俺に夢中になれよ~純情秘書は溺甘副社長の独占欲を拒めない
そして、木下さんが退職してからの2人の時間。
仕事に集中している時はいいが、ふと油断し、青野さんを意識した途端、本能が剥き出す。

ある時は、会議資料の準備を青野さんに依頼した時、振り向いた彼女の目を見て、息を呑む。
無意識に、手に触れそうになり、ふと我に戻り、慌てて書類を取った。

そして金曜日の定時前になると、いつもイライラしてしまう。
俺に向ける笑顔は、富山君へと向けられる。
もっと・・・楽しそうに話すんだろう。
そう思うと、青野さんへの態度も冷たくなってしまう。

嫉妬が態度に出るなんて。
そう思っても、体は勝手に反応してしまった。
2人が話をしているのを直接見ると、胸が苦しくなるのと同時に、俺の秘書だぞと示したくなる。
余裕の無さに情けなくなる。

そんな富山君が、急に退職することになった。
本人に問題があるとしても、きっと寂しいだろう。

そう思って、気晴らしに外に連れ出し、夜景を見たことのない青野さんが涙を浮かべた時・・・

今日は金曜日。
本当なら富山君と食事をしていたんだろう。
俺には言わないけど、きっと寂しいはずだ。
その涙が富山君のことを思い、悲しみの涙かと思うと、嫉妬にかられた。

『いえ、夜景があまりにも綺麗で・・・』
目に涙を浮かべ、煌めく夜景よりも、輝く瞳で海を見つめる青野さんが、微笑む姿を見た瞬間…

思わず我を失い、衝動的に抱きしめようと手が伸びた。
何とか頭に触れるだけで留まったけど・・・

触れてしまったことで・・・
もう、この感情が抑えられるのも、限界まできているのが分かった。
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