あなたには言えない
1月の終わり頃、私はいつものようにバイトが終わりA駅から歩いて家に帰っていた。

バイトを始めて陸玖と会う時間も減り、考えないようにしていた。
陸玖もあれから何も言ってこない。
『普通の家族のように過ごせている。これでいいんだ。』
そんなことを思いながら歩いていた。

公園の横を通っていたときだった。
突然、手を引っ張られ、口を塞がれた。
『え?何?』
何が起こっているのかさっぱりわからないまま、手を引かれていた。

暗がりでよく顔は見えないけど、20代ぐらいの黒い服着た男だった。

『あ、これは私ヤバい状況らしい。』
私は我に返り状況を理解し始めた。

しかし、男の人の力は強く抵抗する気力すら起きなかった。

そして、公園の目立たない場所に連れて行かれ、押し倒された。

『ああ、私、もう終わりだ。』
そう思い目を瞑っていた。

すると、上乗りになっていたはずの人の気配が消えた。
私は恐る恐る目を開けると、黒い服をきた男は隣でしりもちをついていた。

『え?どういうこと?』
目の前に、陸玖の姿があった。

そして男は逃げるように走り去っていった。

「あ、ありがとう。」
陸玖にお礼を言った。
陸玖は私を抱きしめた。

「良かった。」
陸玖は私を強く抱きしめながら、ホッとしたような声で言った。

陸玖は私の手を引き、起き上がらせてくれた。
「ありがとう。」
私はもう一度お礼を言った。

「美月、これからは駅から一人で帰って来るな。
俺が迎えに行くし、バイトの日は駅で待ってて。」
陸玖は強い口調でそう言った。
「あ、はい。」
私は素直に返事をした。

それから、陸玖は私がバイトの時は必ず駅に迎えに来てくれていた。
陸玖のバイトの日は待ち、陸玖と一緒に帰るようにした。
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