ごめん、キミが好き《短編・完結》
「あ!泣きすぎて喉乾いちゃった!パパ、売店行きましょう?」
ママが言い出した。
「ん?ああ、そうだな。聡さんも何か買ってきますよ。」
「いや、私も買いに行くよ。手続きもあるし。タクマ、10時半には搭乗口だぞ。」
「ああ。分かったよ。」
ママ…?
残されたタクマと私。
10時半まであと15分。
「ユイ、最後に抱き締めていい?」
すっと手を広げたタクマの両手に…腕に…吸い込まれる様に、私はタクマの胸に顔をうずめた。
「頑張ってくる。弱音なんて吐かない。」
自分に言い聞かせるように、ぎゅっと私を抱き締めた。
「うん。頑張って。タクマなら大丈夫。」
タクマが少し体を離して私の頬に手を触れる。
手が、少し震えてる。
私のおでこに自分のおでこを当てて…目を閉じる。
「ユイ…。…本当に……本当に…好きだった…。」
タクマの目じりから、綺麗な綺麗な筋が通った。
「タクマ………っ。」
私は、そのタクマの涙を、目に焼き付ける様に見つめた。
時間が止まればいいのに。
現実はそんなに甘くない。
タクマは、涙を拭いて、聡おじさんと一緒に、搭乗口に吸い込まれて行った。
泣き出してしまった私を黙って抱き締めてくれたのは、ママだった。
ママは私の気持ちを全部分かってたみたい…。
さすが母親。