ごめん、キミが好き《短編・完結》
「タクマ、例の案件どうなってる?」
父さんが朝食の最中、心配そうに俺に聞いてきた。
俺はコーヒーを一口飲むと、少しため息混じりに新聞を閉じる。
「父さん、大丈夫だよ。上手く進んでる。俺には杏奈っていう強力なパートナーがいるから心配しないで?」
「そうか…。」
父さんは寂しそうに呟いた。
「それより、父さんは自分の事だけ考えてよ。何かあったら最終的に頼れるのは、父さんだけなんだよ?早く元気になってもらわなきゃ。」
父さんは1ヶ月前、脳卒中で倒れた。命までは落とさなかったものの、危ない所だったんだ。
もう二度とあんな怖い思いはしたくない。
治療には時間も必要だし、専念するためにも…と、たった数週間で俺が社長の後を引き継ぐ事になった。
元々、1年前くらいから社長の仕事は俺がほとんどこなしてたから、仕事自体の不安はなかった。
でも、父さんにああは言ったものの、正直不安なんだ。
俺はまだそんな器じゃないのに、尊敬する父さんの後をこんなにも早く継ぐ事になるなんて。
でも、そんな事言ってられない。弱音なんて吐かない約束だ。
誰とって?
ユイしかいないよね。