赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
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パーティーから帰った夜。自室の机で将周は小さな紙きれを射るような目で見つめていた。
千枝華が渡された名刺だ。
天王寺大和と書かれている。
将周は彼になにか不吉なものを感じ取っていた。
肩書はコンサルタント会社の社長となっているが、ざっくり調べたところそれはペーパーカンパニーだった。
実体のない社長が千枝華になんの用なのか。
手書きで添えられた電話番号が忌々しい。
調査会社に詳しい調査を依頼するべきか。
千枝華にも注意喚起をするべきか。
だが、余計な負担をかけたくはない。
迷ったのち、彼はスマホを手に取り、電話をかけた。
数コールで相手は出た。
「天王寺大和だな」
将周が言うと、スマホの向こうで笑うような気配があった。
「千枝華ちゃんにしか教えてない番号なのに。将周くんかな?」
「なれなれしく彼女の名を呼ぶな。どういうつもりだ」
「仲良くなれたらいいなーって思っただけ」
くすくすと男は笑う。
「無理だ。もう二度と接触するな」
「とられるのが心配? 余裕がないと本当になくしちゃうよ」
「黙れ!」
くすくすとまた男は笑う。
「まっすぐだねえ。嫌いじゃないよ。千枝華ちゃんはしっかり見張っておきなよ」
ぶつっと通話が切れた。つー、つー、というビジートーンすら大和の挑発のようでいらつく。
将周は名刺をぐしゃっと握りつぶした。
日曜日の午後、ピアノ教室からうんざりして帰る途中、その男は現れた。
「意外。車で送迎じゃないんだね」
千枝華は顔をひきつらせた。