ごめん、キミが好き《短編・完結》
「社長。…社長?」
杏奈が俺を呼ぶのを、気付くのにまだまだ時間がかかる。
「ああ、杏奈。どうしたの?」
少し呆れた様に、杏奈が書類を目の前の社長の机に…俺の机に並べる。
「日本支社についての詳細です。…社長、本当に日本行くおつもりですか?」
「ああ、もちろん。社長の俺が就任のあいさつをしない訳にもいかないだろ?」
杏奈が不服そうに俺を見つめる。
「わかってる。あいさつだけが目的じゃない。認めるよ。でも、これはずっと決めてた事なんだ。」
俺は頭を掻きながら、イスから立ち上がった。
「私もついて行く。」
杏奈はそっと俺の腕をつかんだ。
一気にプライベートモードになる杏奈に戸惑いながらも、きっぱりと俺は断言した。
「杏奈、何度も言うけど…はじめから杏奈とは婚約を解消してるんだ。何を言っても無理だよ。」
「わかってるもん…。」
少し間が空いてから杏奈の表情がキリッとなる。
「わかりました。会長の事は私に任せて下さい。日本への航空チケットを手配します。」
「ありがとう。君を本当に頼りにしてる。」
すっと杏奈の横を通り過ぎて、俺は社長室を出た。
少し泣きそうな顔しているのが見えたけど、思わせ振りな情はかけない。
杏奈もわかってる。