俺に夢中になれよ~純情秘書は溺甘副社長の独占欲を拒めない
5月もあっという間に過ぎていき、木下さんの最後の出勤日を迎えた。
挨拶回りに出勤した木下さんが、副社長室に戻ってきた。

「あっ、木下さん。副社長、たった今、会議室に行ってしまいました」
「いいの、さっき挨拶したから。青野さん、だいぶ慣れたみたいね」
「副社長は、殆ど自分でされるし、色々と教えてくれますから」
「青野さんには、優しいわね。安心したわ」

優しいのは嬉しいけど、それはきっと、頼りないからですよ・・・

「じゃあ、頑張ってね。仕事も恋も」
「恋・・・ですか?」
「あっ、いいの、気にしないで。若い者同士っていいわね。私も昔に戻りたいわ」
「あのー、何か勘違いを・・・」
「あっ、そろそろ旦那が迎えに来るから帰るね。ありがとう、青野さん」
「は、はい、お世話になりました」

木下さんは手を振って、慌ただしく帰って行った。
若い者同士?何の事だろう・・・まっ、いいか。
木下さんの言葉を、さほど気にせず、パソコンを開いて仕事をし始めた。

木下さんが退職して、副社長と2人きりで仕事をする毎日が過ぎていく。

「青野さん、印刷した資料、枚数確認して留めてくれる?」

複合機から取った書類は、一緒に外出した時に、皐さんと話をしていた内容の資料だ。
話、進んでるんだ・・・

「だいぶ進んだよ。このプロジェクト」
ホッチキス留めしている時、デスクに片手をついて、書類を覗き込むように、ふと後ろから声を掛けられ、ドキッとした。
「す、凄いですね」
「せっかく俺の傍にいるんだから、資料見たらいいよ」
「でも・・・」
「青野さんの事は、信頼してるから」
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