赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
「君と仲良くなること。それ自体が私のメリットだよ」
 彼は魅惑的に微笑して千枝華を見つめる。
 大人の余裕、なのだろうか。
 千枝華は耐えられずに目を逸らした。思いがけず心臓がどきどきしてしまう。
「かわいいな」
 千枝華の肩をそっと抱く。
「酔っておられますか」
「君の美しさに」
 千枝華の頬に手を添える。
 彼女は顔を背け、肩を抱く手を振り払った。
「これ以上は、本当に人を呼びます」
「手厳しい」
 男性はくすくすと笑った。
「大丈夫そうなので、私は戻ります」
「待って。君の婚約者のことで話がある」
 歩きかけた足を止め、千枝華は振り返った。
「私は彼の秘密を知っているよ。知りたくない?」
「必要ありません」
 こういうのはたいてい中身のない話で、聞く価値はない。千枝華の気を引き、彼女の父、あるいは将周との繋がりがほしい人物によくある行動だった。女性の場合は千枝華と将周の仲を引き裂く目的の場合が多かった。
「肝が据わっているし、お嬢様なのにバカじゃない。ますます私の好みだ」
 男がまたくすくす笑う。千枝華は顔をこわばらせた。
「千枝華!」
 廊下の端から愛しい人の声がした。
 振り返ると、将周が走ってこちらに来るところだった。
「時間切れだ。連絡待ってるよ」
 彼は名刺を千枝華の手に握らせ、足早に歩き去った。
「すまない、すぐに来られなくて。あの男になにかされたか?」
「なにもないわ。むしろ助けてくれた人よ」
「本当に?」
「心配しすぎよ」
 千枝華は微笑した。
 将周は千枝華を抱きしめた。
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