ごめん、キミが好き《短編・完結》
「豊さ…」
顔を上げたその瞬間、豊さんにキスをされた。
今までとは違う、激しい…キス。
本気だ。
力強くベッドに連れていかれる時に、私は決心した。
この人と生きて行く。
タクマの事は胸にしまったはずだから。
豊さんの手が私の体にそっと触れていくのを、ただ黙って受け入れた。
なのに、ふいに豊さんの手が止まった。
「…?…」
私は薄暗いベッドの上で、豊さんを見上げる。
「やっぱり…無理なんだね。」
豊さんが私の頬を拭った時、初めて自分の目から涙がこぼれてる事に気が付いた。
「え……?!」
豊さんは、黙ってベッドの脇に座り直すと、静かに言った。
「別れよう。」
゛別れ゛
なんて事したんだろう私。
「もう君の心から、タクマ君を消す自身が俺にはないよ。」
口を覆うその豊さんの手は、少し筋張っていた。
「豊さん…私、本当にタクマの事は…!」
彼は荒々しくベッドから立ち上がると、私にコートを手渡してきた。
「ユイちゃん、自分が一番分かってるだろ?帰ってくれると助かる。じゃないと…、俺は今から君をきっとめちゃくちゃにしてしまう。俺だってそんな出来た人間じゃない。」
通じない。彼に、誤魔化しなんて通じないんだ。
私は服を直してすぐにコートを受け取った。
誤魔化しちゃいけない。これ以上甘えてもいけない。彼を、もう傷付けてはいけないの。
「本当に…ごめんなさい……。」
深く頭を下げて、部屋を後にしようとした瞬間、腕を捕まれて驚いた。
「君を、本当に愛してたよ。」
こんな時にまで、優しくしてくれる彼は、本当に素敵な男性だ。
「私も、本当に愛してました。」
嘘じゃない。
本当に、確かに愛はあったの。
「信じてもらえないかもしれないけど…。」
「ああ…。嘘じゃないと思ってる。ありがとう。」