《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
夢見検証スタート
「カーナさまをお返しします! またあしたね!」
「参ったよ……あの子、何をやっても行動原理が魔力増幅するようになってて、歩く台風みたい……うぷっ」
一日、ルシウス少年の首元でアクティブな子供に振り回された黄金龍のカーナは、夕方頃に返却された。
また小型のバスケットの中に収まったが、魔力酔いなのか、あるいは振り回されすぎて疲れたのか吐きそうになるのを必死で堪えていた。
そう、一日ずっとルシウス少年のネオンブルーの魔力を浴びまくった結果、なんとこの短期間でカーナが目を覚ました。
元の人の形に戻るにはもう少し時間がかかるとのこと。
マーゴットの滞在中は世話役としてグレイシア王女がつく。
執務や公務も最低限に留めるよう調整したそうで、リースト伯爵家の兄弟を見送った後、夕食後は彼女の私室で一緒に、ループ現象の整理をした。
「私も混ぜてほしい!」
とそこに乱入してきたのが、テオドロス国王だ。
「父上、執務はよろしいのですか?」
娘のグレイシア王女は呆れていたが追い返しはしなかった。
「ああ。幸い、昨日の地震の規模こそ大きかったが被害は少なかったからな。リースト伯爵家の半壊が一番大きかったぐらいで」
「カーナ殿のご神気の賜物でしょうね」
褒められてバスケットの中のカーナが照れたように黄金の尻尾を振ってみせた。
「父上、女子会に参加とは無粋ではありませんか?」
「そう言うかと思って茶と菓子を持ってきた」
一緒に連れてきた侍女たちが一礼してソファテーブルにティーセットを整えていく。
当のテオドロス国王は遠慮なくマーゴットの斜め向かい、グレイシア王女の横に腰掛けている。
「マーゴット公女の事情はグレイシアから報告を受けているよ。時を遡り何度も繰り返していると」
「それなのですが……」
マーゴットは、今朝がた思い出した夢見の術について国王親子に説明した。
「夢見か。昔読んだハイヒューマンの伝承で読んだことがあるよ。確かエルフ族の治癒術だったはず」
「エルフ族……それも治癒術、ですか?」
ならば始祖にハイエルフがいるマーゴットと夢見の術は元々縁があったことになる。
「今、我が国の伯爵にハーフエルフが一人おる。彼に話を聞いてみてはどうかな」
「そうそう。転入する学園の学園長だ」
ハーフエルフの名はライノール伯爵エルフィン。エルフ族出身らしい名前だ。
既に200年近く生きているそうで、王家の相談役の一人だそうだ。
「我々にとってこの世界は現実だが、公女にとっては夢の中か。不思議なものだなあ」
グレイシア王女とよく似た黒髪黒目のテオドロス国王は、勝気な娘とは違って穏やかで、育ちの良い学者のような印象がある。
それに玉座にいるときと違ってプライベートではとても気さくだ。
彼は少し考えるような素振りを見せていたが、マーゴットたちには言わなかった。
代わりにバスケットの中のカーナがぴく、と尻尾を揺らめかせた。
さて本題はマーゴットの本来の目的である、望みの結果を得て現実に戻ることについてなわけだが。
「カーナは何とか回復したし、最悪、カレイド王家の問題が片付くまで他所に避難してもらおうかなと」
「守護者がカレイド王国にいなくてどうするのさ。最大に警戒してオレも一緒に戻るよ!」
バスケットの中から尻尾をフリフリさせて主張された。
「となると、やはりバルカス王子がネックなわけだな」
腕組みしてグレイシア王女が難しい顔になっている。
「どの夢見やループでも必ずバルカスが害を及ぼすの。良い方向に考えようとしても、考えるほどおかしくなってしまって」
「通常なら何十回と残虐に殺されているにも関わらず、それでもバルカス王子を擁護していたマーゴット公女の言動はあり得ない」
「……ですよね」
この辺りはループの中でも新しい回になるほど、グレイシア王女や学園の友人たち、それに血縁の雑草会の会員たちから指摘されていた。
どうやら、カレイド王国の王妃の魔の悪影響でマーゴット自身、かなり能力が阻害されている。
先日の魚切り包丁の浄化でほぼ悪影響からは脱しているが、本来のパフォーマンスを取り戻すにはまだ時間がかかるかもしれない。
「……だが、私ならこうも考える。そこまでしてバルカス王子を立てねばならない理由は何なのだね?」
「理由」
「言い換えれば、バルカス王子との関係であなたが得るメリットとは何か?」
「メリット」
考えてみれば、マーゴット側にバルカス王子と関わることへのメリットは、ほぼない。
むしろ、バルカス王子こそが、マーゴットの婚約者として将来的に王配になることで得られる利益が大きかった。
ただ、客観的に考えれば簡単にわかることなのに、どうも何かを忘れているような、もどかしい感覚があった。
そんなマーゴットの様子を見て、テオドロス国王は改めてハーフエルフの学園長に会いに行くよう勧めた。
「話を聞く限り、夢見の術自体をもっと調べたほうが良いだろうね。学園長は公女と同じハイエルフの血を引いているんだ。編入前に一度会いに行ってくるといい」
マーゴットが編入予定の学園はまだ大地震の影響で休校中だが、学園長は学期中は職員寮に住んでいて面会可能だそうだ。
王宮から先触れを出してくれるとのことで、明日は午前中に訪ねてみることになった。
「参ったよ……あの子、何をやっても行動原理が魔力増幅するようになってて、歩く台風みたい……うぷっ」
一日、ルシウス少年の首元でアクティブな子供に振り回された黄金龍のカーナは、夕方頃に返却された。
また小型のバスケットの中に収まったが、魔力酔いなのか、あるいは振り回されすぎて疲れたのか吐きそうになるのを必死で堪えていた。
そう、一日ずっとルシウス少年のネオンブルーの魔力を浴びまくった結果、なんとこの短期間でカーナが目を覚ました。
元の人の形に戻るにはもう少し時間がかかるとのこと。
マーゴットの滞在中は世話役としてグレイシア王女がつく。
執務や公務も最低限に留めるよう調整したそうで、リースト伯爵家の兄弟を見送った後、夕食後は彼女の私室で一緒に、ループ現象の整理をした。
「私も混ぜてほしい!」
とそこに乱入してきたのが、テオドロス国王だ。
「父上、執務はよろしいのですか?」
娘のグレイシア王女は呆れていたが追い返しはしなかった。
「ああ。幸い、昨日の地震の規模こそ大きかったが被害は少なかったからな。リースト伯爵家の半壊が一番大きかったぐらいで」
「カーナ殿のご神気の賜物でしょうね」
褒められてバスケットの中のカーナが照れたように黄金の尻尾を振ってみせた。
「父上、女子会に参加とは無粋ではありませんか?」
「そう言うかと思って茶と菓子を持ってきた」
一緒に連れてきた侍女たちが一礼してソファテーブルにティーセットを整えていく。
当のテオドロス国王は遠慮なくマーゴットの斜め向かい、グレイシア王女の横に腰掛けている。
「マーゴット公女の事情はグレイシアから報告を受けているよ。時を遡り何度も繰り返していると」
「それなのですが……」
マーゴットは、今朝がた思い出した夢見の術について国王親子に説明した。
「夢見か。昔読んだハイヒューマンの伝承で読んだことがあるよ。確かエルフ族の治癒術だったはず」
「エルフ族……それも治癒術、ですか?」
ならば始祖にハイエルフがいるマーゴットと夢見の術は元々縁があったことになる。
「今、我が国の伯爵にハーフエルフが一人おる。彼に話を聞いてみてはどうかな」
「そうそう。転入する学園の学園長だ」
ハーフエルフの名はライノール伯爵エルフィン。エルフ族出身らしい名前だ。
既に200年近く生きているそうで、王家の相談役の一人だそうだ。
「我々にとってこの世界は現実だが、公女にとっては夢の中か。不思議なものだなあ」
グレイシア王女とよく似た黒髪黒目のテオドロス国王は、勝気な娘とは違って穏やかで、育ちの良い学者のような印象がある。
それに玉座にいるときと違ってプライベートではとても気さくだ。
彼は少し考えるような素振りを見せていたが、マーゴットたちには言わなかった。
代わりにバスケットの中のカーナがぴく、と尻尾を揺らめかせた。
さて本題はマーゴットの本来の目的である、望みの結果を得て現実に戻ることについてなわけだが。
「カーナは何とか回復したし、最悪、カレイド王家の問題が片付くまで他所に避難してもらおうかなと」
「守護者がカレイド王国にいなくてどうするのさ。最大に警戒してオレも一緒に戻るよ!」
バスケットの中から尻尾をフリフリさせて主張された。
「となると、やはりバルカス王子がネックなわけだな」
腕組みしてグレイシア王女が難しい顔になっている。
「どの夢見やループでも必ずバルカスが害を及ぼすの。良い方向に考えようとしても、考えるほどおかしくなってしまって」
「通常なら何十回と残虐に殺されているにも関わらず、それでもバルカス王子を擁護していたマーゴット公女の言動はあり得ない」
「……ですよね」
この辺りはループの中でも新しい回になるほど、グレイシア王女や学園の友人たち、それに血縁の雑草会の会員たちから指摘されていた。
どうやら、カレイド王国の王妃の魔の悪影響でマーゴット自身、かなり能力が阻害されている。
先日の魚切り包丁の浄化でほぼ悪影響からは脱しているが、本来のパフォーマンスを取り戻すにはまだ時間がかかるかもしれない。
「……だが、私ならこうも考える。そこまでしてバルカス王子を立てねばならない理由は何なのだね?」
「理由」
「言い換えれば、バルカス王子との関係であなたが得るメリットとは何か?」
「メリット」
考えてみれば、マーゴット側にバルカス王子と関わることへのメリットは、ほぼない。
むしろ、バルカス王子こそが、マーゴットの婚約者として将来的に王配になることで得られる利益が大きかった。
ただ、客観的に考えれば簡単にわかることなのに、どうも何かを忘れているような、もどかしい感覚があった。
そんなマーゴットの様子を見て、テオドロス国王は改めてハーフエルフの学園長に会いに行くよう勧めた。
「話を聞く限り、夢見の術自体をもっと調べたほうが良いだろうね。学園長は公女と同じハイエルフの血を引いているんだ。編入前に一度会いに行ってくるといい」
マーゴットが編入予定の学園はまだ大地震の影響で休校中だが、学園長は学期中は職員寮に住んでいて面会可能だそうだ。
王宮から先触れを出してくれるとのことで、明日は午前中に訪ねてみることになった。