《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
国王だけは事態の深刻さを理解していた
そしてやってきた王宮では、謁見室ではなく国王家族のプライベートルームに通された。
(個人的な話で済ませたいということかしら)
謁見室や国王の執務室では、宰相や大臣たち、文官たちの耳目がある。
彼らに知られたくないと考えた国王の思惑はマーゴットにもよくわかった。
「マーゴット。お前の大事な花嫁衣装を台無しにしたこと、誠に済まなく思う」
「………………」
そう言って国王ダイアン、マーゴットにとって父方の伯父は赤毛の頭を下げた。
だがマーゴットは返事をしなかった。
簡単に許すにはあまりにも問題が大きかったからだ。
「父上! なぜマーゴット如きに頭を下げるのですか! それにポルテはどこです? なぜ一緒にここへ連れてきてないのですか!」
「………………」
ああ、もう彼は駄目かもしれないな、とマーゴットは思った。
「そうですよ陛下。ちょっとドレスを貸してもらっただけで怒ることはないじゃありませんか」
王妃のメイまで息子のバルカス王子を擁護し始めた。
「この愚か者どもが! バルカス、お前がマーゴットの花嫁衣装を着せた平民女は牢へ入れた! 王家の血を引く公爵令嬢の花嫁衣装を無断で、本人より前に袖を通したのだ。その場で首を切らなかっただけ感謝しろ!」
「なっ!? 意味がわかりません、父上!」
「それはこちらの台詞だ! ……あああ、このようなこと、賠償では済まぬ……!」
ダイアン国王はソファに座り頭を抱えてしまった。
「まあ。陛下、いくら花嫁衣装とはいえ、着ただけなのでしょう? しかもそのポルテなる娘、バルカスがマーゴットより寵愛しているというではありませんか。謝罪も賠償も不要だと思いますけど」
「メイ、お前も黙っていろ!」
「へ、陛下」
怒鳴りつけられて、メイ王妃は口をつぐんだ。
ただひとり、国王だけが己の息子の愚かな行為に血の気を失っている。
そんな国王一家の様子を見て、マーゴットはもう内心では諸々を諦めていた。
(この様子だと、王妃殿下はバルカスが偽りの王太子であること、忘れてるみたいね)
次期国王となるのはマーゴットだ。
王太女は王位継承権一位のマーゴットなのだ。
女王として国王となるマーゴットの花嫁衣装は、ただの正装ドレスではなく魔導具の一種だ。
使用している宝飾品は特殊な魔石で、婚姻の儀の後は分解して新たな礼装に作り替えていくもの。
魔石には最初に着た人物の魔力が登録されるため、今回このように一度着用されてしまったことで廃棄するしかなくなった。
「花嫁衣装に用いた宝飾品……魔石、希少鉱物に希少金属! 王家秘蔵の物だけではない、他国からの贈与品も含まれていた! ただ賠償し作り直すだけで済むものではないのだぞ、バルカス!」
この三人の中で、国王だけは事態の深刻さを正確に把握していた。
結局、バルカスは卒業式の寸前まで王宮での謹慎処分が下された。
恋人のポルテについては、国王は処刑したかったようだが、息子のバルカス王子に甘いメイ王妃の取り成しで厳重注意だけで無罪放免になったそうだ。
賠償金の支払い義務すら課さなかった。
ということはマーゴットに支払われる贖い金もない。
そしてマーゴットの花嫁衣装は一から作り直しだ。
ポルテの魔力を記憶してしまった魔石などはすべて浄化して、再利用できるものは使い、不可能なものは代替品を取り寄せた。
それでも廃棄になってしまった素材が多く、作り直しには莫大な費用がかかることになった。
本来なら花嫁衣装は花嫁の実家が作り、費用を出すものだが、さすがに今回の件は王家の予算から作り直しされることになった。
台所事情の厳しいマーゴットは安堵したものだ。
「ちょっとくらいの女遊びなら許容するつもりだったけど、やめるわ」
卒業後、女王として即位したマーゴットの王配として、バルカスの自由は制限したほうがいいかもしれない。
マーゴットに、バルカスとの婚姻を取り止めるという選択肢はない。
二人の婚姻は王家の存続に必要不可欠だからだ。
そこだけはマーゴットも認めていた。
今さら、王家以外からの血筋順位の高い者を国王に据えるなど、国が乱れるもとだ。
そう考えていたから、まさか卒業式でバルカス王子が自分に婚約破棄を突きつけてくるとは思わなかったマーゴットだ。
(王妃殿下、国王陛下! この後に及んでバルカスに真実を伝えなかったのね!)
バルカスは王太子ではない。王位継承権のない、ただの王子だ。
マーゴットはもはや王妃への遠慮は一切やめて、バルカス王子を王太子として立て続けることはしないと決めていた。
他の血筋順位上位の者たちと相談して、真実を公表する準備も既に整っている。
(心配するようなことは何もないわ。ご自分が他国の平民であることを気に病んだ王妃様の親心を皆が汲んだだけだもの。公式の書類まで偽造したわけではないし)
それにバルカス王子は、血筋順位一位のマーゴットの王配となるのだ。
そう、何も問題はない。
はずだった。
(個人的な話で済ませたいということかしら)
謁見室や国王の執務室では、宰相や大臣たち、文官たちの耳目がある。
彼らに知られたくないと考えた国王の思惑はマーゴットにもよくわかった。
「マーゴット。お前の大事な花嫁衣装を台無しにしたこと、誠に済まなく思う」
「………………」
そう言って国王ダイアン、マーゴットにとって父方の伯父は赤毛の頭を下げた。
だがマーゴットは返事をしなかった。
簡単に許すにはあまりにも問題が大きかったからだ。
「父上! なぜマーゴット如きに頭を下げるのですか! それにポルテはどこです? なぜ一緒にここへ連れてきてないのですか!」
「………………」
ああ、もう彼は駄目かもしれないな、とマーゴットは思った。
「そうですよ陛下。ちょっとドレスを貸してもらっただけで怒ることはないじゃありませんか」
王妃のメイまで息子のバルカス王子を擁護し始めた。
「この愚か者どもが! バルカス、お前がマーゴットの花嫁衣装を着せた平民女は牢へ入れた! 王家の血を引く公爵令嬢の花嫁衣装を無断で、本人より前に袖を通したのだ。その場で首を切らなかっただけ感謝しろ!」
「なっ!? 意味がわかりません、父上!」
「それはこちらの台詞だ! ……あああ、このようなこと、賠償では済まぬ……!」
ダイアン国王はソファに座り頭を抱えてしまった。
「まあ。陛下、いくら花嫁衣装とはいえ、着ただけなのでしょう? しかもそのポルテなる娘、バルカスがマーゴットより寵愛しているというではありませんか。謝罪も賠償も不要だと思いますけど」
「メイ、お前も黙っていろ!」
「へ、陛下」
怒鳴りつけられて、メイ王妃は口をつぐんだ。
ただひとり、国王だけが己の息子の愚かな行為に血の気を失っている。
そんな国王一家の様子を見て、マーゴットはもう内心では諸々を諦めていた。
(この様子だと、王妃殿下はバルカスが偽りの王太子であること、忘れてるみたいね)
次期国王となるのはマーゴットだ。
王太女は王位継承権一位のマーゴットなのだ。
女王として国王となるマーゴットの花嫁衣装は、ただの正装ドレスではなく魔導具の一種だ。
使用している宝飾品は特殊な魔石で、婚姻の儀の後は分解して新たな礼装に作り替えていくもの。
魔石には最初に着た人物の魔力が登録されるため、今回このように一度着用されてしまったことで廃棄するしかなくなった。
「花嫁衣装に用いた宝飾品……魔石、希少鉱物に希少金属! 王家秘蔵の物だけではない、他国からの贈与品も含まれていた! ただ賠償し作り直すだけで済むものではないのだぞ、バルカス!」
この三人の中で、国王だけは事態の深刻さを正確に把握していた。
結局、バルカスは卒業式の寸前まで王宮での謹慎処分が下された。
恋人のポルテについては、国王は処刑したかったようだが、息子のバルカス王子に甘いメイ王妃の取り成しで厳重注意だけで無罪放免になったそうだ。
賠償金の支払い義務すら課さなかった。
ということはマーゴットに支払われる贖い金もない。
そしてマーゴットの花嫁衣装は一から作り直しだ。
ポルテの魔力を記憶してしまった魔石などはすべて浄化して、再利用できるものは使い、不可能なものは代替品を取り寄せた。
それでも廃棄になってしまった素材が多く、作り直しには莫大な費用がかかることになった。
本来なら花嫁衣装は花嫁の実家が作り、費用を出すものだが、さすがに今回の件は王家の予算から作り直しされることになった。
台所事情の厳しいマーゴットは安堵したものだ。
「ちょっとくらいの女遊びなら許容するつもりだったけど、やめるわ」
卒業後、女王として即位したマーゴットの王配として、バルカスの自由は制限したほうがいいかもしれない。
マーゴットに、バルカスとの婚姻を取り止めるという選択肢はない。
二人の婚姻は王家の存続に必要不可欠だからだ。
そこだけはマーゴットも認めていた。
今さら、王家以外からの血筋順位の高い者を国王に据えるなど、国が乱れるもとだ。
そう考えていたから、まさか卒業式でバルカス王子が自分に婚約破棄を突きつけてくるとは思わなかったマーゴットだ。
(王妃殿下、国王陛下! この後に及んでバルカスに真実を伝えなかったのね!)
バルカスは王太子ではない。王位継承権のない、ただの王子だ。
マーゴットはもはや王妃への遠慮は一切やめて、バルカス王子を王太子として立て続けることはしないと決めていた。
他の血筋順位上位の者たちと相談して、真実を公表する準備も既に整っている。
(心配するようなことは何もないわ。ご自分が他国の平民であることを気に病んだ王妃様の親心を皆が汲んだだけだもの。公式の書類まで偽造したわけではないし)
それにバルカス王子は、血筋順位一位のマーゴットの王配となるのだ。
そう、何も問題はない。
はずだった。