麗しの美少女、神人ジューアは肩を竦めていた。
燃える炎の赤毛とエメラルドの瞳の魔女メルセデスは、話を聞いて表情を引き締めていた。
「邪や魔の影響があると物事に歪みをもたらすと言います。真剣に祓い清めを行う必要があるでしょうね」
「……それなんだけど」
マーゴットは、一緒に夢見の術に参加するため神殿に来ていたダイアン国王を睨んだ。
「メイの魔を祓おうとすると、メイ本人が苦しんでしまう。現状ではメイから魔を祓えない」
「あら、陛下。でもカレイド王国は弓聖の始祖ハイエルフが作った国でしょ? 弓祓いの術士たちはどうしたんです?」
「……彼らはいるだけでメイに影響を与えるので、………………王宮から解雇した」
「は?」
さすがの魔女メルセデスも目を丸くして呆気に取られた。
「一国の王なら、魔がどれほど厄介か知ってたでしょうに」
まさに処置なしだ。それでも譲位までは何とか夢見の術に協力したいと国王は言う。
「各地に散った弓祓いたちを探さないと」
最終的に、マーゴットはカーナの回復、シルヴィスは魔の対策のために夢見の術の目的を設定した。
「陛下、あなたはマーゴットとシルヴィス、両方のサポートをするように」
「……わかっている」
ところが口では協力すると言いながら、ダイアン国王は巧妙に自分の目的を別に設定していたのだ。
即ち元王妃メイの保護を実現する結果を。
マーゴットたちがそのことに気づいたときにはもう手遅れだった。
元王妃の魔は膨れ上がって、もう本人と分離できないところまで癒着が進んでしまった。
この時点で、もはやダイアン国王を夢見に参加させることはできなかったが、異を唱えたのが青銀の髪の神人ジューアだ。
「あら、もったいないじゃない。余計なことができないように私が呪でその男を縛ってあげる。そのまま術の魔力源として使えばいいわ」
魔力が尽きるまで。
これにマーゴットは躊躇いを見せたが、シルヴィスは賛成したし、当の国王本人は贖罪として受け入れた。
以降、夢見の世界の中でダイアン国王はただメイ王妃の側にいてマーゴットたちを見ているだけの傍観者の役割となる。
◇◇◇
ここまでの出来事を整理すると。
マーゴットとバルカス王子の学園卒業式の後。
王宮でのマーゴットとシルヴィスとの婚約の儀の前、儀式の間でバルカス王子に守護者カーナが聖剣の魚切り包丁で害され、即死は免れるが意識不明の重体のまま。
バルカス王子が凶行に及んだのは、ドレス姿の女性形のカーナに関係を迫り、拒否されて激昂したため。
状況や事情を知る者たちの意見、カーナ自身の遺言を照合すると、バルカス自身が持っていた祖先の女勇者から受け継がれた魚人の魔物の因子が魔憑きの王妃の影響で活性化されたためと見て良いと思う。
カーナはかつての息子を彷彿とさせるバルカス王子に抵抗できなかった
カーナはマーゴットに、バルカスの助命嘆願をしている。
カーナはカレイド王国の守護者というだけでなく、円環大陸を支える黄金龍、天空の支配者、真の支配者のひとりだ。失えない。
神人に進化したハイヒューマンの彼が死ぬとしたら、それは本人が心の底から望んだときだけだ。せめてそのときまでは。
夢見の術を用いて、バルカス王子がカーナを害すことがないよう魔法を使うが、なかなか上手くいかない。
バルカスは何度やってもカーナを殺そうとしてしまう。
殺さないよう仕向けると今度は矛先がマーゴットに向かってしまった。
次第に夢見の術を使うための魔力も枯渇してきて、夢の中で『夢を見ている』『夢見の術を使っている』ことの認識を保てなくなってくる。
「マーゴット公女。これ以上はあなたの治世で必要な魔石や宝物まで失いかねません」
何十回かめの夢見を終えて戻ってきたとき、宰相が申し訳なさそうに報告してきた。
夢見の術自体は魔女メルセデスが発動してくれていたが、起爆剤と燃料としての魔力はカレイド王国の秘蔵する魔石や宝物などから調達していた。
「本当ならあなたたちが私の弟子になって、環を使えたらいいんだけどねえ~。さすがに時間がないわ」
円環大陸一有名な魔術師フリーダヤの一番弟子、後継者の魔女メルセデスの腰回りには平たい光の円環が浮いている。
新世代の魔力使いたちが使用している魔力操作と術式発動のためのコントロールパネルだ。
環が使えると自力の魔力以外に、協力者や世界そのもの、外部からの安全な魔力調達が可能になる。
今は夢見の術の発動にメルセデスが自分の環を使ってくれているが、夢の中で動くマーゴットたちは自分たちの肉体が持つ魔力を使っているので限りがあった。
「そろそろ、やめてもいいと思うわよ? これ以上魔力を使うなら自分のステータスを代償にすることになる」
「ここまで来てやめるなんて、そんなの」
始祖のハイエルフと同じネオングリーンの瞳を受け継いだマーゴットの魔力値は高い。
それに次期女王として高度な教育を受けてきただけあって、そこそこ知性値も高かった。あと必要なのは実践の経験値だけだった。
ステータスの能力値は主に、体力、魔力、知力、人間性、人間関係、幸運の7つ。
すべて最大値は10で、平均は5。
だが、マーゴットはここで諦めておくべきだった。
「あと数回も夢見に成功すればカーナが回復しそうだもの。その分のステータスを代償に捧げるわ」
その誤った決断は、マーゴットの過ちだったか、それとも止めなかった周囲が悪いのか。
あるいは魔の影響が既に忍び寄っていたかもしれない。