ごめん、キミが好き《短編・完結》
駅を出ても、都心から離れたこんな町じゃ人通りも少ない。
いつもタクマが迎えに来てくれてたから、気にした事がなかった。
タクシーも捕まらないから仕方なく早歩きで家に向かう。
カツカツカツ―
まだ履き慣れない新しいヒールの音が鳴り響く。
コツコツコツ―
?
後ろに誰かいる。
怖いかも。
少し早歩きをしてみると、その足音も一緒に早くなる。
やだ。
怖い。
カツカツカツッ―
コツコツコツッ―
足音が私に追い付いてしまった。
「きゃ…―!!」
肩を捕まれ振り向くと、全く知らない男の人が、すごい形相で私を見下ろした。
「や…はなし…て…」
恐怖で震える声をなんとか絞り出す。
「危ないよお姉さん…。こんな時間に…。僕が送ってあげる…。」
その一言ひとことが、何とも言えない不気味さを物語っていた。
「さあ、こっちへ…!」
嫌!
この人おかしい!
タクマ…怖いよ。
助けて…
…なんて…
タクマがこんな時間に、こんな所に来る訳がない。
恐怖感でもう声も出ない。
周りには誰もいない。
力が入らない。
私はどんどん細い道に引っ張り込まれていく。
やだ。
やだ。
「タクマ…助けて…。」
絞りだした小さな、微かな私の声。