俺に夢中になれよ~純情秘書は溺甘副社長の独占欲を拒めない
部屋に戻ると、副社長が上着を着て、出掛ける準備をしていた。
「青野さん、今から外出するけど、一緒に行こうか」
「私みたいなのが、付いて行ってもいいのでしょうか・・・」
「もちろんさ。木下さん、あと、宜しくお願いします」
「はい、いってらっしゃい」
私の不安顔とは反対に、木下さんに笑顔で見送られ、2人は部屋を後にした。

2人で初めての外出。
秘書として、どんな風に振る舞えばいいんだろう。
手帳片手に、凜として立っているのかな・・・

助手席に乗ると、緊張が増してきた。
「青野さん、シートベルトしてくれる?」
「あっ、はいっ!」
慌ててシートベルトを締めようとするけど、上手くはまらない・・・
「貸して」
副社長がベルトを引っ張ってセットしてくれた。
あまりの距離の近さに、胸の鼓動がさっきより激しく高まる。

「そんなに緊張しなくていいよ。隣にいるだけで大丈夫だから」
「は、はい。でも、秘書らしいこと、何も出来て無くて」
「話を聞いてると、会社の動きや、その人がどんな人か分かるだろ?そういう目と耳を養って欲しいんだ」
「なんだかもっと、緊張してきました・・・」
「君は、澄んだ目と心を兼ね備えている。曇り無き心を持った君なら、大丈夫だよ」

そんな事言われるの・・・初めて。
穏やかに微笑みながら、色気交じりのさりげない言葉。

今までの上司と違って戸惑う・・・
車で行く道のりも、助手席に座って、仕事の緊張と副社長へドキドキしっぱなしだった。

「来週から木下さんが休みだから、不安だろ?」
「はい・・・色々と覚えることばかりで・・・」
「そうだね。でも、俺の事は心配しなくていいし、何でも聞いてくれたらいいから」

木下さんは、副社長は淡々と話をするって言ってたけど、私にはいつも優しい。

木下さんとは、的確な指示と無駄の無い会話で仕事をしていた。
淡々と話す副社長は、冷たいんじゃなくて、相手を尊重してるように見えた。

仕事に慣れてないから・・・そう思っていたけど・・・
違う気がする。

優しいのは年下で、まだまだ頼りないから?
相手にならない・・・のかな・・・
子供扱いされている気がする。

女性としての魅力が足りないのかな・・・
そもそも、女性として見ていないのかも・・・

私はこんなにドキドキしてるのに・・・
嬉しいはずなのに、最近、優しさがとても寂しく感じる。

「社内の人達とは、一緒に仕事することが無いから、話す機会も少ないね」
「そうですね・・・あっ、でも、同期の富山君が話しかけてくれますし、明日、同期会することになりました」
「・・・そうか」

さっきとは違う、一瞬冷たい目つきと声で、空気が変わった。
気のせい・・・かな?
仕事もまだ出来てないのに・・・なんて、思われたのかも・・・
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