赤金の回廊 ~御曹司に恋した庶民令嬢は愛に惑う~
「この図書室でおすすめってある?」
「ちょっと待ってください」
 ファンタジーの本をいくつかみつくろって持って来る。
「これは読んだな。こっちは初めて見る」
「SFとファンタジーの融合で面白いですよ」
「これも借りようかな。あ、もちろんこっちを先に読むよ!」
 新刊を差して、彼は言った。
 千枝華はにこっと笑う。
「急がなくていいですよ」
「じゃあ、明後日にしてもいい?」
「もちろんです」
「えっと……名前は?」
 恥ずかしそうに、彼ははにかんだ。
「一年の優木千枝華です」
「三年の五百里将周だ」
 千枝華ははっとした。学校一の秀才と名高く女子生徒の人気ナンバーワンの彼が目の前の人物だったからだ。
「じゃあ、明後日の放課後に」
 借りた本を手に、彼は図書室を去った。
 残された千枝華はどきどきと後ろ姿を見送った。

***

「あの男から名刺を渡されてたよね?」
 パーティーからの帰りの車で、将周は千枝華に尋ねた。
「もらったわ」
 バッグから取り出すと、将周はすっとそれを取り上げた。
「これは俺があずかっておく」
 千枝華は戸惑いながら頷く。捨てる予定だったから、なにも問題はない。
「花水木にまたからまれたって聞いた。千枝華が成金なら花水木だって変わらないのにな。そばに居られなくてごめん。トージーコーナーとシャトレーナの社長夫人に婚約者を守れってお叱りを受けたよ」
 花水木愛姫の父は服飾を扱う会社の社長で、二代目だ。
「私は大丈夫よ」
「すぐ我慢して。高校のときから変わってないな」
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