マスカレードknight ~サンタ マリア~
サングラスをかけた黒スーツの運転手さんは一度も口を開かずに車を走らせ、窓側の津田さんはわたしの手を握ったまま目を閉じてしまった。

つまり、行き先がどこかとか、この手はずっとつないでるのかとか、ウェディングドレスをいつまで着てるのかとか。訊くに訊けない。

きちんとスタイリングした髪型のせいか、なんていうかこう、普段よりシャープな雰囲気の津田さん。女子社員には感情がない機械人間みたいに思われて、付き合ってることにした時も七不思議だって噂されたらしい。

亮ちゃんほどじゃないにしてもバランスの取れた顔立ちしてるし、相手には困らないだろうと思うのに。結婚までさせちゃってよかったのかな。しかも『お父さん』。溜息がもれた。

ともかく津田さんに好きな人ができたら、すぐに離婚してあげよう。浮気?も不倫?も自由にしてもらおう。いざとなったら独りで育てる覚悟はできてる。大丈夫・・・!

「・・・・・・小動物の脳ミソで考えても無駄だからやめろ」

「そうですけど・・・」

つられて答えてから、狸寝入りだったらしい津田さんと目が合い、はたと気付く。

「えぇとわたし、口に出してました??」

「匂いで分かるんだよ」

におい?

「いいから考えるな、俺の好きにさせろ。以上」

うんざりして聞こえたかと思うと、ふいに唇を盗まれた。

「ここからは時間外だ。手当の先払いにもらっといてやる」

移った口紅を指で拭い取りながら当然のように。

津田さんは、報酬の要求基準がよく分からなくてちょっと困る。
< 8 / 22 >

この作品をシェア

pagetop