《夢見の女王》婚約破棄の無限ループはもう終わり! ~腐れ縁の王太子は平民女に下げ渡してあげます
現実まであと一段階
帰国後の対策会議
ハッとマーゴットが目を覚ますと、そこはアケロニア王国の王宮内、王族専用のサロンだった。
夕食後、親友のグレイシア王女と食後のお茶を楽しんでいるところにテオドロス国王がやってきたところだった。
「マーゴット公女。私の父の先王ヴァシレウスが近頃調子が良く、ぜひ公女にお会いしたいそうだ。明日の午後でどうかな」
「えっ? ……ええ、もちろん構いません。よろしくお願いします」
思わず正面のソファに座るカーナを見ると、黒髪と琥珀の瞳の優美な青年はパチン、と小さくウインクしてきた。
(夢見を一段階解除したのが、今の世界。まだ夢見の中だわ。でもヴァシレウス大王陛下にカーナが祝福したお酒を飲んでもらった効果はちゃんと持って来れたみたいね)
だが、エルフィン学園長の人物鑑定スキルでは少なくとも夢見は三重にかかっているという。
あと二段階を残していることになる。
「マーゴット、冒険者ギルド経由でお前宛にシルヴィス殿から連絡が来てるぞ。明日の夕方には任務から戻るので夕食の誘いだそうだ」
手紙を受け取ると、カーナと一緒に街で夕食を共にできないかとのこと。
「明日は会食の予定もないし。ごゆっくり?」
何だかグレイシア王女にニヤニヤ笑われて、ちょっとだけマーゴットは恥ずかしくなりながら、彼女の侍従に承諾の返事を返すよう頼んだ。
さて、夕食後のサロンで他には何を話していたのだったか。
「夢見のループ対策を考えないとね。帰国してまず直面するのは、マーゴットとバルカスの関係だろうし」
わかりやすくカーナが話を振ってくれた。
するとすぐに、マーゴットの記憶の中にもこれまで話していた流れが自然に浮かんでくる。
「いくつかの夢見で、バルカス王子絡みで夢から抜け出せなくなってループしているのだろう? それらの夢見で共通する出来事はなかったのかね?」
これまでのマーゴットたちの話を聞いて、テオドロス国王が内容をまとめてフローチャートを作ってくれている。
彼はこういった整理が得意なようだ。王というより文官向けのスキルだが、実際、王族に生まれてなければ学者になりたかったと以前言っていた。
「学園で、……そうですね、時間軸的にはこの後私たちが帰国した後、学園の中庭でバルカスは私を『娼館に売り飛ばす』という発言をしました」
「「!??」」
テオドロス国王の手からペンが落ちた。
グレイシア王女は紅茶に咽せて咳き込んでいる。
「何とおぞましい」
さすがに鷹揚な性格のテオドロス国王も顔を顰めた。
「恐らくその出来事がターニングポイントですわ。他にもバルカスとの間に軋轢はありましたが、彼との関係が一気に悪化しました」
そしてマーゴットに起こる出来事も悲惨になっていった。
あのときあの発言を聞いていたのは、マーゴットと友人たち、そして行った夢見の回によっては同盟国のグレイシア王女。
「バルカス王子の発言を、もっと大物の耳に入れるべきだな」
とグレイシア王女が冷静になって腕組みした。
「そうね。バルカスの行動を改めさせるには、婚約者の私、同盟国の王女のあなたでも足りなかった。王妃様は論外。隠蔽しようとするに決まってるわ。国王陛下も弱いかしら……」
例えば、神殿の大神官や教会の大司祭クラスならば、どの国、どのクラスの人間でも無碍にできない。
本来なら守護者のカーナだが、カーナをバルカス王子と合わせると害す可能性が高いため除外する。
そこでグレイシア王女がピンと閃いた。
「そうだ、カレイドの国王陛下でも逆らえない、究極の大人物が我が国にはいる!」
「えっ、それってまさか」
それこそ、グレイシア王女の祖父、ヴァシレウス大王だ。
彼は現在、円環大陸で唯一の大王の称号持ち。
そのお目当てのヴァシレウス大王は、円環大陸で唯一の大王の称号持ちだが、如何せん高齢でここ数年は大病をして弱っている。
とてもカレイド王国までの旅はさせられない。
「私が行っても良いのだが、父上ほどインパクトはないだろうしなあ」
テオドロス国王がのんびりと残念そうに呟いている。
彼は一国の王ではあるが、外見からはあまり威厳を感じさせない。覇気というなら娘のグレイシア王女のほうが強いぐらいだ。
「そもそも、カレイド王国の王太子がバルカス王子というのも、我々には初耳なのだが。国内はともかく、国外へは公女こそが王太女だと発表されているだろう?」
「……ええ。王妃の嘆願で、成人までの間だけ国内では王太子を名乗らせてやってほしいとのことで」
「やはり違和感があるね。なぜ、そこまでバルカス王子を優遇しているのか」
対して次期女王であるはずのマーゴットの立場がひたすら貶められている。
「オレたちが夢見の術を行うきっかけになったのは、オレがバルカスに魚切り包丁で斬られたことだったんだっけ? ……あの子は血筋順位は欄外だけど、案外力は強いのかもしれないね」
帰国したら、国王を問い詰めることと同時に、バルカス王子自身の調査も必要だろう。
そもそも守護者のカーナを害した異常行動についても、まだ謎が多い。
「バルカスは既に学園で平民の女性を恋人にして、私を蔑ろにしています。婚約破棄は難しくないけれど……」
親戚集団の雑草会は元々、今の国王夫妻とバルカス王子と対立していて批判的だ。
彼らの助けを得れば婚約破棄は容易のはず。
「マーゴット、バルカス王子の『娼館に売り飛ばす』発言はいつ発生するんだ?」
「ループの記憶はもう曖昧だけど、時期は夢見やループごとに不定な感じ。でも場所はいつも同じなの。学園内の中庭のあずまやで友人たちとお弁当を食べているときに偶然耳にするのよ。……グレイシア、あなたが一緒にいることが多かった」
ループによっては、グレイシア王女がカレイド王国まで留学しにくるパターンもあったわけで。
「次期女王として見聞を広げるのに、留学はとても良い。マーゴット公女が帰国するのに合わせてお前もカレイド王国へ行っておいで、グレイシア」
ここで父親のテオドロス国王の許可が出た。
夕食後、親友のグレイシア王女と食後のお茶を楽しんでいるところにテオドロス国王がやってきたところだった。
「マーゴット公女。私の父の先王ヴァシレウスが近頃調子が良く、ぜひ公女にお会いしたいそうだ。明日の午後でどうかな」
「えっ? ……ええ、もちろん構いません。よろしくお願いします」
思わず正面のソファに座るカーナを見ると、黒髪と琥珀の瞳の優美な青年はパチン、と小さくウインクしてきた。
(夢見を一段階解除したのが、今の世界。まだ夢見の中だわ。でもヴァシレウス大王陛下にカーナが祝福したお酒を飲んでもらった効果はちゃんと持って来れたみたいね)
だが、エルフィン学園長の人物鑑定スキルでは少なくとも夢見は三重にかかっているという。
あと二段階を残していることになる。
「マーゴット、冒険者ギルド経由でお前宛にシルヴィス殿から連絡が来てるぞ。明日の夕方には任務から戻るので夕食の誘いだそうだ」
手紙を受け取ると、カーナと一緒に街で夕食を共にできないかとのこと。
「明日は会食の予定もないし。ごゆっくり?」
何だかグレイシア王女にニヤニヤ笑われて、ちょっとだけマーゴットは恥ずかしくなりながら、彼女の侍従に承諾の返事を返すよう頼んだ。
さて、夕食後のサロンで他には何を話していたのだったか。
「夢見のループ対策を考えないとね。帰国してまず直面するのは、マーゴットとバルカスの関係だろうし」
わかりやすくカーナが話を振ってくれた。
するとすぐに、マーゴットの記憶の中にもこれまで話していた流れが自然に浮かんでくる。
「いくつかの夢見で、バルカス王子絡みで夢から抜け出せなくなってループしているのだろう? それらの夢見で共通する出来事はなかったのかね?」
これまでのマーゴットたちの話を聞いて、テオドロス国王が内容をまとめてフローチャートを作ってくれている。
彼はこういった整理が得意なようだ。王というより文官向けのスキルだが、実際、王族に生まれてなければ学者になりたかったと以前言っていた。
「学園で、……そうですね、時間軸的にはこの後私たちが帰国した後、学園の中庭でバルカスは私を『娼館に売り飛ばす』という発言をしました」
「「!??」」
テオドロス国王の手からペンが落ちた。
グレイシア王女は紅茶に咽せて咳き込んでいる。
「何とおぞましい」
さすがに鷹揚な性格のテオドロス国王も顔を顰めた。
「恐らくその出来事がターニングポイントですわ。他にもバルカスとの間に軋轢はありましたが、彼との関係が一気に悪化しました」
そしてマーゴットに起こる出来事も悲惨になっていった。
あのときあの発言を聞いていたのは、マーゴットと友人たち、そして行った夢見の回によっては同盟国のグレイシア王女。
「バルカス王子の発言を、もっと大物の耳に入れるべきだな」
とグレイシア王女が冷静になって腕組みした。
「そうね。バルカスの行動を改めさせるには、婚約者の私、同盟国の王女のあなたでも足りなかった。王妃様は論外。隠蔽しようとするに決まってるわ。国王陛下も弱いかしら……」
例えば、神殿の大神官や教会の大司祭クラスならば、どの国、どのクラスの人間でも無碍にできない。
本来なら守護者のカーナだが、カーナをバルカス王子と合わせると害す可能性が高いため除外する。
そこでグレイシア王女がピンと閃いた。
「そうだ、カレイドの国王陛下でも逆らえない、究極の大人物が我が国にはいる!」
「えっ、それってまさか」
それこそ、グレイシア王女の祖父、ヴァシレウス大王だ。
彼は現在、円環大陸で唯一の大王の称号持ち。
そのお目当てのヴァシレウス大王は、円環大陸で唯一の大王の称号持ちだが、如何せん高齢でここ数年は大病をして弱っている。
とてもカレイド王国までの旅はさせられない。
「私が行っても良いのだが、父上ほどインパクトはないだろうしなあ」
テオドロス国王がのんびりと残念そうに呟いている。
彼は一国の王ではあるが、外見からはあまり威厳を感じさせない。覇気というなら娘のグレイシア王女のほうが強いぐらいだ。
「そもそも、カレイド王国の王太子がバルカス王子というのも、我々には初耳なのだが。国内はともかく、国外へは公女こそが王太女だと発表されているだろう?」
「……ええ。王妃の嘆願で、成人までの間だけ国内では王太子を名乗らせてやってほしいとのことで」
「やはり違和感があるね。なぜ、そこまでバルカス王子を優遇しているのか」
対して次期女王であるはずのマーゴットの立場がひたすら貶められている。
「オレたちが夢見の術を行うきっかけになったのは、オレがバルカスに魚切り包丁で斬られたことだったんだっけ? ……あの子は血筋順位は欄外だけど、案外力は強いのかもしれないね」
帰国したら、国王を問い詰めることと同時に、バルカス王子自身の調査も必要だろう。
そもそも守護者のカーナを害した異常行動についても、まだ謎が多い。
「バルカスは既に学園で平民の女性を恋人にして、私を蔑ろにしています。婚約破棄は難しくないけれど……」
親戚集団の雑草会は元々、今の国王夫妻とバルカス王子と対立していて批判的だ。
彼らの助けを得れば婚約破棄は容易のはず。
「マーゴット、バルカス王子の『娼館に売り飛ばす』発言はいつ発生するんだ?」
「ループの記憶はもう曖昧だけど、時期は夢見やループごとに不定な感じ。でも場所はいつも同じなの。学園内の中庭のあずまやで友人たちとお弁当を食べているときに偶然耳にするのよ。……グレイシア、あなたが一緒にいることが多かった」
ループによっては、グレイシア王女がカレイド王国まで留学しにくるパターンもあったわけで。
「次期女王として見聞を広げるのに、留学はとても良い。マーゴット公女が帰国するのに合わせてお前もカレイド王国へ行っておいで、グレイシア」
ここで父親のテオドロス国王の許可が出た。