ごめん、キミが好き《短編・完結》
静かなお店。
品の良い料理達が次々とタイミングよくテーブルに並べられる。
いつもなら、楽しい食事のはずなのに…落ち着きのない私。
「ユイちゃん?あんまり美味しくない?」
豊さんの言葉にハッとして慌てて我に返る。
正直、今の私の舌は申し訳ないくらいに機能してないと思う。
「ううん!美味しいよ。すごいお洒落なお店だし。でも…高そう…。」
私の以外な反応に豊さんが笑う。
「ユイちゃんと食べてればどんな食事も安いもんだよ。」
この笑顔だ。
この笑顔と優しさに何度も救われた。
私は豊さんの顔をまっすぐに見つめた。
タクマの帰国に対しての動揺が、少し薄れた瞬間だった……。
静かだった店内が少しざわついた。
みんなが注目するその席に、私も視線を向ける。
そこには、一組のカップルが座っていたんだ。
「ユイちゃん…あれ…。」
豊さんが遠慮がちに私の方を見た。
ついさっき薄れたばかりの動揺は、一気に私の心臓を鷲掴みにしてしまった。
だってそこには、楽しそうにメニューを見るタクマと、写真に写っていた女の人がいたから。
私は直視出来なかった。
゙婚約者゙
タクマの幸せは嬉しい。
でも
まだその幸せを目の前に出来るほど私は強くない。
すると、タクマが私に気が付いてしまった。
「ユイ!」
嬉しそうに私のテーブルへ歩いてきた。