マスカレードknight ~サンタ マリア~
いつも何かを覚悟する眼。

亮ちゃんの背中にはナオ達が知らない、綺麗な紫の(はな)が咲いてる。それは誇りでもあるし、ときどき負い目にもなって亮ちゃんを(さいな)んで見えた。

「戸籍上は津田が父親だ。子供の将来を考え」

「お父さんは亮ちゃん。生まれたら、ちゃあんと自己紹介してあげてね?」

にっこり笑って先回り。言いたそうなことは何となく分かったから。

ほんの少し眼差しを歪めた亮ちゃんは、黙ってわたしの額にキスを落とす。

亮ちゃんはきっと子供を望んでなかった、父親らしいことはできない・・・って。内緒でわたしは神様にもお母さんにもお願いしてた。

会えるのは二ヶ月に一度くらい。一晩しかいられないこともあれば、数日いられることもある。見送るときは笑顔で『行ってらっしゃい』と『待ってる』と『心配しないで』。次の約束はねだらない。

限られた時間しかない二人に授かった命は、ほんとうに奇跡。

「この子は、わたしと亮ちゃんが一緒に生きた証だもん」

膨らみもないお腹にそっと手を添えると、優しく抱き寄せられた。

「ああ・・・そうだな」

頭の上で愛おしむように聞こえた。

ありがとうが聞こえた、声にならない声で。

胸がいっぱいになった。亮ちゃんが、お父さんになるのをやっと自分に赦せた気がして。
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