《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
国王陛下の執務室
翌日、カレイド王国のオズ公爵令嬢マーゴットがグレイシア王女と学園に向かったと報告を受けた、国王の執務室にて。
朝から宰相のグロリオーサ侯爵ユーゴスが鬱陶しかった。
この宰相は昨日、大地震で屋敷が半壊してしまったリースト伯爵メガエリスに、一貴族だけを優遇して支援はできないと突っぱねてしまった男だ。
六十代を越えた、如何にも仕事できる系の銀髪宰相ユーゴスは、メガエリスと同年、学生時代は彼のファンクラブ会長の過激派だった。
魔法剣士にして居合い剣士でもあったメガエリスに魅せられた彼は、だが、自分が彼の熱烈なファンであることをメガエリス本人に隠している。つもりだ。
本人はあくまでも宰相の職掌に忠実なつもりで支援を求めに来たメガエリス伯爵に憎まれ口を叩いてしまったのだが、結果的にメガエリスを苦境に陥れてしまった。
で、後から国ではなく自分の家から支援を申し出ようとしたが、本人からは当然、突っぱねられた。
自業自得な目に遭って落ち込んでいる。
「だから父上が口を酸っぱくして言っていただろう。リースト伯爵家の者は観賞用にするのではなく、親しく交わってともに切磋琢磨していくべき相手だと」
国王のテオドロスは呆れつつも、一応フォローはしてやっていた。
父上というのは先代国王のことだ。あの麗しの髭ジジ、メガエリス伯爵は先代国王の年下の幼馴染みで、腹心でもあった。
「お前のような奴をツンデレというらしいぞ。グレイシアが言ってた。影から見つめて讃えてないで、共に酒でも飲めば良いのに」
「そう簡単に申されますが、私めに彼を誘う勇気など……勇気など……!」
「いや、私相手にデレてどうする?」
黒髪黒目のテオドロス国王は嘆息しながら書類に判を捺した。
リースト伯爵メガエリスはテオドロスが物心ついた頃には既に魔道騎士団の団長で、父の先王の側に必ず護衛を兼ねて侍っていた。
そんな彼は居合いの達人だ。8本持つ魔法剣の他に細い長剣を腰に持っていて、それで対象を瞬殺する技の持ち主。
学園の高等部のとき、御前試合で初めてその技を披露したメガエリスを目の当たりにして、グロリオーサ侯爵ユーゴスはその鮮烈な姿に魅せられ、同じファンになった同級生たちと学内ファンクラブを設立して今に至るそうだ。
王都の学園には人気のある生徒や教員たちのファンクラブを自主的に作る文化があって、現在だとテオドロス国王の娘、グレイシア王女のファンクラブもあるらしい。
ちなみに、先王にもファンクラブはあったが、現国王のテオドロスはなかった。
アイドルを作って盛り上がっている生徒たちを笑いながら眺めていた立ち位置だった。
「さ、仕事をせよ、宰相。地震の被害は収束しそうか?」
「はい。倒壊するほどの被害はリースト伯爵家のみで、他は特にございません。死傷者も少ないようですが、部屋の落下物で怪我をした者は若干」
「結局、リースト伯爵家への支援は父上が行うそうだ。宰相、此度のことは減点1だからな」
「……はい」
あとの采配は文官たちや、各騎士団に任せれば良いだろう。
「さて、マーゴット公女はどうするか。高位貴族の令嬢というだけなら婦人たちの茶会だが、彼女は次期女王だからなあ」
元々、マーゴットからはアケロニア王国での留学中は、差し障りのない範囲で国の運営に関連する部署の視察や人々との意見交換をしたいとの希望が出されていた。
ただ、テオドロス国王から見た限り、マーゴットは知識や経験もまだまだ未熟なので、交流メインのほうが良いかもしれない。
「現役の国王として何か公女様にアドバイスをされるので?」
「うむ。優秀な配下を揃えておけば国は回る。彼女は特に女王だからな。妊娠出産や月のものなどで政務に就けぬときもあるだろうし、本人が頑張らずとも回る体制作りを勧めたい」
「……ご自分でお決めになった就業時間以外は趣味に没頭の国王らしいアドバイスですな」
「積極的に国を治めるのは娘の代に期待しよう。私は偉大な先王の後を固めるだけで精一杯」
テオドロス国王の父はヴァシレウス大王といって、“大王”の称号を永遠の国から賜った偉人だ。
その息子のテオドロスは何かと偉大な父と比較され続けている。
とはいえ当の本人はそんな噂を逆手に取った。
遠慮なく偉大な父王の業績に胡座をかいて、先王の時代の業績の穴や綻びを繕ったり、補強したりに専念している。
同じ王族の親子でもタイプが違うのだ。
「極論だが、王は玉座に座るだけでよい。玉座の飾りに負けぬ装いと威厳を持ってな。今回の留学で私が公女に伝えたいのはそれだけだな」
「ヴァシレウス大王陛下との謁見は如何致しますか?」
先王は既に退位した高齢者で、近年は大病で弱って離宮からも滅多に出てこない。
「滞在中、一度は離宮で茶を飲めるよう調整を。若い女子たちが行けば父上なら多少の不調は耐えてでも会うだろうからな」
あと気にかかる点があるとすれば。
「グレイシアみたいなやる気と元気のあるタイプの女王は、公女には向かんだろうなあ」
マーゴット公女の年齢は18歳。
公爵令嬢として、王族の一員として一通りの教育は受けているそうだが、テオドロス国王の目から見て、スタンスが固まっているとは言い難かった。
カレイド王家は彼女の伯父のダイアン国王の代から伴侶選びに失敗して、マーゴットはその尻拭いを周囲から期待されている。
そういった周囲の思惑は彼女自身の意思を掴みにくくさせているように見えた。
朝から宰相のグロリオーサ侯爵ユーゴスが鬱陶しかった。
この宰相は昨日、大地震で屋敷が半壊してしまったリースト伯爵メガエリスに、一貴族だけを優遇して支援はできないと突っぱねてしまった男だ。
六十代を越えた、如何にも仕事できる系の銀髪宰相ユーゴスは、メガエリスと同年、学生時代は彼のファンクラブ会長の過激派だった。
魔法剣士にして居合い剣士でもあったメガエリスに魅せられた彼は、だが、自分が彼の熱烈なファンであることをメガエリス本人に隠している。つもりだ。
本人はあくまでも宰相の職掌に忠実なつもりで支援を求めに来たメガエリス伯爵に憎まれ口を叩いてしまったのだが、結果的にメガエリスを苦境に陥れてしまった。
で、後から国ではなく自分の家から支援を申し出ようとしたが、本人からは当然、突っぱねられた。
自業自得な目に遭って落ち込んでいる。
「だから父上が口を酸っぱくして言っていただろう。リースト伯爵家の者は観賞用にするのではなく、親しく交わってともに切磋琢磨していくべき相手だと」
国王のテオドロスは呆れつつも、一応フォローはしてやっていた。
父上というのは先代国王のことだ。あの麗しの髭ジジ、メガエリス伯爵は先代国王の年下の幼馴染みで、腹心でもあった。
「お前のような奴をツンデレというらしいぞ。グレイシアが言ってた。影から見つめて讃えてないで、共に酒でも飲めば良いのに」
「そう簡単に申されますが、私めに彼を誘う勇気など……勇気など……!」
「いや、私相手にデレてどうする?」
黒髪黒目のテオドロス国王は嘆息しながら書類に判を捺した。
リースト伯爵メガエリスはテオドロスが物心ついた頃には既に魔道騎士団の団長で、父の先王の側に必ず護衛を兼ねて侍っていた。
そんな彼は居合いの達人だ。8本持つ魔法剣の他に細い長剣を腰に持っていて、それで対象を瞬殺する技の持ち主。
学園の高等部のとき、御前試合で初めてその技を披露したメガエリスを目の当たりにして、グロリオーサ侯爵ユーゴスはその鮮烈な姿に魅せられ、同じファンになった同級生たちと学内ファンクラブを設立して今に至るそうだ。
王都の学園には人気のある生徒や教員たちのファンクラブを自主的に作る文化があって、現在だとテオドロス国王の娘、グレイシア王女のファンクラブもあるらしい。
ちなみに、先王にもファンクラブはあったが、現国王のテオドロスはなかった。
アイドルを作って盛り上がっている生徒たちを笑いながら眺めていた立ち位置だった。
「さ、仕事をせよ、宰相。地震の被害は収束しそうか?」
「はい。倒壊するほどの被害はリースト伯爵家のみで、他は特にございません。死傷者も少ないようですが、部屋の落下物で怪我をした者は若干」
「結局、リースト伯爵家への支援は父上が行うそうだ。宰相、此度のことは減点1だからな」
「……はい」
あとの采配は文官たちや、各騎士団に任せれば良いだろう。
「さて、マーゴット公女はどうするか。高位貴族の令嬢というだけなら婦人たちの茶会だが、彼女は次期女王だからなあ」
元々、マーゴットからはアケロニア王国での留学中は、差し障りのない範囲で国の運営に関連する部署の視察や人々との意見交換をしたいとの希望が出されていた。
ただ、テオドロス国王から見た限り、マーゴットは知識や経験もまだまだ未熟なので、交流メインのほうが良いかもしれない。
「現役の国王として何か公女様にアドバイスをされるので?」
「うむ。優秀な配下を揃えておけば国は回る。彼女は特に女王だからな。妊娠出産や月のものなどで政務に就けぬときもあるだろうし、本人が頑張らずとも回る体制作りを勧めたい」
「……ご自分でお決めになった就業時間以外は趣味に没頭の国王らしいアドバイスですな」
「積極的に国を治めるのは娘の代に期待しよう。私は偉大な先王の後を固めるだけで精一杯」
テオドロス国王の父はヴァシレウス大王といって、“大王”の称号を永遠の国から賜った偉人だ。
その息子のテオドロスは何かと偉大な父と比較され続けている。
とはいえ当の本人はそんな噂を逆手に取った。
遠慮なく偉大な父王の業績に胡座をかいて、先王の時代の業績の穴や綻びを繕ったり、補強したりに専念している。
同じ王族の親子でもタイプが違うのだ。
「極論だが、王は玉座に座るだけでよい。玉座の飾りに負けぬ装いと威厳を持ってな。今回の留学で私が公女に伝えたいのはそれだけだな」
「ヴァシレウス大王陛下との謁見は如何致しますか?」
先王は既に退位した高齢者で、近年は大病で弱って離宮からも滅多に出てこない。
「滞在中、一度は離宮で茶を飲めるよう調整を。若い女子たちが行けば父上なら多少の不調は耐えてでも会うだろうからな」
あと気にかかる点があるとすれば。
「グレイシアみたいなやる気と元気のあるタイプの女王は、公女には向かんだろうなあ」
マーゴット公女の年齢は18歳。
公爵令嬢として、王族の一員として一通りの教育は受けているそうだが、テオドロス国王の目から見て、スタンスが固まっているとは言い難かった。
カレイド王家は彼女の伯父のダイアン国王の代から伴侶選びに失敗して、マーゴットはその尻拭いを周囲から期待されている。
そういった周囲の思惑は彼女自身の意思を掴みにくくさせているように見えた。