ごめん、キミが好き《短編・完結》
着信は…
豊さんだった。
「はい…。」
『もしもし?ユイちゃん、今日は取り乱してごめん。家…着いたかな。』
豊さん、悪いのは私だよ。謝らないで。
「そんなっ…謝らないで…。私が悪いのに。」
『いや、元々ユイちゃんの弱みに付け込んだのは俺だからね。電話したのは、伝えたい事があって…。』
「伝えたい事…?」
少しの沈黙で、豊さんが話し始めた。
『今日、タクマ君と握手した時…すごい力で握られたんだ。俺の手にアザが残るくらいのね。』
「え…?」
『…ユイちゃん、大人ぶらないで自分に素直になればいい。幸せになってよ。』
「豊さん…」
さっきまで流れてた涙がまた溢れだす。
『俺が言いたいのはそれだけ。じゃあ、本当にさよなら…。』
「豊さん、…ありがとう。」
震える声をこらえて、私はそっと電話を切った。
その間もタクシーは、どんどん景色を変えて家へと向かって行く。
部屋に入ると、私は豊さんのくれた言葉を思い返した。
タクマが強く手を握った意図は分からない。
でも、゛自分の気持ちに素直に…゛
タクマはきっと今、彼女と一緒に居る。
まだ日本にいるはずだから、明日の朝に電話してみよう。
携帯の番号は変わってないって、この前電話で言ってたよね…。
迷惑になるかもしれないけど、気持ちだけ伝えたいの…。
ママとの約束はもう時効。
伝えたい。
今さら、迷惑になるかもしれないけれど、寝顔のタクマじゃなくて、きちんと伝えたいの。
ずっとはずせずにいた、タクマとお揃いのストラップの付いた携帯を、握りしめたまま私は眠りについていた。