マスカレードknight ~サンタ マリア~
「そろそろ戻るか」と亮ちゃんに促され、慌ててお化粧直し。手を動かすたび鏡の中で揺れる指輪は夢じゃない。今はただ、この幸せに少しでも長く浸っていたい。

身支度を整え終わり、どっちからともなくキスを交わすと、やっぱり寂しいような気持ちになってつい亮ちゃんを呼び止めた。

「どうした」

甘い余韻が仄かに残る眼差し。

「えぇと・・・、今日はずっといられる?」

いつもは聞かない。でも今夜だけ。奥さんになれた特別なイブは二度と来ないから。

「明里はどうして欲しい」

「朝まででいいから一緒にいて、亮ちゃん・・・」

「それで足りるのか?」

え?

訊き返そうとした刹那。足が絨毯から離れて体が浮き、今度は亮ちゃんにお姫様抱きされてた。

「しばらく俺に付き合ってもらうぞ、社長命令だ」

何のことか分からないまま運ばれる。

廊下に出てもやけに静かで、声も聞こえてこないのが不思議だった。角を曲がり、飛び込んだその光景に瞬きを忘れた。

社長も津田さんも誰もいない。代わりに、わたしの背丈よりありそうな立派なモミの木が入り口脇に。

飾り付けは天辺にお星様。ベビーベッドにベビーカー、大きなテディベアのぬいぐるみやリボンのかかった大小の包みが、ぐるりと周りを囲んでる。

「これって・・・」

茫然とするわたしをそっと下ろした亮ちゃんは困ったように、それでいて誇らしげに笑む。

「サンタクロースが大勢いて良かったな」
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